62 / 387
6月
休み時間にて 5
しおりを挟む
水原涼香は下級生を中心に、クールで美人な先輩という認識を持たれている。
その認識はまあ間違いでは無い。
窓辺で佇むその姿、艶のあるまっすぐな黒のロングヘアーが風に揺られ、物憂げに窓の外を眺める姿は、まるで息をするのを忘れるかのような美しさ。
シミひとつない、日焼け知らずの肌。一見冷たく見えるその目は、相手を突き放すよりも吸い込んでしまう程の綺麗さをほこり、左の目尻にあるホクロが大人の雰囲気を醸し出している。
傍から見ればクールビューティーなのだ。
そんな涼香の後ろを通る下級生達、その目は涼香に釘付けだった。そして、涼香が窓辺から立ち去る時、ふわっとたなびく髪の毛から香るシャンプーの香りが彼女達の心をわしづかむ。
水原涼香とはそういう生徒だ。下級生基準で考えればの話だが。
そしてとある休み時間。一人の下級生が勇気を出して涼香へと話しかけていた。学校の渡り廊下、他の生徒達が通り過ぎる、みんな(下級生を中心に)涼香に目を奪われながら。
「み、水原先輩!」
「どうしたの?」
勇気を出して声をかけた生徒に、涼香が鈴を鳴らしたような声で返す。
そしてその様子をたまたま離れた位置で見ているのが。
「まーた先輩捕まってる」
檜山涼音、涼香の一つ下の生徒、涼香の幼なじみでもある。
茶色に染められた髪をおさげにしている生徒。クリっとした目は今は細められていた。
涼音の見つめる先では、涼香が女子生徒となにか話している。そしてその少し後ろでは、女子生徒の友達だろうか、何人かの生徒がその様子を見守っていた。
幾度となく見た光景だ。だいたいこういうのは涼香とお近づきになりたいとかそんな感じの話。
盗み聞きは良くないなと思いながら、涼音はススス……と二人の会話が聞こえる位置に移動する。
「あのっ、私ずっと……先輩のことを見てて……」
もごもごと一言一言選びながら話す女子生徒。
「あら、そうなの⁉ 結構人に見られるものなのね」
「それはもう当然です! 水原先輩はめちゃくちゃ有名ですから!」
(いや、あなた達が先輩を探しているからでしょうが)
その言葉をジト目で聞いている涼音。今のような移動教室の時以外、涼香はほとんど教室を出ない。登校時ならよく見られるがそれぐらいだ。
それでも廊下を歩けば下級生に声をかけられたりするのだから、涼香の人気は凄まじい。
「そうみたいね、ありがとう。それではそろそろ、次の授業があるから」
「え、あ、もうそんな時間⁉️ あ、じゃあせめて連絡先でも!」
十分という時間はなんと残酷か、まともに会話することなく終わりを迎えようとしている。
ならばせめて連絡先を、距離を詰めるための高速タックル、しかし彼女のタックルは避けられることとなる。
「ごめんなさいね、今はスマホ持ってないのよ」
『今スマホ持っていないの』という言葉は、連絡先を交換したくない時に使われる常套手段である。
「あ……そ、そうですよね。私なんかと連絡先なんて交換したくないですよね……!」
「え、ちょっと――」
「お時間頂きありがとうございました!」
そう言って見守る友達の元へと戻っていく女子生徒。その顔は悲しみに染まっていたがどこか吹っ切れたようだった、そして彼女を迎える友達も涙を浮かべながら迎える。
(先輩リアルに今はスマホ持ってないだけなんだけどなあ……)
今日の涼香はスマホを家に忘れてきただけなのに。
「なんだか凄く申し訳ないことをしてしまった気がするわね」
涼香がそう呟いたと同時にチャイムが鳴る。生徒達が早足で次の授業へと向かっていく。涼音もバレないようにコソコソとその場を離れる。
「まあ友達も付いていたみたいだし、大丈夫そうね」
雑に納得した涼香も授業へと向かったのだった。
その認識はまあ間違いでは無い。
窓辺で佇むその姿、艶のあるまっすぐな黒のロングヘアーが風に揺られ、物憂げに窓の外を眺める姿は、まるで息をするのを忘れるかのような美しさ。
シミひとつない、日焼け知らずの肌。一見冷たく見えるその目は、相手を突き放すよりも吸い込んでしまう程の綺麗さをほこり、左の目尻にあるホクロが大人の雰囲気を醸し出している。
傍から見ればクールビューティーなのだ。
そんな涼香の後ろを通る下級生達、その目は涼香に釘付けだった。そして、涼香が窓辺から立ち去る時、ふわっとたなびく髪の毛から香るシャンプーの香りが彼女達の心をわしづかむ。
水原涼香とはそういう生徒だ。下級生基準で考えればの話だが。
そしてとある休み時間。一人の下級生が勇気を出して涼香へと話しかけていた。学校の渡り廊下、他の生徒達が通り過ぎる、みんな(下級生を中心に)涼香に目を奪われながら。
「み、水原先輩!」
「どうしたの?」
勇気を出して声をかけた生徒に、涼香が鈴を鳴らしたような声で返す。
そしてその様子をたまたま離れた位置で見ているのが。
「まーた先輩捕まってる」
檜山涼音、涼香の一つ下の生徒、涼香の幼なじみでもある。
茶色に染められた髪をおさげにしている生徒。クリっとした目は今は細められていた。
涼音の見つめる先では、涼香が女子生徒となにか話している。そしてその少し後ろでは、女子生徒の友達だろうか、何人かの生徒がその様子を見守っていた。
幾度となく見た光景だ。だいたいこういうのは涼香とお近づきになりたいとかそんな感じの話。
盗み聞きは良くないなと思いながら、涼音はススス……と二人の会話が聞こえる位置に移動する。
「あのっ、私ずっと……先輩のことを見てて……」
もごもごと一言一言選びながら話す女子生徒。
「あら、そうなの⁉ 結構人に見られるものなのね」
「それはもう当然です! 水原先輩はめちゃくちゃ有名ですから!」
(いや、あなた達が先輩を探しているからでしょうが)
その言葉をジト目で聞いている涼音。今のような移動教室の時以外、涼香はほとんど教室を出ない。登校時ならよく見られるがそれぐらいだ。
