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ヴォーカリストとギタリスト
部活にて
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その日の放課後、今度は部活で音楽室に向かった。
ピアノの前で哲也と拓哉が待っていた。他の部員はまだ数人しか来ていなかった。
「待ったぁ?」
と僕は声を掛けた。
「いや、全然」
と哲也は首を振った。
「今日は? 練習は?」
と拓哉が聞いてきた。
これは『今日はヴァイオリンの新人教育担当の日か?』という意味だ。
「今日はないで」
と僕は首を振った。
「それなら今日は思いっきりやれるな」
と安心したように拓哉が頷いた。
「まあね……ってお前らはええんかぁ?」
確かチェロとコントラバスにも新人が入ったはずだ。この二人は必然的に教育担当になるだろう?
「ああ、うちは全員経験者。それにパート練習は真奈美がやっとぉ」
と哲也は言った。
「うちは未経験は信二だけやからなぁ。夕子と育美に任せとるわ。まあ、面倒なら吹部に出してもええねんけどな。ついでに……」
と拓哉が続けて言った。
言われてみればそうだった。
チェロは真奈美以外のメンバーは二年生の島村敦子と一年生の『哲也命』の経験者高嶋喜一。どちらも付きっきりで教える必要は無い。コンバスは未経験の一年生杉山信二を先輩三人がかりで教えている。
そう言う状況なので哲也と拓哉がわざわざ教える必要はないだろう。
しかし気になるひと言が耳に残った。
「ついでに吹部に……って? それどういう事なん?」
と僕は聞き返した。今年入った一年生の杉山信二を吹部で教育してもらうって事なのか? 何故そんな事が?
「お前、聞いてなかったんかぁ? 管楽器担当の奴らは基本的に夏の大会が終わるまでは吹部にも行く事になったやん」
と哲也が呆れたような顔をして言った。
「え? そうなん? 知らんかったわ」
初耳だった。
僕の知らないところで器楽部と吹奏楽部との間に色々と協力関係が築かれていたようだ。
僕は驚いて聞き返した。
「あ、そうかぁ……お前だけやもんな。三年生でパートリーダーも役職も何にもなってないのん」
何故か上から目線で哲也が言ってきた。
「いや、そんな事ないぞぉ。他にも何もやってない三年おるわ。それに俺はピアノのパートリーダーやし……」
と僕は一応反論を試みてみた。
「ほほぉ、じゃあピアノの他のメンバーは?」
なんとなく哲也に詰められているような気がする。
「おらんけど……」
一応冴子も宏美も元々ピアノのメンバーだったが、今はヴァイオリンがメインになってピアノの事は無かったことになっている。だからピアノのパートリーダと言っても結果的にそうなったというだけで、ほとんど無視されていた。
「パートリーダー以外の他の役職はなにやってんのや?」
と哲也は更に詰め寄ってくる。
「OB担当……」
「それって何すんの?」
「何か催しもんがあったらOBに連絡をする係」
OBと言っても三人しか知らないけど……
「催しもんって、何かあったか?」
冷ややかな視線で哲也は聞いてくる。
「まだなんもない」
「じゃあ、まだなんもしてないんやな?」
――いちいち確認してくんな――
「まあ、そうともいう」
「ほら見ろ、俺の言うた通りやんか」
と最後に哲也は勝ち誇ったような顔でさらに上から目線で僕に言った。
「まあ、何かあったらお前らに後で聞いたらええし……」
と僕は言い訳じみた負け惜しみしか言えなかった。
僕と哲也の会話を見かねた拓哉が
「管楽器は吹部で教えてもらった方が早いからと顧問同士が相談してそうなったみたいや。ついでに折角やから夏の大会も参加させよって事になったんや。まあ、吹部は人が多いから、A部門ではなくBとかS部門になるんやろうけど……」
とちゃんと教えてくれた。拓哉は哲也と違って優しい。
「もしかして千恵蔵やハヤンもか?」
と僕は聞き返した。
「例の三人は実力あるから乞われて大会終わるまでレンタルされたわ」
と笑いながら拓哉は言った。
ピアノの前で哲也と拓哉が待っていた。他の部員はまだ数人しか来ていなかった。
「待ったぁ?」
と僕は声を掛けた。
「いや、全然」
と哲也は首を振った。
「今日は? 練習は?」
と拓哉が聞いてきた。
これは『今日はヴァイオリンの新人教育担当の日か?』という意味だ。
「今日はないで」
と僕は首を振った。
「それなら今日は思いっきりやれるな」
と安心したように拓哉が頷いた。
「まあね……ってお前らはええんかぁ?」
確かチェロとコントラバスにも新人が入ったはずだ。この二人は必然的に教育担当になるだろう?
