67 / 406
クリスマスの頃の物語
オフクロの注文
しおりを挟む
「そう言えば、お前らもそれなりに一緒に帰ってたやんかぁ」
と仁美さんと安藤さんに向かって言った。オヤジはやっと昔の思い出の中で反論材料を見つけたように攻勢に出た。
オヤジは記憶力だけは異常に良い。それだけは自他ともに誰もが認めている。しかしそれはこんな事でしか活かされていない。
「そんな事ない」
と仁美さんは否定したが、その声はさっきまでの勢いはなかった。
オヤジは安藤さんの顔を見た。
「え? 俺かい? 仁美とそんなに一緒に帰ってないぞぉ」
とオヤジに急に話題をふられて動揺していた。
明らかに挙動不審である。
「安藤君……君は男らしくないぞ。確かに君は高校時代、仁美と仲が良かったはずだ。何だったら証人に鈴原を召喚しても良い。今から召喚呪文を唱えようか?」
オヤジは携帯電話を手にして安藤さんを詰めた。
因みに召喚呪文は
――イマカラノミニコナイカ――
だな……と僕は確信した。
それにしてもオヤジがこういう持って回った言い方をする時は、それなりに自信がある時だ。言われた方はむかっ腹が立つと思うが……見ている分には面白い。
ちなみに今はそれにドヤ顔も追加装備されている。
「いや、いちいちそんな事で鈴を呼ばんでええ!」
と安藤さんはオヤジの提案を即座に拒否していたが、更に動揺は隠せなくなっていた。
――もしかして安藤さんと仁美さんは付き合っていた?――
僕はこの一連のやり取りを見てそう感じた。宏美を見ると彼女も同じことを思っていたようで、僕の顔を見て無言で頷いた。
いい歳こいた大人たちが昔話でムキになる姿は、見ていて鬱陶しくもあるが微笑ましい。
オフクロは急に立ち上がったかと思うと、僕の後ろを通り抜けオヤジの背中越しに
「あんた、そこ邪魔。中に入って」
と言ってオヤジの背中を軽く叩いた。
オヤジは驚いたように振り返っておふくろの顔を見上げたが、軽くため息をつくと黙って立ち上がってカウンターの中に入った。
オフクロはオヤジが座っていた椅子に当たり前のように座って、当然の如く
「あ、ついでにブランデーロック作って」
僕の首を左腕で絞めながらオヤジに注文した。
オフクロはこんな事がしたいがために席を代わったのか? く、苦しい……。
カウンターの中には安藤さんとオヤジ。
初めて見る風景だが、なぜか違和感はそれほど感じない。
オフクロの前に立ったオヤジは
「相変わらずその吞み方かぁ」
と笑いながら言った。オヤジ自身はカウンターの中に押しやられた事は何とも思ってない様だ。僕はちょっとホッとした。
「そうよ。悪い?」
オフクロは何を今更聞いてくるのか? みたいな感じでそっけない態度で返事をした。
「いえ、全然……かしこまりました」
しかしオヤジはそんな態度は気にしないで笑って応えると、手慣れた手つきで氷をロックグラスに入れ、グラスが冷えるのを待っていた。
「カルバドスで良かったよな」
「うん」
オフクロは素直に頷いた。オフクロは黙ってオヤジの作業を見ていた。オフクロはなんだか楽しそうだった。いつもと変わらない態度のオフクロだが僕にはそう見えた。
オヤジはボトル棚からブラー グランソラージュのボトルを取り出すと、氷の入ったグラスの水を切った後、そっと静かにその中へ注ぎ入れた。まるでこれ以上氷を溶かさないようにゆっくりと。
「亮ちゃんのお父さんってバーテンダーしても違和感ないね」
と宏美が小声で話しかけてきた。
でもその声はみんなに聞こえていたようで
「一平も昔はここに立っていたんやで」
安藤さんが教えてくれた。
「ええ? そうなんですか?」
僕は思わず声を上げて聞き返した。初めて聞く話で驚いた。
と仁美さんと安藤さんに向かって言った。オヤジはやっと昔の思い出の中で反論材料を見つけたように攻勢に出た。
オヤジは記憶力だけは異常に良い。それだけは自他ともに誰もが認めている。しかしそれはこんな事でしか活かされていない。
「そんな事ない」
と仁美さんは否定したが、その声はさっきまでの勢いはなかった。
