アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

663 ヴァーリのトカゲ

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 そんなことが起きてるなんてまったく知らない俺は、野営食堂で早くも定番になったシャワーを発現してたんだ。

 「奥にシャワー室を発現したからね。女子はこっち、男子はこっちだよ」

 「「「シャワー室?」」」

 「蛇口をひねったらお湯が出るからね。
 最初に砂時計をセットして。砂時計が落ちきったら交代してよ」

 キャー
 きゃー

 ドワーフの女性陣はみんな大喜びだったよ。男はまああんまり喜ばなかったけど。





 





















 「ああ、気持ちよかった!」

 シャワーを浴びたサンデーさんが出てきたんだ。
 湯上がりのサンデーさん‥‥‥‥くんかくんかくんか‥‥。

 「アレク、お前死ぬぞ!血噴いても私は絶対助けねぇからな」

 「あわわわっ!そのとおりでした!ありがとうございますシルフィさん!」

 「気をつけろい!べらんめい」

 「はい。あははは‥‥」

 「サンデーさん、そこに座って。シルフィが髪を乾かしてあげるって」

 「えっ?ここ?」

 


















 「すごい!シルフィさんありがとう!」

 くそっ!シルフィめ!俺の楽しみを奪いやがって!
 
 「そう?じゃあアレク代わってあげようか?」

 「いえ!冗談です。ありがとうございますシルフィさん!」

 うん。俺、サンデーさんにハンドドライヤーやったら間違いなく鼻血噴出で危険なことになると思う……。


 ―――――――――――――――


 「う、うわあああぁぁぁぁぁーー!」

 馬車に無理やり近づこうとしたカーマンの乗った馬が、背のカーマンを振り落とした。

 「痛えぇぇぇっ!」




 ▼




 「くそーっ!なんでドワーフどもがいないんだよ!なんで馬も動かなかったんだよ!」

 魔法士から腰に回復魔法を浴びながらカーマンは毒づいていた。
 
 「おい騎士団長、答えろよ」

 「カーマン様、馬が怯えたのは馬車に載せてあった袋の中にドラゴンの糞があったせいです」

 「糞?お前ら騎士団員なんだろ!?そんなことくらい気づけよ!くそっ!」

 「無駄に時間だけとったじゃねぇか!奴らの作戦にハマっただけじゃねぇか!くそっくそっ!」

 ダンダンダンッ!

 感情の赴くままに地面を蹴り続けるカーマン。

 「ですがカーマン様、本命のドワーフを乗せた馬車はまだきていないのは確定したと思います。ですからここで待てばよいのです」

 「絶対か?絶対なんだな?」

 「は、はい。ここに陣取ればドワーフは必ず現れます。なにせあちら側は砂漠ですので」

 「そんなもん見りゃわかるわ!
 てか‥‥奴ら遠回りして砂漠を抜けてこなくないか?こないとは限らんだろう!?」

 「いえ、さすがに砂漠は誰も歩けませんので‥‥」

 「わかんねぇだろうが!
 よし、10人くらい砂漠を歩かせろ。1日歩かせて奴らの背後に出させろ。
 見つけても捕まえりゃいいだけだろ。うまくいきゃ挟み撃ちもできる。
 どうだ!俺の作戦は完璧だろう!」

