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気が付いたら天界
唖然
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「……はっ!」
唐突に意識が醒めた。ついでに目も開いたんだが、なにが起きたのかわからず、慌てて周囲へと目を向ける。
周りは草原の様だ。小さな花が咲き乱れていてああ、春だな、と思う。頬を撫でるように吹く風も優しいっていうか、爽やかっていうか……まあ、気持ち良いなと感じるものだった。
そんな草原に立つ俺の……多分左右。俺の左右に俺が腕を回しても抱え切れないサイズの柱が立っている。
柱は白……いや、ちょっとクリーム色っぽいかな?ちょっと触ってみるとひんやりしていて、多分石で出来ているんじゃないかと思う。別に詳しいわけじゃないし石じゃないかもしれないけど。地面から生えたように見える柱は俺よりも高くそびえ立っている。3メートルぐらいありそうだ。
シンプルな柱が俺の左右に、一定間隔で道を作るように立っている。俺が立っているのは柱で示された道の、入り口付近なのだと思う。続いている柱のどれだけか先に屋根のある建物らしきものが見えるからだ。これといったものも無いのでゆっくりとその建物へと向かってみることにした。
そうして向かった建物は壁がなかった。道を作っていた柱と同じっぽい柱と、その柱4本が支える屋根だけだ。その屋根も色合いは同じで、ただどーんと乗っているだけにしか見えないものだった。雨風を凌ぐ四阿……にしてもシンプルすぎる。さらに言えば四阿の中にあるのは長方形の石が横向きに置かれているだけだ。多分……ベンチ。石のベンチが置かれただけの四阿っぽいものとしか見えなかった。
吹く風は温かいし、今は天気も悪くないから休憩するだけならこれで何も問題はないんだけどね。
しかし、なんとも言えない不安がある。だって、俺は何でここにいるんだ?俺は誰だ?気が付いたらここにいたけど、じゃあその前はどこにいたんだ?俺の名前も、何もわからない。でも、柱が柱なのは理解してるし、草や花……は名前はわからないけど、わかるし、四阿とか、ベンチだってわかってる。なのに、自分のことが一切わからない。
落ち着かなくて四阿の中をうろうろしてみるけど、そんなことで解決するわけじゃない。思わず地面に膝をつき、縋るように生えた草をぎゅっと握り締めた。
──誰か助けて!
爽やかな陽気とは裏腹な、黒く渦巻いてゆく心が声にならない声を上げた。
「……なにをしている」
ぐるぐると「どうしたらいいんだ」、と考えていた俺は、そう声をかけられるまで気付かなかった。弾かれたように顔を上げたら、腰に布を巻き付けただけの男が俺を無表情で見ていた。
豊かでふわふわそうな腰まである金髪が風に揺れて、同じ色味のきりっとした眉毛に長い睫毛。彫りが深くしゅっと通った鼻筋に薄くても形の良いほんのりピンク色の唇。顎には髪色と同じ金色の髭がもみあげから続いて生えている。肩幅も広く、がっちりとした上半身で腹は綺麗に六つに割れている。腰に巻かれた布は太ももの中ほどまでだけど、見える部分だけでも脚にもしっかりと筋肉がついていた。地面に触れる足は素足で、なんだか……人間味が感じられない。それは視界に映る男が男らしいイケメンなせいなのか、とも思ったけどそれだけが理由じゃない気がした。
……じっと男を見つめてなんとなく、そう、本当になんとなくだけど、目だと思った。
晴れた空の色の瞳で二重で涼やか、とでもいえばいいんだろうか。見た目は本当に極上の男だけど、その目に温度を一切感じなかったのだ。柔らかな光を反射してるのかキラキラとした瞳なんだけど、まるでガラスのようっていうか……。
男を見つめたままぼんやりとそんなことを考えていたら、男の眉がぎゅうっと寄った。そういえば、声をかけられていたんだった!
「あ、あの……! 俺、は……」
返事をしようとして言葉に詰まる。だって、どう言ったらいいんだ。俺は誰なのかも、ここにどうして居るのかも、何もわからないのに。
言葉を紡ごうにも続く言葉が出てこない。はくはくと唇を動かすことしか出来ないで居たら男は置かれただけの石のベンチへと足を向け、その上に寝転がった。その目は、もう俺のことなんて興味がなさそうに見えて数歩の距離を慌てて男の前に駆け寄る。
「す、すみません……! 俺、何もわからないんです! 俺が誰なのか、ここはどこなのか……! 何か知ってたら教えてください!」
石のベンチに腕を伸ばせば届きそうで届かない、そんな距離に膝をついて頭を下げる。重ねて「お願いします!」と言うと仰向けだった男がもそりと動いたのがわかった。ばっと顔を上げれば男はこちらを向いて横向きになり、頭を乗せた手を支えるようにベンチに肘をついて、やっぱりガラスのような、でもそれだけじゃないような瞳を向けてきた。
「……なんと言うんだったかな? …………ああ、『暇潰し』というやつだ」
「……え?」
言われた言葉が理解出来なかった。いや、意味はわかるけど、何がどう『暇潰し』なのかとか、どうしてソレが俺の質問に対する答えなのか、とか。もっと詳しく教えて欲しい、わけがわからないと目を回しそうになる俺を見て、男はふぅ、と息を一つ吐くとゆっくりと上半身を起こし、石に座った。
「我は主神と人間には呼ばれるだろう。ここには我しかおらず、娯楽? がないのだ。なので情報収集を兼ねて暇を潰そうと適当に摘まんだのがお前だ」
「……え?」
「お前はここに在って、好きにすれば良い」
そう言った男はいつの間にか手にしていた金色に輝く……なんていうんだっけ、ゴブレット?に口をつけていた。喉仏が動いたから、多分何かを飲んだんだろう……って現実逃避してる場合じゃなかった!言われたことを理解しなきゃ……!
えっと、まず、目の前の人……人?いや、主神って言ってたし、主神ってことは、神様ってこと?だよね?……もうこの時点で信じられないんだけど!?
「何が信じられぬのだ」
「はへ!?」
「『信じられない』と言っただろうが」
「えっ!? 言っ……え、俺、口に出してましたか?」
「いや?」
「え?」
「……はぁ……。覗かなくとも強い思考は我にも届く故、今お前が『信じられないんだけど』と言ったのが届いたのだ」
「な、なるほど……それは、すみません、でした……?」
よくわからないまま謝り、脳みそをフル回転させる。とりあえずは、目の前の神は神ということで、うん。……ダメだ、情報が足りなさ過ぎてまったく意味がわからない!
「何がわからぬのだ」
「はぁ……っ! ま、また届いてましたか!?」
「当たり前だろう。しかもこの距離だ。ほとんど届いているぞ」
「そ、それはすみません……! あ、あの、でも、その、し、質問とか、いいでしょう……か?」
「うむ、構わぬぞ」
「ありがとうございます!」
良かった!怒られないみたいだ!えっと、えっと、まず何から質問すべきなんだろう?
「……あの、『暇潰し』とは、どういうことでしょうか?」
「うむ、我の世界はまだ出来たばかりでな。何もすることがないのだ」
「……えーっと、世界が、出来たばかり……っていうのは、此処、じゃなくて、ってことですか?」
「ふむ……お前にわかりやすく言えば、下界が出来たばかりだ」
「……ここを、天界として、人間とかが住む世界が、下界、で……そっちが出来たばかり、ってことで合ってますか?」
「うむ」
な、なるほど?所謂世界は作られたばかりで、……世界が作られたばかりってことは、地面とかは抜いて、最初って確か……細菌とかからじゃなかったっけ?しょ、植物とか動物とか魚とかは……。
「うむ、まだだな」
「あ、はい」
「ふむ、先ほどまでは無駄な時間になるかと思ったが、お前の記憶は面白そうだ」
「俺の、記憶……?」
「そうだ。先ほどから流れる情報はお前のものだろう?」
「え、っと……多分、としか答えられないですけど……」
聞かれても俺自身の記憶がないんですが……。俺が誰なんだ……!?
「知らぬ。その辺におったから摘まんで持ってきただけだ」
……これは、俺が何者かとか、そういう所はわからなさそうだな……。仕方ない、そこは諦めるしかないか。わかったところで、ってのもあるし。暇潰しって言われたけど、俺は何をしたらいいんだろう?何か、色々考えた方がいいのかな?でも、そんなに思い出すものってあるっけ?何万年もかけて進化?していくとかじゃなかったっけ?人間もいないんじゃ、下界を見ても面白くないのかもだし?というか、何が神にとって暇潰しになるんだ?
「あの、俺はここで何をしたらいいですか?」
「……なんだろうな?」
「……えっと、主神……様、もノープラン? 的な?」
「そうだな、ふと思いついただけだ」
「さ、左様ですか……」
やばい、マジで前途多難じゃね!?
唐突に意識が醒めた。ついでに目も開いたんだが、なにが起きたのかわからず、慌てて周囲へと目を向ける。
周りは草原の様だ。小さな花が咲き乱れていてああ、春だな、と思う。頬を撫でるように吹く風も優しいっていうか、爽やかっていうか……まあ、気持ち良いなと感じるものだった。
そんな草原に立つ俺の……多分左右。俺の左右に俺が腕を回しても抱え切れないサイズの柱が立っている。
柱は白……いや、ちょっとクリーム色っぽいかな?ちょっと触ってみるとひんやりしていて、多分石で出来ているんじゃないかと思う。別に詳しいわけじゃないし石じゃないかもしれないけど。地面から生えたように見える柱は俺よりも高くそびえ立っている。3メートルぐらいありそうだ。
シンプルな柱が俺の左右に、一定間隔で道を作るように立っている。俺が立っているのは柱で示された道の、入り口付近なのだと思う。続いている柱のどれだけか先に屋根のある建物らしきものが見えるからだ。これといったものも無いのでゆっくりとその建物へと向かってみることにした。
そうして向かった建物は壁がなかった。道を作っていた柱と同じっぽい柱と、その柱4本が支える屋根だけだ。その屋根も色合いは同じで、ただどーんと乗っているだけにしか見えないものだった。雨風を凌ぐ四阿……にしてもシンプルすぎる。さらに言えば四阿の中にあるのは長方形の石が横向きに置かれているだけだ。多分……ベンチ。石のベンチが置かれただけの四阿っぽいものとしか見えなかった。
吹く風は温かいし、今は天気も悪くないから休憩するだけならこれで何も問題はないんだけどね。
しかし、なんとも言えない不安がある。だって、俺は何でここにいるんだ?俺は誰だ?気が付いたらここにいたけど、じゃあその前はどこにいたんだ?俺の名前も、何もわからない。でも、柱が柱なのは理解してるし、草や花……は名前はわからないけど、わかるし、四阿とか、ベンチだってわかってる。なのに、自分のことが一切わからない。
落ち着かなくて四阿の中をうろうろしてみるけど、そんなことで解決するわけじゃない。思わず地面に膝をつき、縋るように生えた草をぎゅっと握り締めた。
──誰か助けて!
爽やかな陽気とは裏腹な、黒く渦巻いてゆく心が声にならない声を上げた。
「……なにをしている」
ぐるぐると「どうしたらいいんだ」、と考えていた俺は、そう声をかけられるまで気付かなかった。弾かれたように顔を上げたら、腰に布を巻き付けただけの男が俺を無表情で見ていた。
豊かでふわふわそうな腰まである金髪が風に揺れて、同じ色味のきりっとした眉毛に長い睫毛。彫りが深くしゅっと通った鼻筋に薄くても形の良いほんのりピンク色の唇。顎には髪色と同じ金色の髭がもみあげから続いて生えている。肩幅も広く、がっちりとした上半身で腹は綺麗に六つに割れている。腰に巻かれた布は太ももの中ほどまでだけど、見える部分だけでも脚にもしっかりと筋肉がついていた。地面に触れる足は素足で、なんだか……人間味が感じられない。それは視界に映る男が男らしいイケメンなせいなのか、とも思ったけどそれだけが理由じゃない気がした。
……じっと男を見つめてなんとなく、そう、本当になんとなくだけど、目だと思った。
晴れた空の色の瞳で二重で涼やか、とでもいえばいいんだろうか。見た目は本当に極上の男だけど、その目に温度を一切感じなかったのだ。柔らかな光を反射してるのかキラキラとした瞳なんだけど、まるでガラスのようっていうか……。
男を見つめたままぼんやりとそんなことを考えていたら、男の眉がぎゅうっと寄った。そういえば、声をかけられていたんだった!
「あ、あの……! 俺、は……」
返事をしようとして言葉に詰まる。だって、どう言ったらいいんだ。俺は誰なのかも、ここにどうして居るのかも、何もわからないのに。
言葉を紡ごうにも続く言葉が出てこない。はくはくと唇を動かすことしか出来ないで居たら男は置かれただけの石のベンチへと足を向け、その上に寝転がった。その目は、もう俺のことなんて興味がなさそうに見えて数歩の距離を慌てて男の前に駆け寄る。
「す、すみません……! 俺、何もわからないんです! 俺が誰なのか、ここはどこなのか……! 何か知ってたら教えてください!」
石のベンチに腕を伸ばせば届きそうで届かない、そんな距離に膝をついて頭を下げる。重ねて「お願いします!」と言うと仰向けだった男がもそりと動いたのがわかった。ばっと顔を上げれば男はこちらを向いて横向きになり、頭を乗せた手を支えるようにベンチに肘をついて、やっぱりガラスのような、でもそれだけじゃないような瞳を向けてきた。
「……なんと言うんだったかな? …………ああ、『暇潰し』というやつだ」
「……え?」
言われた言葉が理解出来なかった。いや、意味はわかるけど、何がどう『暇潰し』なのかとか、どうしてソレが俺の質問に対する答えなのか、とか。もっと詳しく教えて欲しい、わけがわからないと目を回しそうになる俺を見て、男はふぅ、と息を一つ吐くとゆっくりと上半身を起こし、石に座った。
「我は主神と人間には呼ばれるだろう。ここには我しかおらず、娯楽? がないのだ。なので情報収集を兼ねて暇を潰そうと適当に摘まんだのがお前だ」
「……え?」
「お前はここに在って、好きにすれば良い」
そう言った男はいつの間にか手にしていた金色に輝く……なんていうんだっけ、ゴブレット?に口をつけていた。喉仏が動いたから、多分何かを飲んだんだろう……って現実逃避してる場合じゃなかった!言われたことを理解しなきゃ……!
えっと、まず、目の前の人……人?いや、主神って言ってたし、主神ってことは、神様ってこと?だよね?……もうこの時点で信じられないんだけど!?
「何が信じられぬのだ」
「はへ!?」
「『信じられない』と言っただろうが」
「えっ!? 言っ……え、俺、口に出してましたか?」
「いや?」
「え?」
「……はぁ……。覗かなくとも強い思考は我にも届く故、今お前が『信じられないんだけど』と言ったのが届いたのだ」
「な、なるほど……それは、すみません、でした……?」
よくわからないまま謝り、脳みそをフル回転させる。とりあえずは、目の前の神は神ということで、うん。……ダメだ、情報が足りなさ過ぎてまったく意味がわからない!
「何がわからぬのだ」
「はぁ……っ! ま、また届いてましたか!?」
「当たり前だろう。しかもこの距離だ。ほとんど届いているぞ」
「そ、それはすみません……! あ、あの、でも、その、し、質問とか、いいでしょう……か?」
「うむ、構わぬぞ」
「ありがとうございます!」
良かった!怒られないみたいだ!えっと、えっと、まず何から質問すべきなんだろう?
「……あの、『暇潰し』とは、どういうことでしょうか?」
「うむ、我の世界はまだ出来たばかりでな。何もすることがないのだ」
「……えーっと、世界が、出来たばかり……っていうのは、此処、じゃなくて、ってことですか?」
「ふむ……お前にわかりやすく言えば、下界が出来たばかりだ」
「……ここを、天界として、人間とかが住む世界が、下界、で……そっちが出来たばかり、ってことで合ってますか?」
「うむ」
な、なるほど?所謂世界は作られたばかりで、……世界が作られたばかりってことは、地面とかは抜いて、最初って確か……細菌とかからじゃなかったっけ?しょ、植物とか動物とか魚とかは……。
「うむ、まだだな」
「あ、はい」
「ふむ、先ほどまでは無駄な時間になるかと思ったが、お前の記憶は面白そうだ」
「俺の、記憶……?」
「そうだ。先ほどから流れる情報はお前のものだろう?」
「え、っと……多分、としか答えられないですけど……」
聞かれても俺自身の記憶がないんですが……。俺が誰なんだ……!?
「知らぬ。その辺におったから摘まんで持ってきただけだ」
……これは、俺が何者かとか、そういう所はわからなさそうだな……。仕方ない、そこは諦めるしかないか。わかったところで、ってのもあるし。暇潰しって言われたけど、俺は何をしたらいいんだろう?何か、色々考えた方がいいのかな?でも、そんなに思い出すものってあるっけ?何万年もかけて進化?していくとかじゃなかったっけ?人間もいないんじゃ、下界を見ても面白くないのかもだし?というか、何が神にとって暇潰しになるんだ?
「あの、俺はここで何をしたらいいですか?」
「……なんだろうな?」
「……えっと、主神……様、もノープラン? 的な?」
「そうだな、ふと思いついただけだ」
「さ、左様ですか……」
やばい、マジで前途多難じゃね!?
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