「ああ、うちは全員経験者。それにパート練習は真奈美がやっとぉ」
と哲也は言った。
「うちは未経験は信二だけやからなぁ。夕子と育美に任せとるわ。まあ、面倒なら吹部に出してもええねんけどな。ついでに……」
と拓哉が続けて言った。
言われてみればそうだった。
チェロは真奈美以外のメンバーは二年生の島村敦子と一年生の『哲也命』の経験者高嶋喜一。どちらも付きっきりで教える必要は無い。コンバスは未経験の一年生杉山信二を先輩三人がかりで教えている。
そう言う状況なので哲也と拓哉がわざわざ教える必要はないだろう。
しかし気になるひと言が耳に残った。
「ついでに吹部に……って? それどういう事なん?」
と僕は聞き返した。今年入った一年生の杉山信二を吹部で教育してもらうって事なのか? 何故そんな事が?
「お前、聞いてなかったんかぁ? 管楽器担当の奴らは基本的に夏の大会が終わるまでは吹部にも行く事になったやん」
と哲也が呆れたような顔をして言った。
「え? そうなん? 知らんかったわ」
初耳だった。
僕の知らないところで器楽部と吹奏楽部との間に色々と協力関係が築かれていたようだ。
僕は驚いて聞き返した。
「あ、そうかぁ……お前だけやもんな。三年生でパートリーダーも役職も何にもなってないのん」
何故か上から目線で哲也が言ってきた。
「いや、そんな事ないぞぉ。他にも何もやってない三年おるわ。それに俺はピアノのパートリーダーやし……」
と僕は一応反論を試みてみた。
「ほほぉ、じゃあピアノの他のメンバーは?」
なんとなく哲也に詰められているような気がする。
「おらんけど……」
一応冴子も宏美も元々ピアノのメンバーだったが、今はヴァイオリンがメインになってピアノの事は無かったことになっている。だからピアノのパートリーダと言っても結果的にそうなったというだけで、ほとんど無視されていた。
「パートリーダー以外の他の役職はなにやってんのや?」
と哲也は更に詰め寄ってくる。
「OB担当……」
「それって何すんの?」
「何か催しもんがあったらOBに連絡をする係」
OBと言っても三人しか知らないけど……
「催しもんって、何かあったか?」
冷ややかな視線で哲也は聞いてくる。
「まだなんもない」
「じゃあ、まだなんもしてないんやな?」
――いちいち確認してくんな――
「まあ、そうともいう」
「ほら見ろ、俺の言うた通りやんか」
と最後に哲也は勝ち誇ったような顔でさらに上から目線で僕に言った。
「まあ、何かあったらお前らに後で聞いたらええし……」
と僕は言い訳じみた負け惜しみしか言えなかった。
僕と哲也の会話を見かねた拓哉が
「管楽器は吹部で教えてもらった方が早いからと顧問同士が相談してそうなったみたいや。ついでに折角やから夏の大会も参加させよって事になったんや。まあ、吹部は人が多いから、A部門ではなくBとかS部門になるんやろうけど……」
とちゃんと教えてくれた。拓哉は哲也と違って優しい。
「もしかして千恵蔵やハヤンもか?」
と僕は聞き返した。
「例の三人は実力あるから乞われて大会終わるまでレンタルされたわ」
と笑いながら拓哉は言った。
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