上 下
24 / 493
5月

水槽前にて

しおりを挟む
 ある休日、涼香りょうか涼音すずねは小さな水族館に来ていた。正確に言うと水族館ではなく、県立の自然博物館だが、メインの展示は水族館になっている。他の客もほとんどいないので、涼音の提案でやって来たのだった。

「あ、先輩。イセエビがいますよ」
「美味しそうね」

 そして今はこの通り、イセエビが入っている水槽を二人で肩を寄せ合って覗き込んでいた。

「イセエビ食べたことあるんですか?」
「ないわよ」
「えぇ……」
「よく美味しいって言うではないの。高級食材だし」

 食べたことないのに「美味しそう」はどうかと思ったが、そう言われると別におかしくはないような気がする。

 それもそうか、と納得した涼音は、イセエビの説明文に目を落とす。

 隣から鈍い音が響いたが、涼音にはなにも聞こえない。ただ、地味に涼香がのしかかってきて重たい。

「へえ……ガラスエビ」
「どこにいるの?」

 なぜか額をさすっている涼香がさらに目を凝らす。

「いえ、そうじゃなくて。後期幼生のころは成体と同じ形しているんですけど、ほとんど透明らしくてガラスエビとよばれることもある、って書いているんですよ。あと先輩重たいです」

 ごめんなさい、と一歩下がった涼香が首を捻る。

「後期幼生?」
「あたし達ぐらいの年のことですかね?」
「長生きするのね」
「いえ、そういう……そうですね」

 後で調べてみたところ、イセエビの寿命は大体十年ほどだったのだが、涼音は訂正しなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

女子高校生集団で……

望悠
大衆娯楽
何人かの女子高校生のおしっこ我慢したり、おしっこする小説です

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

通り道のお仕置き

おしり丸
青春
お尻真っ赤

処理中です...