それでも廊下を歩けば下級生に声をかけられたりするのだから、涼香の人気は凄まじい。
「そうみたいね、ありがとう。それではそろそろ、次の授業があるから」
「え、あ、もうそんな時間⁉️ あ、じゃあせめて連絡先でも!」
十分という時間はなんと残酷か、まともに会話することなく終わりを迎えようとしている。
ならばせめて連絡先を、距離を詰めるための高速タックル、しかし彼女のタックルは避けられることとなる。
「ごめんなさいね、今はスマホ持ってないのよ」
『今スマホ持っていないの』という言葉は、連絡先を交換したくない時に使われる常套手段である。
「あ……そ、そうですよね。私なんかと連絡先なんて交換したくないですよね……!」
「え、ちょっと――」
「お時間頂きありがとうございました!」
そう言って見守る友達の元へと戻っていく女子生徒。その顔は悲しみに染まっていたがどこか吹っ切れたようだった、そして彼女を迎える友達も涙を浮かべながら迎える。
(先輩リアルに今はスマホ持ってないだけなんだけどなあ……)
今日の涼香はスマホを家に忘れてきただけなのに。
「なんだか凄く申し訳ないことをしてしまった気がするわね」
涼香がそう呟いたと同時にチャイムが鳴る。生徒達が早足で次の授業へと向かっていく。涼音もバレないようにコソコソとその場を離れる。
「まあ友達も付いていたみたいだし、大丈夫そうね」
雑に納得した涼香も授業へと向かったのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)
本野汐梨 Honno Siori
ホラー
あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。
全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。
短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。
たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。
死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く
miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。
ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。
断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。
ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。
更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。
平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。
しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。
それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね?
だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう?
※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。
※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……)
※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜
カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。
その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。
落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。
お助けキャラに転生したのに主人公に嫌われているのはなんで!?
菟圃(うさぎはたけ)
BL
事故で死んで気がつけば俺はよく遊んでいた18禁BLゲームのお助けキャラに転生していた!
主人公の幼馴染で主人公に必要なものがあればお助けアイテムをくれたり、テストの範囲を教えてくれたりする何でも屋みたいなお助けキャラだ。
お助けキャラだから最後までストーリーを楽しめると思っていたのに…。
優しい主人公が悪役みたいになっていたり!?
なんでみんなストーリー通りに動いてくれないの!?
残酷な描写や、無理矢理の表現があります。
苦手な方はご注意ください。
偶に寝ぼけて2話同じ時間帯に投稿してる時があります。
その時は寝惚けてるんだと思って生暖かく見守ってください…
乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。
緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。
ブラック企業社畜がアイドルに成り代わり!?
秋山龍央
BL
ブラックな上司のいる会社に務める一介のサラリーマンだった主人公。
しかし、交通事故に遭った彼が病院で目を覚ますと、アニメ「アイドルライジング」の登場キャラクターである「遠見湊(とおみ みなと)」に成り代わっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる