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6月

休み時間にて 5

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 水原涼香みずはらりょうかは下級生を中心に、クールで美人な先輩という認識を持たれている。

 その認識はまあ間違いでは無い。

 窓辺で佇むその姿、艶のあるまっすぐな黒のロングヘアーが風に揺られ、物憂げに窓の外を眺める姿は、まるで息をするのを忘れるかのような美しさ。

 シミひとつない、日焼け知らずの肌。一見冷たく見えるその目は、相手を突き放すよりも吸い込んでしまう程の綺麗さをほこり、左の目尻にあるホクロが大人の雰囲気を醸し出している。

 傍から見ればクールビューティーなのだ。

 そんな涼香の後ろを通る下級生達、その目は涼香に釘付けだった。そして、涼香が窓辺から立ち去る時、ふわっとたなびく髪の毛から香るシャンプーの香りが彼女達の心をわしづかむ。

 水原涼香とはそういう生徒だ。下級生基準で考えればの話だが。

 そしてとある休み時間。一人の下級生が勇気を出して涼香へと話しかけていた。学校の渡り廊下、他の生徒達が通り過ぎる、みんな(下級生を中心に)涼香に目を奪われながら。

「み、水原先輩!」
「どうしたの?」

 勇気を出して声をかけた生徒に、涼香が鈴を鳴らしたような声で返す。

 そしてその様子をたまたま離れた位置で見ているのが。

「まーた先輩捕まってる」

 檜山涼音ひやますずね、涼香の一つ下の生徒、涼香の幼なじみでもある。

 茶色に染められた髪をおさげにしている生徒。クリっとした目は今は細められていた。

 涼音の見つめる先では、涼香が女子生徒となにか話している。そしてその少し後ろでは、女子生徒の友達だろうか、何人かの生徒がその様子を見守っていた。

 幾度となく見た光景だ。だいたいこういうのは涼香とお近づきになりたいとかそんな感じの話。

 盗み聞きは良くないなと思いながら、涼音はススス……と二人の会話が聞こえる位置に移動する。

「あのっ、私ずっと……先輩のことを見てて……」

 もごもごと一言一言選びながら話す女子生徒。

「あら、そうなの⁉ 結構人に見られるものなのね」
「それはもう当然です! 水原先輩はめちゃくちゃ有名ですから!」
(いや、あなた達が先輩を探しているからでしょうが)

 その言葉をジト目で聞いている涼音。今のような移動教室の時以外、涼香はほとんど教室を出ない。登校時ならよく見られるがそれぐらいだ。

それでも廊下を歩けば下級生に声をかけられたりするのだから、涼香の人気は凄まじい。

「そうみたいね、ありがとう。それではそろそろ、次の授業があるから」
「え、あ、もうそんな時間⁉️ あ、じゃあせめて連絡先でも!」

 十分という時間はなんと残酷か、まともに会話することなく終わりを迎えようとしている。

 ならばせめて連絡先を、距離を詰めるための高速タックル、しかし彼女のタックルは避けられることとなる。

「ごめんなさいね、今はスマホ持ってないのよ」

 『今スマホ持っていないの』という言葉は、連絡先を交換したくない時に使われる常套手段である。

「あ……そ、そうですよね。私なんかと連絡先なんて交換したくないですよね……!」
「え、ちょっと――」
「お時間頂きありがとうございました!」

 そう言って見守る友達の元へと戻っていく女子生徒。その顔は悲しみに染まっていたがどこか吹っ切れたようだった、そして彼女を迎える友達も涙を浮かべながら迎える。

(先輩リアルに今はスマホ持ってないだけなんだけどなあ……)

 今日の涼香はスマホを家に忘れてきただけなのに。

「なんだか凄く申し訳ないことをしてしまった気がするわね」

 涼香がそう呟いたと同時にチャイムが鳴る。生徒達が早足で次の授業へと向かっていく。涼音もバレないようにコソコソとその場を離れる。

「まあ友達も付いていたみたいだし、大丈夫そうね」

 雑に納得した涼香も授業へと向かったのだった。
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