252 / 406
クリスマスの演奏会
応接室
しおりを挟む
オヤジが立ち去るのを見届けてから
「なぁ。さっきの外人ってダニエル・ヴァレンタインやんなぁ。指揮者の……」
と哲也が聞いてきた。彼らも気が付いていた様だ。
「ああ、そうや。よう分かったな」
と当たり前のように返答したが、心の中では少し焦っていた。
――なんで顔を見ただけで分かんのや? こいつら――
僕はオヤジに教えて貰うまでは全く気付いていなかった。
「そりゃ、判るやろう。判らん方がおかしいやろ?……で、なんで、そんな大物指揮者がここにおるんや?」
――判って当然みたいな話なんか?――
それはさて置き、彼らは当然のように僕と同じ疑問が湧いてきたようだ。その気持ちはよく分かる。
「冴子のオトンが呼んだらしいで」
どうやら普通は見ただけで巨匠だと判るものらしい。僕は内心少し狼狽(うろた)えながら哲也の問いに答えた。
――俺はもしかして鈍いのか?――
これまでが無頓着すぎたかもしれないと、哲也と話をしながら悟った。
「ホンマかいな? 知り合いなんか?」
「そうらしいで。昔からの……」
「へぇ。流石やな。金持ちは何でもありやな」
哲也と拓哉は呆れたような顔をした。感心も度を超すと呆れかえるものらしい。
「せやな。俺もそう思うわ」
と僕もその意見には激しく同意だった。
「どうせなら、ヴァレンタインに指揮してもらいたかったなぁ」
と今度は拓哉が口を開いた。
「ホンマやな。今からでもやってくれへんやろか?」
哲也が笑いながら応えた。
――その気持ちはよく分かる――
「そりゃ、無理やろ」
と僕は言ったが二人の意見にはまたもや激しく同意だった。
「あ、そうや、『今日の演奏はもう終わりやから、パーティー楽しめ』って」
と哲也は思い出したように話題を変えた。
「誰が?」
「千龍さんが」
「そうなん?」
「ああ。『先生がそう言うとった』って教えてくれた」
「そっかぁ……そう言えば、なんか腹減ったなぁ」
彼らにそう言われて少し小腹が空いていた事に気が付いた。
そんな事も忘れる位に緊張していたとは思っていなかったが、それなりに気が張っていたのかもしれない。
「うん。なんか食いに行こか」
「せやな」
と僕たちはパーティー会場の人たちの中へ入って行った。
僕たちが一つのテーブルを占領して食事をしていると、パーティーの参加者から声を掛けられた。
「とってもいい演奏だった」
「また聞かせて欲しい」と。
どうやら僕たちの演奏はこの人たちに受け入れられたようだった。
僕たちにとってもとってもいい演奏会だったので、是非もう一度ここでやりたいと思っていた。
暫くすると瑞穂と宏美達が僕たちのテーブルにやってきて
「いつまで休憩してんの? 働け!」
と言って僕たち三人はそこを追い出された。
僕は会場内を一回りして空いた食器とかを回収して調理場に持って行った。
再びホールに戻ろうと調理場から出たところで
「あ、亮ちゃん、探しててん」
と冴子に声を掛けられた。
振り向くと息を切らした冴子が立っていた。
本当に会場内を探していたようだ。
「俺を? なんで?」
「うん。お父さんが呼んできてって」
「え、鈴原さんが?」
「うん」
「そうなんや……書斎におるん?」
「うん」
「ほな、ほな行ってみるわ」
と僕は鈴原さんの書斎に向かった。
――わざわざ冴子に呼びに来させるような用件とは何だろうか?――
僕にはまったり心当たりも予想もつかなかった。
冴子も一緒に来るのかと思ったら冴子はその場に立ち止まったままだった。
それを少し不思議に思いながらも僕は鈴原さんの書斎に向かった。
勝手知ったる他人の家ではないが、小さい頃から出入りしていたこの屋敷は、書斎がどこにあるかは聞かなくても分かっていた。
ノックをしてからドアをゆっくりと開けた。
そこには鈴原さんとオヤジとあのヴァレンタインが居た。そしてオヤジの幼なじみのたんこちゃんもオヤジの隣に立っていた。
四人は応接セットの椅子には座らずに立ち話をしていた様だった。
「なぁ。さっきの外人ってダニエル・ヴァレンタインやんなぁ。指揮者の……」
と哲也が聞いてきた。彼らも気が付いていた様だ。
「ああ、そうや。よう分かったな」
と当たり前のように返答したが、心の中では少し焦っていた。
――なんで顔を見ただけで分かんのや? こいつら――
僕はオヤジに教えて貰うまでは全く気付いていなかった。
「そりゃ、判るやろう。判らん方がおかしいやろ?……で、なんで、そんな大物指揮者がここにおるんや?」
――判って当然みたいな話なんか?――
それはさて置き、彼らは当然のように僕と同じ疑問が湧いてきたようだ。その気持ちはよく分かる。
「冴子のオトンが呼んだらしいで」
どうやら普通は見ただけで巨匠だと判るものらしい。僕は内心少し狼狽(うろた)えながら哲也の問いに答えた。
――俺はもしかして鈍いのか?――
これまでが無頓着すぎたかもしれないと、哲也と話をしながら悟った。
「ホンマかいな? 知り合いなんか?」
「そうらしいで。昔からの……」
「へぇ。流石やな。金持ちは何でもありやな」
哲也と拓哉は呆れたような顔をした。感心も度を超すと呆れかえるものらしい。
「せやな。俺もそう思うわ」
と僕もその意見には激しく同意だった。
「どうせなら、ヴァレンタインに指揮してもらいたかったなぁ」
と今度は拓哉が口を開いた。
「ホンマやな。今からでもやってくれへんやろか?」
哲也が笑いながら応えた。
――その気持ちはよく分かる――
「そりゃ、無理やろ」
と僕は言ったが二人の意見にはまたもや激しく同意だった。
「あ、そうや、『今日の演奏はもう終わりやから、パーティー楽しめ』って」
と哲也は思い出したように話題を変えた。
「誰が?」
「千龍さんが」
「そうなん?」
「ああ。『先生がそう言うとった』って教えてくれた」
「そっかぁ……そう言えば、なんか腹減ったなぁ」
彼らにそう言われて少し小腹が空いていた事に気が付いた。
そんな事も忘れる位に緊張していたとは思っていなかったが、それなりに気が張っていたのかもしれない。
「うん。なんか食いに行こか」
「せやな」
と僕たちはパーティー会場の人たちの中へ入って行った。
僕たちが一つのテーブルを占領して食事をしていると、パーティーの参加者から声を掛けられた。
「とってもいい演奏だった」
「また聞かせて欲しい」と。
どうやら僕たちの演奏はこの人たちに受け入れられたようだった。
僕たちにとってもとってもいい演奏会だったので、是非もう一度ここでやりたいと思っていた。
暫くすると瑞穂と宏美達が僕たちのテーブルにやってきて
「いつまで休憩してんの? 働け!」
と言って僕たち三人はそこを追い出された。
僕は会場内を一回りして空いた食器とかを回収して調理場に持って行った。
再びホールに戻ろうと調理場から出たところで
「あ、亮ちゃん、探しててん」
と冴子に声を掛けられた。
振り向くと息を切らした冴子が立っていた。
本当に会場内を探していたようだ。
「俺を? なんで?」
「うん。お父さんが呼んできてって」
「え、鈴原さんが?」
「うん」
「そうなんや……書斎におるん?」
「うん」
「ほな、ほな行ってみるわ」
と僕は鈴原さんの書斎に向かった。
――わざわざ冴子に呼びに来させるような用件とは何だろうか?――
僕にはまったり心当たりも予想もつかなかった。
冴子も一緒に来るのかと思ったら冴子はその場に立ち止まったままだった。
それを少し不思議に思いながらも僕は鈴原さんの書斎に向かった。
勝手知ったる他人の家ではないが、小さい頃から出入りしていたこの屋敷は、書斎がどこにあるかは聞かなくても分かっていた。
ノックをしてからドアをゆっくりと開けた。
そこには鈴原さんとオヤジとあのヴァレンタインが居た。そしてオヤジの幼なじみのたんこちゃんもオヤジの隣に立っていた。
四人は応接セットの椅子には座らずに立ち話をしていた様だった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる