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7月

休み時間の二年生の教室にて

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 ある日の休み時間、二年生の教室。

 涼音すずねはいつも通り次の教科の準備をしていた。

 基本的に休み時間は涼香りょうかには会わずに教室でいることが多い涼音。誰かと会話をする訳ではなくただ黙って一人で過ごす休み時間。

 スマホを適当にスワイプしながら時間が過ぎるのを待つ。

 そんないつも通りの休み時間を過ごしていた涼音だったが、今日の休み時間は少し違った。

「ねえねえ檜山ひやまさん!」

 机の下から一人の女子生徒がひょっこりと現れた。

 ちなみに涼音は頬杖をつきながらスマホを見ており視界は狭かった。そのため、机の下からひょっこりと現れたその女子生徒に大層驚いたのだった。

「あっ」

 身を震わせると同時にスマホが手から転がり落ちてしまう。落ちたスマホは机を上を跳ね、涼音とは逆方向、女子生徒の方へ飛んでいく。

「ぶひゃっ」

 跳ねたスマホはその女子生徒の顔面へクリーンヒット。

 涼音は慌ててスマホを拾い上げて、鼻をさすっている女子生徒に頭を下げる。

「ごめんなさい。大丈夫?」
「ううん……大丈夫。急に驚かせた私が悪いし」
「そう……?」

 なせか不敵な笑みを浮かべるその女子生徒に涼音は涼香の姿を一瞬重ねてしまった。

「やっぱり檜山さんって水原先輩と仲がいいんだね」
「え? あ、まあ……」

 体育祭で目立ってしまい、そういうことを言われるのを覚悟していた涼音であったが、体育祭以降も以前とさほど変わらない生活を続けていたため、遂に言われたそのセリフに一瞬固まってしまう。

「水原先輩との写真眺めてたし」
「――⁉ これはその……先輩が送ってくるから仕方なく……」

 涼音はスマホを制服の胸ポケットにしまうと居住まいを正す。

「羨ましいなあ……」

 そんな涼音を上目遣いで見ていた女子生徒は心底羨ましそうに呟く。

「で、あたしになんの用ですか?」

 まさか涼香絡みでなにか言われるのだろうか、今更ながら少し警戒した涼音は、相手の一言一句、一挙手一投足に注意を向ける。

 名前を知らないこの女子生徒。ベージュのボブヘアーをしていると、さすがに目立つため記憶に残るはずなのだが、涼音は今日初めて見たので恐らく違うクラスの生徒だろう。

「私ね、檜山さんみたいに三年生に仲がいい先輩がいるんだけど……その悩み相談みたいな?」
「は?」

 悩み相談? なぜ見ず知らずの生徒の相談などを受けなければいけないのか、この女子生徒の突拍子のない言葉に涼音は戸惑う。

「え、訳わかんない。無理です」

 戸惑いは一瞬。すぐさま断る。

「お願い!」

 手を合わせて頭を下げる女子生徒。

「嫌です。てかなんでそもそもあたしなんですか?」
「檜山さん以外に三年生と仲がいい子知らないの」
「そうなんですか。……他の人探せば?」
「いやあ、それはちょっと……。檜山さんの方が話しかけやすいし、檜山さん他の三年生とも仲がいいから」

 そう言われると確かにな、と納得してしまう。話しかけやすい云々は置いといて、涼香以外の三年生と仲がいいのは否定しない。もしかすると、この女子生徒と仲がいい三年生のことを涼音は知っているかもしれない。

「はあ……しょうがないですね」

 それなら仕方がない。下手に嫌がってしつこく絡まれるより、さっさと悩みを聞いて適当に答えて終わらせようとする。

 涼音が渋々頷くと、その女子生徒は顔を輝かせる。

「本当に⁉ ありがとう檜山さん!」

 勢い良く立ち上がったその女子生徒は、涼音の手を取り激しくシェイク。

「ちょちょちょちょ落ち着いて。目立つから静かにして!」
「ああごめんごめん」

 女子生徒は手を離すと恥ずかしそうに頭を掻く。

 涼音はちらりと時計に目を向ける。もうそろそろ休み時間終了のチャイムが鳴る頃だ。

「もう授業始まるから、続きは後で」

 しっしと女子生徒を払う。

「あっうん! 檜山さん、ありがとう!」

 その女子生徒は満面の笑みを浮かべて教室を後にするのだった。
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