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うにおいくら

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クリスマスの演奏会

クリスマスフェスティバル

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 僕の後はすぐにオーケストラの演奏が始まる予定だったが、僕がヴァイオリンの席に座ってもざわめきは続いていた。それが落胆のため息でないようなので僕はほっとしていた。

 ざわめきが拍手に変わった。
谷端先生が指揮台に上がった。サンタのミニスカ姿の美奈子先生でないのが少し残念だったが、目のやり場に困って演奏どころではなくなるかもしれないからこれで良かったのだろう。

 谷端先生は普通にタキシードだった。ここは是非ともトナカイの恰好をしてもらいたかった。折角、美奈子先生が体を張った格好をしてくれているというのに……。

 それでもいつものよれよれのジャケット姿ではない先生を見たのは初めてで、タキシード姿もそれなりに似合っていた。
いや、本当に指揮者然として格好良かった。

 そして会場のざわめきは指揮者の登場で落ち着いていった。

先生の一曲目の指揮はこのシーズンお約束のルロイ・アンダーソン『クリスマスフェスティバル』だった。

 指揮棒が上がった。緊張感が走る。僕はこの一瞬が案外好きだったりする。ワクワクする。先生の指揮にも慣れて来たが、やはりこの瞬間は心地よい緊張感を覚える。

 厳かな音の粒で『もろびとこぞりて』で始まったこの曲は有名なクリスマスソング九曲のメドレーだ。
この演奏には夏前に入部した一年生は何とか参加できた。
谷端先生は「クリスマスなんだから楽しくいきましょう」と練習中にいつも言ってくれていたが、そのおかげか出だしはそれほど緊張もせずに全体的にまとまりのある音で始める事が出来ていた。

 僕は演奏しながら案外楽しんでいる自分自身を感じていた。
隣の席では宏美も楽しそうにヴァイオリンを奏でていた。
宏美と同じ楽譜を二人で見ながら弾くのは楽しい。こういう肩肘の張らないコンサートは大好きだ。

 純粋に今ここで、自分が出す事の出来る一番いい音の事だけを考えて弾けるというのが嬉しい。
コンクールとは違う意味で自分の演奏に没頭できるような気がする。そう言えば練習中に指揮者の谷端先生にちょっとした音の違いと言うか弱さを指摘されたことがあったがそれも嬉しかった。新鮮な感覚だった。

 僕達オーケストラの演奏はアンコール曲も含め心地よい余韻の中で終わる事が出来た。

 これを合図にクリスマスパーティーが始まった。
流石にクリスマスの司会までは美奈子先生の受け持ちではなかったようだ。しかしミニスカサンタ姿はそのまま継続されていた。何故か先生は多種多様な異国のオッサン達に囲まれて楽しそうだった。

 そんな先生には関係なく僕達器楽部、吹奏楽部のアンサンブルが始まる。
一年生の演奏から始まったが、このパーティの参加者は飲む事と食べる事に忙しそうだった。

 僕は宏美と冴子と一緒に壁際に立って一年生の演奏を保護者のような気持で見ていた。
一生懸命ヴァイオリンを弾いている後輩たちの姿が微笑ましい。たどたどしいところもあるが、それでも人前で演奏しようというのだから、彼らにとっては今一番自信のある曲だ。思った以上にまとまりのある音だった。

「なんや? 亜紀はステージに出ているやん」
一年生の弦楽四重奏を見ていて、そこに船越亜紀の姿を発見して思わず声が出てしまった。

――一年生はメイドだけだって言ってなかったけ?――

「あの子は一応、経験者やからね。入部が遅かったからオケの方までは無理やったけど、恵子と一緒に真面目に練習していたからね。とりあえずそこそこ弾ける子は度胸試し的に出されたみたい」
冴子が視線はステージの彼女らに向けたまま応えてくれた。

「そうやったんや」
ステージで必死に演奏している一年生四人を見ていると、あとで何か奢ってやりたくなった。

「うん、そう。あ、そう言えば今一緒にステージに上がっている恵子はあんたも見とったよね」
冴子は思い出したように聞いてきた。

「うん。彩音先輩に頼まれて少しだけ……」

「そうなんや。あの子は案外器用な子やな。努力家やし」

「そうみたいやな」

「あの二人は亮ちゃんのファンやって」
と宏美も会話に入ってきた。

「え? 嘘ぉ」
冴子が眉間に皺を寄せながら体を少し引いた。そんな事は信じられないとでも言いたそうな表情だった。
「ホンマにそうみたい」
宏美は笑いながら冴子に言った。

「あんた以外にも物好きがおるみたいやな」
と言う冴子のツッコミに
「ホンマにね」
と宏美は笑顔で返した。

冴子は鼻を鳴らしただけでそれ以上は何も言わなかった。
が、このやり取りは今までの冴子と宏美のそれでは無いなぁと、なんとなく傍で聞いていて思った。いつもなら冴子はもう少し言い返しそうなものなのに、案外素直に引き下がった。

 ちょっとこの二人の立ち位置が微妙に変わったのかもしれない。
だからと言ってこの頃の冴子と宏美の仲が悪くなったか? というとそんな事は全くなかった。今まで通りの二人だった。

 そんな微妙な距離感の違いを感じていたら、唐突に肩を叩かれた。
振り返るとそこにはオヤジが立っていた。無意味に不敵な笑みを浮かべている姿にちょっとイラついた。
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