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夕方の買い物編

スーパーマーケットにて 5

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「次は……野菜かしらね」

 細く白い人差し指を頤に当てながら涼香りょうかは呟いた。

 先を進む涼香の後ろを、カートを押す涼音すずねが追いかける。

 うっかり涼香に追突しないように、一定の間隔を空ける。

「なんの野菜ですか?」
「しめじ、人参、じゃがいも、トマト、ピーマン、生姜ね」
「重たそうですね」

 涼音がそう呟くと、急停止した涼香が、恐ろしいものを見たような顔をして振り返る。

「危ないですね」

 間隔を空けていたため追突は免れたが、急に止まられると危険だ。

「重たいわ」
「え? あー、確かに」

 涼音はなにを買うのか知らないのだが、肉や魚の前に野菜を買いに行くということは、買う物がそこそこ多いのではないかと察する。

「全く……なにを考えているのかしら。これではアイスが買えないではないの」

 悔しそうに顔を歪める涼香であるが、問題はそこかどうか分からない。

 涼香は頭の中で、買い物リストを広げる。

 さっき言った野菜類の他、鶏ミンチやハム、冷凍食品なども買わなくてはならない。

 とりあえず近くにあった醤油と白だしを取ってカゴに入れる。これも言われた物だ。

 いくら二人いるからといっても徒歩で来ている。

 それに冬場ならまだしも夏だ。帰るのに一苦労だし、休憩を入れようにも、肉類が腐ってしまう可能性もある。一応氷は貰う予定だが、それでまた重たくなる。

「あたしら無事に帰れるんですかね」
「そこは心配無いと思うけど――」

 涼香の母もそれは理解しているはずだ。それでもギリギリであることには変わりない。

「嵌められたわね」

 十中八九アイスを買わせないための作戦だろう。

 涼香はそう結論付ける。

 とりあえず野菜売り場へ向かう。

 指定量の野菜をカゴに入れていきながら、涼香はどうすればアイスを買って帰られるかを考える。

 冷凍食品と一緒に買えばいいと考えたのだが、それではかさばってしまい、持ち運ぶのが困難だ。

「じゃがいもと人参多くないですか?」

 袋に入れた野菜をカゴに入れながら涼音が問う。

「多めに買ってきてと言われているのよ。二千三百グラム程度買ってきて、とね」
「えぇ……、五キロ近いじゃないですか」
「そうなのよ、全く酷いわ。真夏よ真夏、そんな重い荷物を持って帰られないわよ。いえ、帰ることはできるでしょうけど明日は筋肉痛ね」
「少しは運動しろ、ってことですか?」

 カゴの中を整理しながら涼音はため息をつく。

「概ねそうではないかしら」
「なにも言い返せませんね」

 涼香も涼音も、夏は目的が無いと外に出ない。暑い夏だからそれでもいいのだが、一日中ベッドで過ごしたりしているのだ。言われても仕方がない。

 野菜はこれにて終了。次は――。

「薄揚げと納豆も必要と言っていたわね」

 近くの冷蔵ショーケースから納豆と薄揚げを取る。

「あとは肉類と冷凍食品だけよ」

 終わりの見えた買い物。帰り道の暑さと、両腕の重さを想像してげんなりとする涼音であった。
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