北野坂パレット

うにおいくら

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ヴォーカリストとギタリスト

ヴォーカリスト

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「いや、この前バンドのメンバーでカラオケ行ってんけど、その時に和樹がぽっぽちゃんを連れて来たんや。そんで歌声を聞いて、一発でその声に俺も他のバンドメンバーもハマってしもうたんや。で、何とかうちのバンドに入ってくれへんかと頼んだんやけど、ぽっぽちゃんが出してきた条件がそれやってん」
と和樹の代わりに翔がこれまでの経緯(いきさつ)をちゃんと教えてくれた。

「ふぅん。でも、なんで俺の伴奏で歌いたいん?」
そこが僕には理解できないところだった。

「うん。条件という訳でもなかってんけど……実はね、藤崎君がピアノ弾いているの一年の時知らなかってん」
そりゃそうだ。僕も一年生の前半はピアノを辞めていたも同然だった。

「二年生になって器楽部と吹部との合同の演奏会時に初めて藤崎君のピアノを聞いて、メッチャ感動してん。あんな綺麗な音を聞いたん初めてやってん」

「そんなことないやろ」
と僕は謙遜も交えながら軽く否定した。

「ううん。初めては大袈裟かもしれんけど、本当に綺麗な音やなぁって感動したのはホンマやねん。だからあのピアノをバックに歌えたら幸せやろうなぁって思ってたん。一年生の時、後藤君が藤崎君と仲が良かったんを思い出したから『一度歌いたいなぁ』って頼んでみたん」
と彼女は僕の目をまっすぐに見つめて熱く語ってくれた。
本気で僕の伴奏で歌ってみたかったという気持ちはよく伝わってきた。
が、僕は

「ふぅん。そんなもんかねぇ……」
とどこか他人事のような気がしながら聞いていた。

 間違いなく僕のピアノの事を話しているんだろうけど、あまり自分自身に自覚がないので熱く語られてもピンと来なかった。
その代わり
「で、幸せな気分になれたんでしょうか?」
と聞いてみた。

「メッチャなれたわ」
と澪は満面の笑みで応えた。その予想以上の表情で、僕まで幸せな気分になれた。

「ふぅん。それは良かった。でも、こんなことぐらいならいつでも『伴奏頼むわ』って言うてくれたら弾いたのに……」
わざわざこんな和樹たちに頼まなくても、そう言ってくれてたら喜んで伴奏したのに……多分。

「だってぇ……藤崎君てあのコンクールで全国一位やん。そんな人に直接よう言わんわ」
と上目遣いでポッポちゃんは言い訳した。

「それに天邪鬼のお前は、素直にいうことを聞いてくれるとは思えんしなぁ」
と和樹がポッポちゃんの話に付け足すように口を挟んできた。

 一体、和樹は僕の事をどんな人間だと思っているのだろうか? こいつを音楽室の片隅に追いやって小一時間ほど詰めてやりたい気分になった。
という事で
「せやな……お前らに言われたら絶対に断っていたわ」
と僕は薄笑いを浮かべながら言った。

「それはそれでムカツクけど、まあそんな感じで今日は頼みに来てんけど。俺たちが頼む前に終わっていたんで手間が省けて良かったわ」
と和樹が勝ち誇ったよう笑った。

「ふん!」
と僕は鼻で返事をしてやった。
和樹に言われて悔しかったが、事実なので仕方ない。反論するのは止めた。


「ところでさぁ、ヴォーカルが代わるって他のメンバーも了解してんの?」
と僕はこの話を聞いた時から気になっていた事を聞いた。

 ヴォーカルと言えばそのバンドの顔であり、象徴だったりしないのか? たとえヴォーカルの翔本人が納得していたとしても、そう容易く替えられるものでもない。
こんなにもあっさりと変更できるものなのだろうか?

と頭の中でいくつも疑問符が飛び交っていた。
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