363 / 601
夏休みのお出かけ編
水原家にて 20
しおりを挟む
――一方その頃。
「今頃、涼音と夏美はなにをしているのかしら」
「は? ちょっと待ておい」
鉛筆を置いて、身体を伸ばした涼香の腕を掴んだ彩。
「離しなさい、脇腹は弱いのよ」
「触ってほしいの?」
「やめなさい、なにも話さないわよ」
「…………」
なにも言わずに彩は涼香を離す。
そして、さっさと説明しろと目で訴える。
「仕方がないわね、どこから話そうかしら……。そうね、あれは私が高校へ入学した――」
「そういうのいいから!」
まともに話す気の無い涼香の脇腹を掴む。
「ふぶっ、ちょっと綾瀬彩!」
「あんたが悪いんでしょうが!」
夏美がどこかへ出かけるというのは知っていたが、まさか涼音と出かけているとは思いもしなかった。
「さっさと説明、あたしなにも聞いてないんだけど?」
「涼香、言う時がきたのよ」
涼香の母がそれっぽい雰囲気で涼香に話すよう促す。
やれやれと首を横に振った涼香である。
もう一回脇腹を触ると、頬を膨らまされた。
「私が言ったのよ、夏美に。明日涼音は暇だと」
涼香が夏美にそう言うと、早速夏美は涼音に連絡をした。
「でも檜山は嫌がるんじゃないの?」
彩も、夏美から聞いたり、涼香から聞かされたりして、涼音が同級生には素っ気ないということを知っている。
「そうね、無視してたし夏美を覚えていなかったわね」
「はあ? あいつマジなんなの?」
だからといって夏美を忘れていいということではないのだが。そんな彩を手で制する涼香。
「大丈夫よ、ただの照れ隠しだから、知らないけど。……あなたみたいなものね」
普段はバカなはずなのに、時たまこうして、他人の心を見透かしたようなことを言う。
「別に照れ隠しなんてしてないから、本心だから」
「あら、それなら涼音に嫉妬でもしているのかしら?」
「はあ……? それも……違うから」
「あらそう。まあ、それ以上は踏み込まないわ」
照れ隠しや嫉妬はもちろんしているのだろうが、彩の言葉の通り、それ以外にもありそうだ。
だけどそこまでは踏み込まない。相談されれば別だが。
そんな涼香の気持ちが伝わったのだろう。俯いた彩は唇を噛み締める。
「……うっざ」
と、声を漏らした彩の前に、コトリと涼香の母が紅茶を置く。
「休憩しましょうか」
「はい……ありがとうございます」
「今頃、涼音と夏美はなにをしているのかしら」
「は? ちょっと待ておい」
鉛筆を置いて、身体を伸ばした涼香の腕を掴んだ彩。
「離しなさい、脇腹は弱いのよ」
「触ってほしいの?」
「やめなさい、なにも話さないわよ」
「…………」
なにも言わずに彩は涼香を離す。
そして、さっさと説明しろと目で訴える。
「仕方がないわね、どこから話そうかしら……。そうね、あれは私が高校へ入学した――」
「そういうのいいから!」
まともに話す気の無い涼香の脇腹を掴む。
「ふぶっ、ちょっと綾瀬彩!」
「あんたが悪いんでしょうが!」
夏美がどこかへ出かけるというのは知っていたが、まさか涼音と出かけているとは思いもしなかった。
「さっさと説明、あたしなにも聞いてないんだけど?」
「涼香、言う時がきたのよ」
涼香の母がそれっぽい雰囲気で涼香に話すよう促す。
やれやれと首を横に振った涼香である。
もう一回脇腹を触ると、頬を膨らまされた。
「私が言ったのよ、夏美に。明日涼音は暇だと」
涼香が夏美にそう言うと、早速夏美は涼音に連絡をした。
「でも檜山は嫌がるんじゃないの?」
彩も、夏美から聞いたり、涼香から聞かされたりして、涼音が同級生には素っ気ないということを知っている。
「そうね、無視してたし夏美を覚えていなかったわね」
「はあ? あいつマジなんなの?」
だからといって夏美を忘れていいということではないのだが。そんな彩を手で制する涼香。
「大丈夫よ、ただの照れ隠しだから、知らないけど。……あなたみたいなものね」
普段はバカなはずなのに、時たまこうして、他人の心を見透かしたようなことを言う。
「別に照れ隠しなんてしてないから、本心だから」
「あら、それなら涼音に嫉妬でもしているのかしら?」
「はあ……? それも……違うから」
「あらそう。まあ、それ以上は踏み込まないわ」
照れ隠しや嫉妬はもちろんしているのだろうが、彩の言葉の通り、それ以外にもありそうだ。
だけどそこまでは踏み込まない。相談されれば別だが。
そんな涼香の気持ちが伝わったのだろう。俯いた彩は唇を噛み締める。
「……うっざ」
と、声を漏らした彩の前に、コトリと涼香の母が紅茶を置く。
「休憩しましょうか」
「はい……ありがとうございます」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。
ほんのりと百合の香るお話です。
ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。
イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。
★Kindle情報★
1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
★第1話『アイス』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
★Chit-Chat!1★
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
矢倉さんは守りが固い
香澄 翔
青春
美人な矢倉さんは守りが固い。
いつもしっかり守り切ります。
僕はこの鉄壁の守りを崩して、いつか矢倉さんを攻略できるのでしょうか?
将棋部に所属する二人の、ふんわり将棋系日常らぶこめです。
将棋要素は少なめなので、将棋を知らなくても楽しめます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる