1 / 10
プロローグ
プロローグ
しおりを挟む
街の一番高いビルの屋上に立っていた。
そのあまりの高さに、少女はぶるっと体を震わせた。
自分が望んで、そこに立ったはずなのに。
いざという時になると怯んで、怖くなって、引き返そうとしていた。
もう、すべてにさよならするのだと。
決意して立った屋上の端っこだったのに。
強い風に身体を持って行かれそうになって、思わず後ろに飛びのいた。
尻餅をついたけど気にならない。
こんな痛みなど、ビルの下の地面に落ちた時のことを思ったら蚊に刺されたようなものだ。
けれど、そこから帰る勇気も持てなかった。
ここから階段を下りれば、またあの苦しみと向き合わなくてはならなくなる。
進むことも戻ることもできないまま、少女はしばらく屋上の冷たいコンクリートの上に座っていた。
誰かに呼ばれた気がした。
立ち上がり、その声の主を探す。
一歩一歩屋上の端に近付いていることにはきづかないで、彼女は空を見上げたまま声の主を探して足を進めた。
夜空はなぜだかとても明るくて、まるで彼女に祝福を授けるかのように輝いていた。
「きれい……」
あれが天国?
親よりも早く逝ってしまおうとしている私が天国なんかに行けるの?
そして彼女の足は屋上の端を踏み越えた。
彼女はそれでも天を仰いだまま。
地上に落ち行く視線の先で、天の輝きが渦を巻き始めた。
ぐるぐると高速で回転する渦は、竜巻のように彼女に向かって伸びてきて、その先で彼女をとらえた。
少女を小さな叫びとともに飲み込んだ竜巻は天へと戻る。
生まれた時と同じように、素早く、静かに――。
***
高い空を砲台を携えた艦船が飛んで行く。
地上には車。
石造りの建物が並ぶ街並みは西洋のどこかのよう。
行き交う人々は、丈の長いドレスを着ている女性に、山高帽をかぶり、ステッキを持った男性。
未来と現代と近世が混在するかのような風景に少女は見とれていた。
「ここが、天国……?」
そう呟きながら。
そのあまりの高さに、少女はぶるっと体を震わせた。
自分が望んで、そこに立ったはずなのに。
いざという時になると怯んで、怖くなって、引き返そうとしていた。
もう、すべてにさよならするのだと。
決意して立った屋上の端っこだったのに。
強い風に身体を持って行かれそうになって、思わず後ろに飛びのいた。
尻餅をついたけど気にならない。
こんな痛みなど、ビルの下の地面に落ちた時のことを思ったら蚊に刺されたようなものだ。
けれど、そこから帰る勇気も持てなかった。
ここから階段を下りれば、またあの苦しみと向き合わなくてはならなくなる。
進むことも戻ることもできないまま、少女はしばらく屋上の冷たいコンクリートの上に座っていた。
誰かに呼ばれた気がした。
立ち上がり、その声の主を探す。
一歩一歩屋上の端に近付いていることにはきづかないで、彼女は空を見上げたまま声の主を探して足を進めた。
夜空はなぜだかとても明るくて、まるで彼女に祝福を授けるかのように輝いていた。
「きれい……」
あれが天国?
親よりも早く逝ってしまおうとしている私が天国なんかに行けるの?
そして彼女の足は屋上の端を踏み越えた。
彼女はそれでも天を仰いだまま。
地上に落ち行く視線の先で、天の輝きが渦を巻き始めた。
ぐるぐると高速で回転する渦は、竜巻のように彼女に向かって伸びてきて、その先で彼女をとらえた。
少女を小さな叫びとともに飲み込んだ竜巻は天へと戻る。
生まれた時と同じように、素早く、静かに――。
***
高い空を砲台を携えた艦船が飛んで行く。
地上には車。
石造りの建物が並ぶ街並みは西洋のどこかのよう。
行き交う人々は、丈の長いドレスを着ている女性に、山高帽をかぶり、ステッキを持った男性。
未来と現代と近世が混在するかのような風景に少女は見とれていた。
「ここが、天国……?」
そう呟きながら。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる