上 下
73 / 387
6月

夢の中にて 3

しおりを挟む
 ある日の夢の中のこと。

「オハヨウ、スズネ」
「えぇ……」

 登校するため、涼音すずね涼香りょうかを迎えに行った。いつも通りインターホンを押して、涼香が出てくるのを待つ。いつもなら中からドタバタ音が聞こえてくるのだが、今日はガシャンガシャンガシャンとメカニカルな音が聞こえてきたのだ。

 そしてドアが開くと。涼香――とは言い難いロボットが出てきた。頭身は涼香と全く同じだが、まず違うのは髪の毛だ。艶のあるまっすぐな黒のロングヘアーは、画用紙のような、海苔のようなよく分からない、固そうな素材でできている。風が吹いても全くなびかない。

 そして肌も全然違う。シミひとつない、日焼け知らずの涼香の肌が、くすんだ銀色になっていた。

 口は腹話術人形のような、縦に開閉する仕様。目は温度が無くてちょっと怖い。最後に左の目尻にあるホクロが黒色のネジで再現されていた。

「チコクスルワヨ」

 そんな明らかに涼香ではない涼香みたいなロボットが涼香の制服を纏い涼香の家から出てきた。

 ――ということは、このロボットは涼香では?

「そんなこと言うんだったらもっと早く準備してくださいよ」

 夢の中特有の謎の納得で、違和感がお亡くなりになった涼音。いつも通りに涼香と駅へと向かう。

 しかし先日起こった大規模な地割れが交通に大打撃を与えていて電車が動いていなかった。もちろん車で行くこともできない。

「今日は遅刻したくないんですよね……」

 困り果てた涼音を安心させるように、涼香が優しく涼音の頭に手を乗せる。

「ワタシニマカセナサイ」

 そう言った涼香が、涼音をお姫様抱っこをする。

「シッカリツカマッテナサイ」

 涼音がしっかり涼香にしがみつく。硬かった。

 涼音が掴まったのを確認すると、涼香がゆっくりと走り出す。ガシャンガシャンガシャンガシャンと徐々にスピードを上げていき、やがて風を切る音が聞こえだす。その瞬間、涼香が思いっきりアスファルトを踏み込んで跳躍――するはずだった。

「アッ」

 自分で自分の脚に引っかかった涼香が、上にではなく真横に飛んでいく。

 涼香に抱えられたままの涼音にはどうすることもできない。

 気づいたころにはものすっごい衝撃が涼音の身体を襲っていた。


 
「おはよう。……涼音?」

 いつも通り涼音が迎えに来たため、涼香が家を出ると、なぜか体中ペタペタと触られた。

「どうしたの?」

 ひとしきりペタペタ触った後、涼香の肌の感触が残る手に、目を落としながら涼音が答える。

「いえ、特に理由は無いです」
「あらそう」

 理由は無いと言っておきながらなぜかホッと息を吐く涼音に涼香は首を捻る。

「遅刻するわよ」

 なにかあったのだろうがそれはさておき、とりあえず学校へ向かおうと声をかけるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

悪役義弟は、私から彼氏を奪って私をざまぁしました!

天災
BL
 悪役義弟は、私から彼氏を奪い、私をざまぁしました!

お助けキャラに転生したのに主人公に嫌われているのはなんで!?

菟圃(うさぎはたけ)
BL
事故で死んで気がつけば俺はよく遊んでいた18禁BLゲームのお助けキャラに転生していた! 主人公の幼馴染で主人公に必要なものがあればお助けアイテムをくれたり、テストの範囲を教えてくれたりする何でも屋みたいなお助けキャラだ。 お助けキャラだから最後までストーリーを楽しめると思っていたのに…。 優しい主人公が悪役みたいになっていたり!? なんでみんなストーリー通りに動いてくれないの!? 残酷な描写や、無理矢理の表現があります。 苦手な方はご注意ください。 偶に寝ぼけて2話同じ時間帯に投稿してる時があります。 その時は寝惚けてるんだと思って生暖かく見守ってください…

乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。

緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。

ブラック企業社畜がアイドルに成り代わり!?

秋山龍央
BL
ブラックな上司のいる会社に務める一介のサラリーマンだった主人公。 しかし、交通事故に遭った彼が病院で目を覚ますと、アニメ「アイドルライジング」の登場キャラクターである「遠見湊(とおみ みなと)」に成り代わっていた!?

処理中です...