プリンス様は下僕様

第２話 壊れてしまった日常

前半ー１ー

　耳の奥に突き刺さる騒がしい声が彼を我に返させた。
うっすらと目を開けて現状確認をしようとしたが、思わず目を見開いてしまった。
「ここはなんだ？」
　さっきまでの見慣れていた風景が突如として変貌を告げていた。

　数多くあった悪魔の死骸の代わりに、人間と思しき種族が目の前にいた。
一人だけ、老けた奴がいるがあとは若いなと彼は思った。
「にしても煩い」
　現れた・どうします・待って下さい等の悲鳴で彼の耳が疲弊していくのを感じた。
ゆっくりと彼は辺りを見回した。

　自分の立っている板に例の魔法陣があることから、自分が人間界に召喚されたことは理解した。
そして、召喚をおこなった種族が人間であることも。
召喚を行ったのは目の前で項垂れている、菫色の髪をした女であることは一目瞭然だった。

　彼は何気なしに自分のつま先で項垂れている女の顔を上げた。
疲れ切った顔と正気の失せた瞳をしたその女をよく視て彼は言った。
「お前、混ざり者か」


　ー混ざり者ー


その言葉を聞いて、召喚を行った菫色の髪をした女ーローズ・マリーの肩が大きく動き、緑の瞳は輝きを取り戻した。


　……混ざり者……