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うにおいくら

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クリスマスの頃の物語

克哉

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 余りにもすっきりと全てをそぎ落としたような潔さで仁美さんは事実のみを語った。
その潔さに彼女がどれほど苦しんで、今に辿り着いたのかが見えたような気がした。

「取り残されるって昔から好きじゃなかったけど、本当に酷いと思ったわ」

「彼氏だったんですか?」
宏美が迷いながらも仁美さんに聞いた。

「ううん。彼氏では無かった……彼氏になったかもしれない人ではあったけど」
仁美さんはそう言うとグラスを見つめて何かを考えているようだった。
僕も宏美もどう反応して良いのか分からずに黙って仁美さんを見ていた。

「クリスマスやったかぁ……」
オフクロが自分自身に言い聞かせるように呟いた。

「うん。クリスマスやった。その日は私と克っちゃんと安ちゃんでこの店で待ち合わせしとってんなぁ」
仁美さんが一つ一つの言葉を選ぶようにゆっくりと思い出を言葉にしていった。

「そうやったな。そん時はこの店、安ちゃんのオヤジさんがやってたもんなぁ」
オヤジが思い出したように言った。

「ああ、そうや、いつもここでみんな待ち合わせしとったからな」
安藤さんも記憶を確かめるに何度も頷いていた。

オヤジ達はまるで今の僕たちの様に、この店を待ち合わせ場所に使っていたらしい。

「バイトを早めに切り上げて単車でここに向かう途中に克っちゃんは事故った」
と仁美さんが話し出すと、その言葉を受けて安藤さんが話を繋いだ。
「その後、直ぐに俺がそこを通りかかった時はまだ救急車に乗せられる前やった」
その声を聞いて仁美さんは顔を上げて安藤さんを見た。

「交差点の角にあいつのZ2(ゼッツー)が横たわっていたんで驚いて単車止めて見に行ったんや」
偶然、安藤さんも同じ道を単車で走っていた様だ。

「そん時、克哉は歩道に座り込んで苦しそうやった。けど意識はしっかりしててんけどなぁ……『どないしてん?』って聞いたら『飛び出して来た猫を避け損ねた』って悔しそうに言うとったわ。頭からも血ぃ流していたし……あいつヘルメットはドカヘルやったやん。いつも頭の後ろに乗っけているだけや。あんなもん被ってないのと一緒やからな……雪もぱらついていたから滑ったんやな。交差点の真ん中で猫が飛び出して来たみたいでそれを避けようと単車を寝かしたらそのまま滑って吹っ飛んだみたいや。で、停まっていた車の下に頭から潜り込むように単車ごといってもうたようや」
安藤さんがゆっくりとその時の事を語る。

 こんな辛そうに話をする安藤さんを見るのは初めてだった。

「担架にあいつが乗せられた時、俺も一緒に救急車に乗ってんけど……その時に『仁美に絶対に怒られるな。約束破ったって……後は頼むな……仁美のこと……宜しゅう言うといてな』って言って意識無くした。それが最後の台詞や」
仁美さんはグラスをじっと見つめていた。
オフクロもカウンターを黙って見つめていた。

「今でも思うで、あいつが生きていたらと……いつまでもそんな事、思ったらアカンのやろうけど」
安藤さんはそう呟くとカウンターに置いてあったCCのボトルを取ると、グラスに半分ぐらい注いで一気に飲んだ。
「ふぅ、この時期なると思い出すな。だからクリスマスに逝った……約束を破りよった克哉に見せしめのためにも毎年ここでクリスマスパーティを開いてやるんや」
というと
「ふん!」
と言って鼻で笑った。

「そうや、あの勝手に先に逝ったバカへの嫌がらせで毎年ここに集まるんや」
と仁美さんもシンガポールスリングを一気に飲んで言った。


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