上 下
96 / 387
6月

涼香の部屋にて 10

しおりを挟む
 ある日の涼香《りょうか》の部屋でのこと。

「ねえ涼音《すずね》、今度のプレゼンテーション用の資料を作ったの」

 ローテーブルに向かい合っていた二人、なんの前触れもなくそんなことを言い出した涼香だったが。

「へえ、そうなんですか」

 まあいつものことだと、涼音は適当に流す。

「確認してほしいわ」

 そう言って涼香がスマホを差し出す。

 涼音はスマホを受け取ると、画面には一つの動画が映っていた。

「その動画を見てほしいの」

 頷いた涼音が画面をタップ。

 すると、スマホからなんかそれっぽい、意識が高そうな音楽が流れ始める。

 そして音楽が止まると同時に画面に文字が浮かび上がる。

『涼音の可愛いところ』
「消去ですね」

 すぐさま動画を止めて動画を消去しようとする涼音の手を、恐ろしいものを見たような表情の涼香が止める。

「待って! これを作るのに苦労したのよ」
「知りませんよ。ていうかあたしがこういうの嫌いって知ってますよね?」
「知っているわ、でもどうしてもこの気持ちを抑えることができないの」

 睨んでくるの涼音に負けじと涼香は言い返す。

「お願い涼音。消してもいいから一度だけ見てほしいの」

 ちょっと涙目の涼香だった。

 消してもいいのなら、と涼香に免じて見てあげようかと思った涼音、大きなため息をつくと動画を再生する。

『ギャップが凄い!』

 ギャップが凄いとはどういうことなのか、いまいちピンとこない涼音だった。

『まずは普段の様子から。※音声だけでお楽しみください』

 画面が暗転して、流れてきたのは涼香の声だった。

「涼音のもひと口食べたいわ」
「えぇ……嫌だ」

 それだけ流れると、再び画面に文字が表れた。

『可愛いわ』

 動画を消したくなってきた涼音だが、頑張って、気力を振り絞って動画を見続ける。

『次は二人っきりの時よ。※音声だけなのが残念だわ』

 再び画面が暗転する、そして流れてきたのは涼音の声だった。

「はい先輩、一口あげます」

 そして画面に文字が表れる。

『K・W・A・I・I』

 もう限界だった。涼音は動画を止めると、ローテーブルに突っ伏す。

「あとどれぐらいですか……?」

 息も絶え絶えの涼音が、なんとか言葉を発した。

「動画自体はこれで半分よ、けれどまだまだよ、この程度では涼音の魅力の一割にも満たないわ」
「あと半分も……⁉」

 今度こそ限界、涼音は容赦なく動画を消してスマホを涼香に返した。

「本当に消した……の……⁉」

 スマホ確認した涼香が、突っ伏す涼音を恐ろしいものを見たような表情で見る。

「当たり前ですよ。あたしは先輩のものなので……」

 あまりの衝撃に普段絶対言わないようにしていることを言ってしまった涼音だったが、涼香は動画を消されたショックで聞いていなかったし、言った本人である涼音も自分の言ったことを覚えていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

処理中です...