オヤジは安藤さんの顔を見た。
「え? 俺かい? 仁美とそんなに一緒に帰ってないぞぉ」
とオヤジに急に話題をふられて動揺していた。
明らかに挙動不審である。
「安藤君……君は男らしくないぞ。確かに君は高校時代、仁美と仲が良かったはずだ。何だったら証人に鈴原を召喚しても良い。今から召喚呪文を唱えようか?」
オヤジは携帯電話を手にして安藤さんを詰めた。
因みに召喚呪文は
――イマカラノミニコナイカ――
だな……と僕は確信した。
それにしてもオヤジがこういう持って回った言い方をする時は、それなりに自信がある時だ。言われた方はむかっ腹が立つと思うが……見ている分には面白い。
ちなみに今はそれにドヤ顔も追加装備されている。
「いや、いちいちそんな事で鈴を呼ばんでええ!」
と安藤さんはオヤジの提案を即座に拒否していたが、更に動揺は隠せなくなっていた。
――もしかして安藤さんと仁美さんは付き合っていた?――
僕はこの一連のやり取りを見てそう感じた。宏美を見ると彼女も同じことを思っていたようで、僕の顔を見て無言で頷いた。
いい歳こいた大人たちが昔話でムキになる姿は、見ていて鬱陶しくもあるが微笑ましい。
オフクロは急に立ち上がったかと思うと、僕の後ろを通り抜けオヤジの背中越しに
「あんた、そこ邪魔。中に入って」
と言ってオヤジの背中を軽く叩いた。
オヤジは驚いたように振り返っておふくろの顔を見上げたが、軽くため息をつくと黙って立ち上がってカウンターの中に入った。
オフクロはオヤジが座っていた椅子に当たり前のように座って、当然の如く
「あ、ついでにブランデーロック作って」
僕の首を左腕で絞めながらオヤジに注文した。
オフクロはこんな事がしたいがために席を代わったのか? く、苦しい……。
カウンターの中には安藤さんとオヤジ。
初めて見る風景だが、なぜか違和感はそれほど感じない。
オフクロの前に立ったオヤジは
「相変わらずその吞み方かぁ」
と笑いながら言った。オヤジ自身はカウンターの中に押しやられた事は何とも思ってない様だ。僕はちょっとホッとした。
「そうよ。悪い?」
オフクロは何を今更聞いてくるのか? みたいな感じでそっけない態度で返事をした。
「いえ、全然……かしこまりました」
しかしオヤジはそんな態度は気にしないで笑って応えると、手慣れた手つきで氷をロックグラスに入れ、グラスが冷えるのを待っていた。
「カルバドスで良かったよな」
「うん」
オフクロは素直に頷いた。オフクロは黙ってオヤジの作業を見ていた。オフクロはなんだか楽しそうだった。いつもと変わらない態度のオフクロだが僕にはそう見えた。
オヤジはボトル棚からブラー グランソラージュのボトルを取り出すと、氷の入ったグラスの水を切った後、そっと静かにその中へ注ぎ入れた。まるでこれ以上氷を溶かさないようにゆっくりと。
「亮ちゃんのお父さんってバーテンダーしても違和感ないね」
と宏美が小声で話しかけてきた。
でもその声はみんなに聞こえていたようで
「一平も昔はここに立っていたんやで」
安藤さんが教えてくれた。
「ええ? そうなんですか?」
僕は思わず声を上げて聞き返した。初めて聞く話で驚いた。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
時戻りのカノン
臣桜
恋愛
将来有望なピアニストだった花音は、世界的なコンクールを前にして事故に遭い、ピアニストとしての人生を諦めてしまった。地元で平凡な会社員として働いていた彼女は、事故からすれ違ってしまった祖母をも喪ってしまう。後悔にさいなまれる花音のもとに、祖母からの手紙が届く。手紙には、自宅にある練習室室Cのピアノを弾けば、女の子の霊が力を貸してくれるかもしれないとあった。やり直したいと思った花音は、トラウマを克服してピアノを弾き過去に戻る。やり直しの人生で秀真という男性に会い、恋をするが――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる