332 / 583
母による進路相談?編
水原家にて 11
しおりを挟む
勝ち誇った顔の母を、涼香は黙って見つめる。話の続きを待っている様子だ。
この二人の会話についていきたくない涼音は、食べ終えたアイスのカップとスプーンを持って台所へ向かう。
ごみを捨て、スプーンを洗い桶の中に入れて戻ってきたが、二人は一時停止中らしく、話始める気配が無かった。
「はい、スタート」
涼音は両手をパチン、と合わせる。
二人が話している隙に、髪の毛を乾かしに行こうと思ったのだが我慢だ。
涼音の合図を皮切りに、まずは涼香の母が話す。
「勉強をすれば、自分になにができるのか、なにをすることができるのか、それらを考える力を養うことができる。あと、知識は多い方が、将来の選択肢が増えていいわよ」
「選択肢が増える……よく聞く言葉ね」
そう言うと思っていたわ、とでも言いたげに返す涼香に、母もそう言うと思っていたわ、とでもい言いたげに返す。
「ならなぜ、その言葉はよく聞くのか。あなたは考えたことあるかしら?」
思いもよらないカウンターに涼香が押し黙る。
「おお……屁理屈コネリストの先輩が黙った」
「涼音、私はそこまで屁理屈をこねたこと無いと思うわ」
涼香のみゅっとした視線を受けて涼音は肩をすくめる。
「ここで屁理屈をこねるようなら、お父さんに言っていたわ」
涼香の母は、心底安心した様子で息を吐く。
「私は天才よ。そんな面倒なことになることはしないの」
「先輩のお父さんかわいそうですね。はい脱線しかけてるんで戻してください」
脱線の雰囲気を感じた涼音が軌道修正する。その脱線のきっかけを作ったのは涼音なのだが気にしない。
「私が言いたいのは簡単なことよ。勉強して、考える力をつけて選択肢を増やしなさい」
おおよそ高校三年生に言う言葉では無いような気もするが、涼香の母は今この話をしても大して問題にならないと確信していた。
「なるほど、そうくるのね」
なにがなるほどなのか、母にも涼音にも分からない。
謎に納得している涼香の頭の中では、てんさいてきなほうていしきがいっぱいけいさんをして答えを導き出した。
「涼音の可愛さを知ってもらう別のアプローチを考えろというわけね」
「そこに繋がるでしょうけど……」
あまりの飛躍に、理解はできるが戸惑う涼香の母に、涼音は大きく頷く。
「私の頭の中は余人には到底理解できないわ」
「なら、とりあえずこの大学へ進学できるように頑張りなさい」
勉強してくれるのなら別にいい。きっかけはなんだっていいのだ。
そう言って涼香の母がどこからか取り出したのは、とある大学のパンフレット。
どうせ本人任せにしたら、とりあえず国立大学に行くわ! と言うだろう。
今からだと、さすがの涼香でも無理だ。高校一年の頃から頑張らせれば行けたのだろうが。
「あら、これは……委員長が進学した学校ね。確か若菜もここに行くと言っていたわ」
「あー確か、委員長かなり学校のレベル下げてましたよね」
出されたパンフレットを眺めて二人は記憶を確認する。
委員長――宮木紗里は、涼香の一つ上の図書委員長のことだ。上級生で、唯一涼香のドジっ子を知っており、なおかつそのフォローをできる人だ。
涼香の母がこの大学を選んだのには理由がある。
涼音も、なぜこの大学なのか、その理由に察しがついた。
「そう、その委員長もあなたが来れば色々と助かることもあるでしょう。それに、若菜ちゃんも嫌がりはしないわ。あと他にも進学する子はいるみたいだけど」
二人とも、涼香のことを心配してくれている。主に自分達がいなくなった時の周りの被害状況をだが。
大学というある程度大きな場所では、涼香一人では危険が伴う。人も多いしそれは特にそうだろう。確実に涼香の後を追う涼音が入学するまでの一年持つとは思えないし、入学したとて、涼音一人任せにするのは高校よりもリスクが高い。
「なるほど、確かにここなら色々と安心ですね」
「この大学なら、今から私が勉強を見てあげたら余裕で行けるわ」
涼音は納得しているが、涼香はまだ決めかねている。
「確かにいいと思うわ。でも、私の意思は無いのかしら?」
涼香の意見は最もだ。今までなにもしてこなかったとはいえ、いきなりこの大学を目指せなんて言われても、納得するのは難しい。
涼香も涼香なりに進路のことを考えていなかった訳では無いのだ。
「だって――」
「どうせ――」
涼音と母が目を合わせて頷き合う。
「そこから先は言わせないわよ!」
涼香の待ったに二人は口を噤む。
「とりあえず勉強はするわ、でも進路は私が決めるわ!」
腕を組んでそう言う涼香の目は、なにか決意したかのように強い光が宿っていた。
「分かったわ、勉強は私が見てあげる。それじゃあ、まずは宿題からね」
無理に自分の意見を押し付ける気の無い涼香の母はそれで納得する。
「今日は疲れたから、明日からするわね」
さっきまでの威勢はどこへやら。涼香は髪の毛を乾かしに行こうと逃げるように席を立つ。
「そう言うと思っていたわ。安心しなさい、明日は有給を取ったから」
背中を向けた涼香に、母が言葉を投げかける。
恐ろしいものを見たような表情で振り向く涼香であった。
この二人の会話についていきたくない涼音は、食べ終えたアイスのカップとスプーンを持って台所へ向かう。
ごみを捨て、スプーンを洗い桶の中に入れて戻ってきたが、二人は一時停止中らしく、話始める気配が無かった。
「はい、スタート」
涼音は両手をパチン、と合わせる。
二人が話している隙に、髪の毛を乾かしに行こうと思ったのだが我慢だ。
涼音の合図を皮切りに、まずは涼香の母が話す。
「勉強をすれば、自分になにができるのか、なにをすることができるのか、それらを考える力を養うことができる。あと、知識は多い方が、将来の選択肢が増えていいわよ」
「選択肢が増える……よく聞く言葉ね」
そう言うと思っていたわ、とでも言いたげに返す涼香に、母もそう言うと思っていたわ、とでもい言いたげに返す。