 「そ、そんな……。昔から砂漠に入った者は帰ってこないと言い伝えが‥‥」

 「あーもういい!役立たずの上に言うこと聞かない騎士団長なんか取り替えるだけだ。
 マルスだっけ?お前もういいよ。代わってもらって」

 「わ、わかりましたカーマン様。すぐに10名を編成して砂漠より奴らの後方に向かわせます!」

 「わかりゃいいんだよ。文句言わずにすぐに10人くらい送っとけ!いいな?」

 「はは」




 ▼



 ザクッ  ザクッ  ザクッ  ザクッ‥‥
 ザクッ  ザクッ  ザクッ  ザクッ‥‥
 ザクッ  ザクッ  ザクッ  ザクッ‥‥

 「なんで砂漠なんか歩かされるかねぇ」

 「「ホントだよなぁ」」

 「俺ら楽できるからって聞いて騎士団に入ってやったのになぁ」

 「「そうだぞ」」

 「あー怠い。土の何倍疲れるんだよ、砂っていうのは!くそっ!」

 「いいかお前たち。今日1日砂漠を歩いて夕方には外に出ればいいんだからな」

 「「おーすっ」」

 「隊長殿に質問があります」

 「なんだ?」

 「どうして方向がわかるのでありますか?」

 「詳しくは俺も知らん。ただ歩く方向の左側に太陽があればいいと聞いたぞ?」

 「(なんだ隊長も俺らと同じじゃねぇか)」

 「「「ガハハハ、違いねぇ」」」

 「あの‥‥隊長殿。先ほどから太陽が見えない気がするんですが?」

 「なに?‥‥たしかにな‥‥」

 ズーンッッ  ズーンッッ  ズーンッッ  ズーーンッ  ズーーンッ  ズーーンッ‥‥

 「何か揺れてねぇか?」

 「「ほんとだな‥‥」」

 「隊長殿。何か揺れているような‥‥」

 「たしかにな」

 「それとこんなデカい山ってありましたっけ?」

 「山?」

 「!」
 「!」
 「!」
 「!」
 「!」
 「!」
 「!」
 「!」
 「!」
 「!」

 「グアアアアアァァァァァ‥‥」
 

































 砂漠に入った10人の騎士団員は行方不明となったという。

 ―――――――――――――――

 シュッ!

 「ガハッッ!」

 シュッ!

 「グハッ!」

 「これ以上近づくな!」

 「「「退避、退避ーー!」」」

 2日めの日程もほぼ問題なくいけたよ。
 時おり向かってくる奴らは明らかに統制の採れた集団だったけど。

 それは2日めの野営食堂で休憩してるときだったんだ。

 ズズズッッ!

 ギャッギャッギャッ!?
 ギャッギャッギャッ!?

 トカゲたちが急に騒がしくなったと思ったら、1匹のトカゲが室内に入ってきたんだ。

 俺からすればみんな同じに見えるんだけど、トカゲたちにしたら1匹だけ部外者なんだね。

 「お前は!?ヴァーリのサラマンダーか?」

 ヴォーグさんが誰何したんだ。

 「すまねぇヴォーグ‥‥」

 それは、今回の逃避行に参加していないドワーフに憑くトカゲ。
 組合に加盟していないただ1人のドワーフ、ヴァーリさんに憑く火の精霊サラマンダー(トカゲ)だったんだ。



 ▼



 「で‥‥裏切者のヴァーリが何の用だ?」

 「知ってんだぞ!ヴァーリが俺たちのことを総督にバラしてるのも!」

 「しかもチクって金もらってたのもな」

 「「裏切者め!」」

 「「ドワーフの恥さらしめ!」」





















 「すまねぇ‥‥だけど聞いてくれよ!
 この先で待ち構えてる騎士団がヴァーリを人質にしてやがるんだ。お前らが来なきゃヴァーリのやつは騎士団に殺されちまう‥‥」

 「それ、本当なのか?!どうせまたウソじゃねぇのか?!」

 「また仲間売って金儲ける気だろ?」

 「「「そうだそうだ!」」」

 「いや‥‥否定はしない。たぶん‥‥ヴァーリの奴は自分をエサにお前らが集まるって思ってると思う」

 ヴァーリさんのトカゲは人間みたいに苦悩した顔で言ったんだ。

 「そんでもだ。お前らみんながいなくなっちまったら、あいつの周りには誰もいなくなる。たった1人のドワーフになっちまう‥‥」

 「テメーが好きでわしらを裏切っておったから当然じゃろう」

 「「そうだそうだ!」」

 「‥‥‥‥許してくれとは言わねぇ。
 でもどうか頼む。ヴァーリを好きにならなくてもいい。どうか奴を1人きりにしないでやってくれ。頼む‥‥」

 「いいよ」

 俺はそう言ったんだ。だってぼっちは、1人きりは、やっぱり寂しいもん。

 「いいのか?てかお前は誰だ?しかもなんで俺が見える?」

 「俺か?俺はドワーフをアザリアに連れてくのを頼まれた冒険者だ」

 「狐の仮面の下は人族なのか?いや、エルフか?」

 「どっちでもいいだろ。とにかくそのヴァーリさんも助けりゃいいんだろ?」

 「助けてくれるのか!ありがてぇ!じゃあこの先の平野で明日の昼くらいに待ってるぜギャッギャッ‥‥」

 なんだよあのトカゲ。言いたいことだけ言ったらさっさと消えやがって。

 「アレク君助けてくれるという君の気持ちはうれしい。だけど‥‥あいつらは信用できない‥‥」

 「アレク、初対面の私もそう思うわ」

 ヴォーグさんはもちろんだけどシルフィまでそう言うってことはそれなりに理由があるんだろうな。

 「とにかく明日はアザリア領に入るからさ。いいふうになるように俺も考えるよ」

 そう言ったんだ。
 明日はアザリア領に入るから、このままで終わるわけないからね。だいたいカーマンもまだ姿を見せてないし。

 俺は受けた依頼をちゃんと果たすだけだ。


 ―――――――――――――――


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