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5月

水原家の台所にて

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 ある日のこと。

 自宅のキッチンに立つ涼香りょうかは手に持つ卵を睨んでいた。

(やっぱり学校の卵って殻が薄いわよね……?)

 そう思いながら、思い出すのは調理実習で卵を使った時だ。



 先日の家庭科の授業は調理実習。各々クッキーを作るという内容だった。

 薄力粉をふるっている最中にくしゃみが出てぶちまけそうになったのを除けば順調に進んでいた。

 そして卵を割る時、家でやる時の力加減で卵にひびを入れようとした時。

 ――どこか情けなく、虚しい音が響いた。

「……」

 おかしい……。涼香は塩と砂糖は間違えることがあっても暗黒物質を作り出すような料理下手ではない。家でもよく卵を割るのだが、このような状況になったことは無い。

 渋い顔をしながら卵を片付ける涼香。勿体ないことをしてしまった。心の中で謝りながらゴミ箱に捨てた後、手を洗い、新しい卵を取りに行く。



 その後も何回か卵を犠牲にしてしまったが概ね順調に作れたし、完成したクッキーを涼音すずねにあげたら喜んでくれたしで別にいいのだが、やはりあの卵の脆さは気になる。

 試しに学校での力加減で卵にひびを入れる。硬い音を立てて一向にひびが入らない。

(やっぱり学校の卵は殻が薄いわね)

 雑に結論を出した涼香はいつも通りの力で卵を割る。

 そして手際よく調味料を入れ混ぜ、フライパンを温める。今日は卵焼きでも作ろうと、油を引いて卵を焼き始める。ちなみに涼香は塩コショウで味付けをした卵が好きだ。

 出来たスクランブルエッグを皿に盛り付け、テーブルに運んで食べる。

 たまには甘い卵焼きも悪くないな。そう思った涼香だった。
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