「ならなぜ、その言葉はよく聞くのか。あなたは考えたことあるかしら?」
思いもよらないカウンターに涼香が押し黙る。
「おお……屁理屈コネリストの先輩が黙った」
「涼音、私はそこまで屁理屈をこねたこと無いと思うわ」
涼香のみゅっとした視線を受けて涼音は肩をすくめる。
「ここで屁理屈をこねるようなら、お父さんに言っていたわ」
涼香の母は、心底安心した様子で息を吐く。
「私は天才よ。そんな面倒なことになることはしないの」
「先輩のお父さんかわいそうですね。はい脱線しかけてるんで戻してください」
脱線の雰囲気を感じた涼音が軌道修正する。その脱線のきっかけを作ったのは涼音なのだが気にしない。
「私が言いたいのは簡単なことよ。勉強して、考える力をつけて選択肢を増やしなさい」
おおよそ高校三年生に言う言葉では無いような気もするが、涼香の母は今この話をしても大して問題にならないと確信していた。
「なるほど、そうくるのね」
なにがなるほどなのか、母にも涼音にも分からない。
謎に納得している涼香の頭の中では、てんさいてきなほうていしきがいっぱいけいさんをして答えを導き出した。
「涼音の可愛さを知ってもらう別のアプローチを考えろというわけね」
「そこに繋がるでしょうけど……」
あまりの飛躍に、理解はできるが戸惑う涼香の母に、涼音は大きく頷く。
「私の頭の中は余人には到底理解できないわ」
「なら、とりあえずこの大学へ進学できるように頑張りなさい」
勉強してくれるのなら別にいい。きっかけはなんだっていいのだ。
そう言って涼香の母がどこからか取り出したのは、とある大学のパンフレット。
どうせ本人任せにしたら、とりあえず国立大学に行くわ! と言うだろう。
今からだと、さすがの涼香でも無理だ。高校一年の頃から頑張らせれば行けたのだろうが。
「あら、これは……委員長が進学した学校ね。確か若菜もここに行くと言っていたわ」
「あー確か、委員長かなり学校のレベル下げてましたよね」
出されたパンフレットを眺めて二人は記憶を確認する。
委員長――宮木紗里は、涼香の一つ上の図書委員長のことだ。上級生で、唯一涼香のドジっ子を知っており、なおかつそのフォローをできる人だ。
涼香の母がこの大学を選んだのには理由がある。
涼音も、なぜこの大学なのか、その理由に察しがついた。
「そう、その委員長もあなたが来れば色々と助かることもあるでしょう。それに、若菜ちゃんも嫌がりはしないわ。あと他にも進学する子はいるみたいだけど」
二人とも、涼香のことを心配してくれている。主に自分達がいなくなった時の周りの被害状況をだが。
大学というある程度大きな場所では、涼香一人では危険が伴う。人も多いしそれは特にそうだろう。確実に涼香の後を追う涼音が入学するまでの一年持つとは思えないし、入学したとて、涼音一人任せにするのは高校よりもリスクが高い。
「なるほど、確かにここなら色々と安心ですね」
「この大学なら、今から私が勉強を見てあげたら余裕で行けるわ」
涼音は納得しているが、涼香はまだ決めかねている。
「確かにいいと思うわ。でも、私の意思は無いのかしら?」
涼香の意見は最もだ。今までなにもしてこなかったとはいえ、いきなりこの大学を目指せなんて言われても、納得するのは難しい。
涼香も涼香なりに進路のことを考えていなかった訳では無いのだ。
「だって――」
「どうせ――」
涼音と母が目を合わせて頷き合う。
「そこから先は言わせないわよ!」
涼香の待ったに二人は口を噤む。
「とりあえず勉強はするわ、でも進路は私が決めるわ!」
腕を組んでそう言う涼香の目は、なにか決意したかのように強い光が宿っていた。
「分かったわ、勉強は私が見てあげる。それじゃあ、まずは宿題からね」
無理に自分の意見を押し付ける気の無い涼香の母はそれで納得する。
「今日は疲れたから、明日からするわね」
さっきまでの威勢はどこへやら。涼香は髪の毛を乾かしに行こうと逃げるように席を立つ。
「そう言うと思っていたわ。安心しなさい、明日は有給を取ったから」
背中を向けた涼香に、母が言葉を投げかける。
恐ろしいものを見たような表情で振り向く涼香であった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。
ほんのりと百合の香るお話です。
ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。
イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。
★Kindle情報★
1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
★第1話『アイス』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
★Chit-Chat!1★
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-
橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。
順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。
悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。
高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。
しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。
「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」
これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる