上 下
1 / 5

プロローグ的な?

しおりを挟む
気持ち良い微睡を邪魔するような眩しさを感じる。
もう朝か、としぱしぱする目を腕で擦ってからゆっくりと開けば目に入るのはちょっと古ぼけた壁で、隣に感じない温もりにシーツを掌で撫でてみる。

うん、もう冷たい。

一緒に寝ていたはずの人物はもう起きて何かしら行動を始めているのだろう。
まだ眠気が勝る思考で色々慣れたなとぼんやりと思う。
見える景色にも、隣で誰かが眠ることも、その人物が行動を始めてもびっくりしなくなったことも……どうにか慣れてきた。
ベッドに肘をついて上半身を起こすも、軽いこの体では重みに軋む音も聞こえない。
あの人が乗ったらいい音がしてたんだけどな、なんて思って自分の手を見下ろす。
小さいなぁ、とちょっとため息が溢れた。

不意に窓の方へと顔を向けてみれば太陽の光が目に痛い。
でも、こんな風にゆっくりできる世界に、腕で目元を覆いつつも無意識に口元が緩む。

「異世界サイコー……」

さて、ゆっくりできるからといってモタモタしているわけにもいかない。
ベッドから下りて自分用の小さな革靴に、これまた小さな足を突っ込む。
自分の意識と、それに見合わない小さな体との差異にもようやく慣れたな、なんて思いながら同行人のカバンへと向かい中からゴワゴワするタオルを取り出す。
それを持って年季の入ったドアへと向かい、自分の目線にある鍵を外してよっこいしょ、と開く。
約一週間、慣れてきたとは言ってもまだちょっとおぼつかない所も多い。

ま、慣れざるを得ないんだけどね。

ちょっと暗い廊下を歩き、階段を下りていくと数組の人が席について食事を取っているのが視界に入る。
静かに歩いてたつもりだけど、音がしたのかもしくは気配とやらでも感じたのか、何人かはこちらに視線を向けた。
いつもなら何も思わない視線も、ちょっと今の状態では怯んでしまうのだけど……。
でも、視線の合った人は柔らかく微笑んでくれたから、胸を撫で下ろす。
そんなあたしの様子に、敵意がないよと教えてくれているのか子供が好きなのか、小さく手を振ってくれた。

━━誰にでもホイホイ愛想振りまくのはやめた方がいい。拐われるぞ。

そんな言葉が不意に思い出された。
現在の保護者であるあの人の言いつけは守りたいけど、かと言って無視するのもよくないのでは?と視線を泳がせるけど、やっぱり無視はよくないよなと微笑んでくれた人に小さく頭を下げておく。
愛想よくしたわけでもないし無視をしたわけでもない、ちょうどいい所だろうと思う。

それでも居心地が良いわけではないので早足で移動をする。
向かう先は、この宿の女将さんの所だ。

「おや、もう起きたのかい?」

近付くあたしに気づいた女将さんはわざわざカウンターを拭いていた手を止めてこちらへと顔を向けてくれた。
少しふくよかで抱きしめられた時は、その柔らかさと包容力と温かさに何故か泣いてしまった。
女性の包容力は男性のとはまた違ったものなのだな、と実感したものだ。
とかちょっと大人らしいことを考えて、昨日大泣きした醜態は記憶の隅へと追いやることにする。
恥ずかしいからね。
……こんなことになって二回目の大泣きだったのは秘密だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

時代遅れと辺境に追放された宮廷ダメージ床整備卿の最強領地経営術 ~ダメージ床無しで魔物が帝都に侵入し放題……私の領地は楽園なので移住する?~

なっくる
ファンタジー
「帝国の財政が厳しい今、時代遅れのダメージ床整備卿など不要!」 ”ダメージ床”の開発責任者カール、宮廷財務卿に無駄遣いと断罪され、地方領主に左遷される。 実は胃の痛い宮廷勤めが苦手なカール、大喜びで赴任することに。 一方、カールのダメージ床が敵の侵入から帝国をひそかに守っていた……コスト削減最優先の財務卿と皇帝は、帝国の守りに大きな穴を空けたことに気づかず、盗賊やモンスターに侵入されまくる……帝国に危機が迫る。 のんびりダメージ床の研究とスローライフを楽しむカール、純粋でパワフルな犬耳少女と優秀な技術者の従兄弟、何より勤勉で素朴な領民たちと共に新型ダメージ床の技術を生かして領地を発展させていく。嫉妬した宮廷財務卿から色々な嫌がらせを受けるが、最強になった私の領地には毛ほども痛くないですね! その後、他地域からの移住者も増え、ダメージ床の応用で攻守ともに最強になったカールの領地、気が付いたら帝国に残された最後の希望に? いや、そんな面倒事に巻き込まないでもらえます? 私は平和な領地でスローライフを送りたいだけなんで。 これは左遷から始まるアラサー技術者の最強領地経営コメディ!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...