上 下
250 / 493
夏休みの補習編

補習にて 番外編

しおりを挟む
 廊下を歩き出したあやは、涼香りょうか達の再テストを担当する教師とすれ違う時に会釈して、はたと気づく。

「あ、結局勉強してたの単語の暗記ぐらいだった」

 珍しくやる気だったため、丁寧に教えていたのだが、本当の基礎の基礎しか教えていない。

 まあ単語さえ覚えていれば、補習の再テスト程度なら問題は無い――はずなのだが、テストを受ける人が人だ。

「ま、その時はその時か」

 とりあえず今回はこれでいいやと、後で心配だから様子を見に行ってやろうかと考えながら彩は自分のクラスへと戻る。

 すると――。

「あー! 先輩、どこ行ってたんですか! 私結構長い間待ってたんですよ?」

 彩と同じベージュ色に染められているボブヘアーにパーマを当て、ウェーブさせている女子生徒――伊藤夏美いとうなつみが、もししっぽがあるのなら扇風機みたいに振り回しているであろうテンションで、彩の下へ駆けつけてくる。

 その人懐こい動きは、見る人を自然と笑顔にさせてしまうような、そんな雰囲気を纏っている。

「ああごめん。勉強教えてた」

 そんな夏美を適当に流しながら、彩は自分の席へ座る。

「私という存在がいながらも、他の人の所に行ってたんですか⁉」

 そんな彩の後ろから、椅子の背を持った夏美が左右に揺れて言う。

 少しずつずれていく椅子を元の位置に戻しながら、彩は机に広げっぱなしにしていた勉強道具を片付ける。

「あれ、先輩もう勉強しないんですか?」
「あんたの相手しないとうるさいし、それに勉強は家でもできるから」
「なんですかその扱い……」

 後ろで頬を膨らませた夏美。

 そして彩の前へ回り込むと、ニコッと笑う。

「でも先輩は私に会うために! 夏休みなのにわざわざ学校に来てくれたんですよね?」

 私知ってるんですよ? と言いたげな夏美の頭を彩は両手で挟む。

「そんな訳あるか!」

 ぎりぎりっと力を込める。

「痛いですっ! 痛い痛い痛い痛い痛い!」

 彩の手を叩いてギブアップする夏美であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

坊主女子:学園青春短編集【短編集】

S.H.L
青春
坊主女子の学園もの青春ストーリーを集めた短編集です。

惑星ラスタージアへ……

荒銀のじこ
青春
発展しすぎた科学技術が猛威を振るった世界規模の大戦によって、惑星アースは衰退の一途を辿り、争いはなくなったものの誰もが未来に希望を持てずにいた。そんな世界で、ユースケは底抜けに明るく、誰よりも能天気だった。 大切な人を失い後悔している人、家庭に縛られどこにも行けない友人、身体が極端に弱い妹、貧しさに苦しみ続けた外国の人、これから先を生きていく自信のない学生たち、そして幼馴染み……。 ユースケの人柄は、そんな不安や苦しみを抱えた人たちの心や人生をそっと明るく照らす。そしてそんな人たちの抱えるものに触れていく中で、そんなもの吹き飛ばしてやろうと、ユースケは移住先として注目される希望の惑星ラスタージアへと手を伸ばしてもがく。 「俺が皆の希望を作ってやる。皆が暗い顔している理由が、夢も希望も見られないからだってんなら、俺が作ってやるよ」 ※この作品は【NOVEL DAYS】というサイトにおいても公開しております。内容に違いはありません。

透明人間の見えない生活 - invisible life -

ウタ
青春
蔭野 衛(かげの まもる)は高校入学を迎えた。新しい生活に想いを馳せると同時に不安もあった。それは透明人間である自分が楽しい学校生活を送れるかである。透明な彼が送る高校生活とは!?絶対不可視の学園コメディ

ジェンダーレス男子と不器用ちゃん

高井うしお
青春
エブリスタ光文社キャラクター文庫大賞 優秀作品 彼氏に振られたOLの真希が泥酔して目を覚ますと、そこに居たのはメイクもネイルも完璧なジェンダーレス男子かのん君。しかも、私の彼氏だって!? 変わってるけど自分を持ってる彼に真希は振り回されたり、励まされたり……。 そんなかのん君の影響で真希の世界は新しい発見で満ちていく。 「自分」ってなんだろう。そんな物語。

お嬢様と魔法少女と執事

星分芋
青春
 魔法少女の嶺歌(れか)はある日をきっかけに不思議なお嬢様ーー形南(あれな)とその執事の兜悟朗(とうごろう)二人と関わりを持ち始める。  引き合わせ、友好関係の築きあげ、形南の隠された過去と様々な事態を経験していき少しずつ形南との友情が深まっていく中で嶺歌は次第に兜悟朗に惹かれていく。  年の離れた優秀な紳士、兜悟朗との恋は叶うのか。三人を中心に描いた青春ラブストーリー。 ※他の複数サイトでも投稿しています。 ※6月17日に表紙を変更しました。

美術部ってさ!

久世 かやの
青春
美術部の話って、あまりない気がしたので書いてみました(^^) 各章、独立した話ですので、章ごとに短編的にお楽しみ頂けます。 ※Berry's Cafe・小説家になろうにて同時掲載しています。

何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない

釧路太郎
青春
 俺の親友の鬼仏院右近は顔も良くて身長も高く実家も金持ちでおまけに性格も良い。  それに比べて俺は身長も普通で金もあるわけではなく、性格も良いとは言えない。  勉強も運動も何でも出来る鬼仏院右近は大学生になっても今までと変わらずモテているし、高校時代に比べても言い寄ってくる女の数は増えているのだ。  その言い寄ってくる女の中に俺が小学生の時からずっと好きな桜唯菜ちゃんもいるのだけれど、俺に気を使ってなのか鬼仏院右近は桜唯菜ちゃんとだけは付き合う事が無かったのだ。  鬼仏院右近と親友と言うだけで優しくしてくれる人も多くいるのだけれど、ちょっと話すだけで俺と距離をあける人間が多いのは俺の性格が悪いからだと鬼仏院右近はハッキリというのだ。そんな事を言う鬼仏院右近も性格が悪いと思うのだけれど、こいつは俺以外には優しく親切な態度を崩さない。  そんな中でもなぜか俺と話をしてくれる女性が二人いるのだけれど、鵜崎唯は重度の拗らせ女子でさすがの俺も付き合いを考えてしまうほどなのだ。だが、そんな鵜崎唯はおそらく世界で数少ない俺に好意を向けてくれている女性なのだ。俺はその気持ちに応えるつもりはないのだけれど、鵜崎唯以上に俺の事を好きになってくれる人なんていないという事は薄々感じてはいる。  俺と話をしてくれるもう一人の女性は髑髏沼愛華という女だ。こいつはなぜか俺が近くにいれば暴言を吐いてくるような女でそこまで嫌われるような事をしてしまったのかと反省してしまう事もあったのだけれど、その理由は誰が聞いても教えてくれることが無かった。  完璧超人の親友と俺の事を好きな拗らせ女子と俺の事を憎んでいる女性が近くにいるお陰で俺は恋愛が出来ないのだ。  恋愛が出来ないのは俺の性格に問題があるのではなく、こいつらがいつも近くにいるからなのだ。そう思うしかない。  俺に原因があるなんて思ってしまうと、今までの人生をすべて否定する事になってしまいかねないのだ。  いつか俺が唯菜ちゃんと付き合えるようになることを夢見ているのだが、大学生活も残りわずかとなっているし、来年からはいよいよ就職活動も始まってしまう。俺に残された時間は本当に残りわずかしかないのだ。 この作品は「小説家になろう」「ノベルアッププラス」「カクヨム」「ノベルピア」にも投稿しています。

カノジョのいる俺に小悪魔で金髪ギャルの後輩が迫ってくる

中山道れおん
青春
鎌ヶ谷右京(かまがや うきょう)は高校一年生のときに人生で初めてのカノジョができた。 恋人である市川栞梨(いちかわ しおり)と少しずつ関係を深めていき、幸せな日々を送る右京。 しかし高校二年生に進級すると、中学生のときの後輩である野田良子(のだ りょうこ)と再会したことがきっかけとなり、右京の幸せな日々は歪に形を変えていくのであった。 主人公もヒロインもそれぞれ一途な想いを持っている。 だけど、なぜか不純愛の世界へと導かれていく。 果たして、それぞれの一途な想いはどこへ向かっていくのか。 この物語は一途な想いを持つ者たちによる不純愛ラブコメである!

処理中です...