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第2章 幼年編
538 2度めの人生の終わり?
しおりを挟むズズズズズズズズーーーーーッッ‥‥
ジョングと2人で水中を進んでいく。真下には‥‥ずーっと長くピーちゃんの胴体が続いている。
「この大蛇はヨルムンガーの親分かアレク?」
「いや違う、ピーちゃんだぞ」
「すごくデカい魔獣だな」
「いや違う、ピーちゃんだぞ」
「ティムか?よく使役できたな」
「いや違うって。ピーちゃんはただのペットなんだって」
「ん?」
ズズズズズズズズーーーーーッッ‥‥
「わかったわ!これはアレだわ!宇宙空間を飛ぶ戦艦のオープニングシーン。すたぁ魚ズだね!」
「ソウデスネ‥‥」
毎度のようにシルフィが人の頭の中を覗いては感心して言ったんだ。
「アーカイブだっけシルフィ?俺の頭にはどのくらい入ってるの?」
「アレク、人の頭脳はすごいんだから」
「ん?」
「あんたが今まで見たもの、聞いたものはほとんどすべて脳にストックされてるのよ。アレク本人がアクセスできないだけで」
「マジ?!」
「ええ、マジ。だからアレクが見たアニメから映画、親しい人との会話もすべて脳には残っているのよ」
「それでシルフィがやたらとあっちの世界に詳しくなったんだ!」
「ええ。あんたがお爺ちゃん家で一緒に観てたテレビの時代劇なんかは1話ずつすべて観れるわよ」
「だからシルフィは江戸っ子なんだ!」
「あたぼうよ、べらんめえ!
あんたが好きだったエロゲもあるわよ。観ないけど」
「あわわわわっ」
「フフフ」
「着いたぞアレク。この船だ」
若干聞き取りにくいけど、水中でもジョングと話ができるのには驚いたな。
見上げると、船はゆっくりとロナウの大河を下っていたんだ。あんがい透明度もあるよ。
「シャーーーッッ」
「きれいなのは上流も含めて、何日も雨が降ってないからなんだって。雨続きだったら濁って前がまったく見えないわって」
「アラ、ソウナンデスネ‥‥」
ピーちゃんに会話が筒抜けだったこと、忘れてたよ!
▼
「魔獣寄せの魔石は船首の方に付けてくれよアレク」
「いいけど?って、どこでもいいんじゃね?」
「いや、たぶんアレクの魔力ならとんでもない魔獣たちがやってくる気がするからな。
船尾の子どもたちに少しでも危険が及ばないようにするために。船首に取り付けてくれ」
「そんなことないって。どうせガタロが増えるくらいだろ。
でもわかったよ。で、ジョングはどうするの?」
「ピーちゃんと一緒に後ろに離れて見て
いるよ。ガタロ以外の魔獣が出てきたら逆に俺たち海人族が危ないからな」
「「「長!」」」
「「「ジョング様!」」」
わらわらっと海人族が集まってきた。
「どんな様子だ?」
「へい。子どもたちは牢の中で無事です。が、わしらは全員、船に乗るな、中に入るな、泳いでついて来いと」
「海人族は船に乗るな、汚いと奴らに言われました!」
「俺たちをガタロと一緒だと言うんです!」
「「「くそーっ。人族どもめ!」」」
「なんか‥‥ごめんな。嫌な思いさせて」
「いやアレク様は悪くないっていうか‥」
「「「あ、アレク様‥‥えっ、なんで水中に!?」」」
「ああ、お前らの長のジョングに教わったんだよ、泳ぎ方」
「アレク‥‥俺はなにも教えておらんぞ」
「そんでもだよ。ジョングは俺の水の師匠だもんな」
「フッ。お前、変わった人族だな」
「そっかあ。人族も獣人も人には違いないじゃん」
「「「‥‥」」」
「アレク様、その空気みたいなボールは?」
「これ?空気だよ。だって俺、鰓がないじゃん。
この空気ボールの中じゃ無いと息できないもん」
「どうやって?」
「魔力で空気を覆っただけだよ」
「「「だけ‥‥?」」」
「そうだよ」
「浮かないんですか?」
「大丈夫だよ。魔力操作で浮いたり沈んだりできるから」
「「「魔力操作‥‥だけ‥‥」」」
「(長、アレク様はひょっとして‥‥)」
「(ああ。海洋諸国人にもいたぞ。筋骨隆々の大きな漢が)」
「「「(やっぱり‥‥)」」」
えーっ!?なんだよやっぱりって?
てか、やっぱレベちゃん狙いなのかよ!こいつらみんなそっち系かよ?!
レベちゃんの男🟰(イコール)漢女だもんな。てことはやっぱ海人族って河童の末裔かなんかなのかよ?‥‥俺の尻子玉抜かれるのか!?
ど、ど、ど、どうしよう‥‥。
「アレク、尻を抑えてどうした?具合でも悪いのか?」
「な、な、な、なんともないよ!てかジョングたちはやっぱり、その‥‥‥‥」
アレクの目線がジョングたちの下半身に注がれているのに海人族が皆気付いた。
「「「(長、まさかアレク様はその男色‥‥)」」」
「(今は忘れろ!子どもたちを無事救出できたら‥‥ジャンケンで生け贄を決めよう)」
「「「‥‥はい」」」
アレクもジョングたち海人族も、互いが同時に思った。
「「「コワッ!」」」
「じゃあみんなは後ろで待機な。俺は船首に魔石付けてくるよ」
「わかった」
「「「頼みます」」」
ズズズーーッッ
このへんに魔石を取り付けてと‥‥
ん?
ガタロがやって来た。
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ‥‥
おぉ~どんどん増えてくるよ!何体いるんだよこいら!?
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ‥‥
こうしてみると、確かに海人族とは違うよな。身体は真緑色だし、なによりもガタロは目が血走ってるよ。皮膚にも鱗はあるし、コイツらはやっぱ魔獣だな。うん、キショいよな。
「ギャッギャッギャッ‥‥」
「グワッグワッグワッ‥‥」
ガタロが俺の空気ボールに取りついてきた。
水中ということもあり、俺は刀を振りまわせない。てかそんなことをやったら俺の空気ボールを割ってしまうからね。一瞬脇差で刺突するか魔法を発現するくらいかな。
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ
ギャッギャッ‥‥
ああーなんか前がぜんぜん見えないや。これじゃあマリモかガタロボールだよ。
「んじゃいくか。スパーク!」
空気ボールいっぱいに高圧電流を流す。
「ギャギャギャギャギャギャギャッ‥‥」
1撃でガタロが剥がれ落ちていく。
「アレク、人間誘蛾灯だね!」
「うまいなシルフィ」
「俺ビリビリボールって名付けようかと思ったのに」
「相変わらずネーミングセンスはゼロなのよねアレクは」
「言わないで……」
「スパーク!」
「スパーク!」
3度雷撃を放ったらガタロも近づいてこなくなったよ。野生の勘なのかな。それでも相変わらずたくさんのガタロが湧いている。
そんなガタロが船を登り始めた。
水中にいるガタロは散発的に俺めがけて襲っては来るけど、やっぱ大したことないよ。ただ数が多すぎるな。周りの水中ガタロだらけだもん。
「「!!」」
「アレク!」
「わかってるよ!」
シルフィが声かけするまでもなく、ガタロ以外の魔獣も近寄ってくるのがわかる。
「デカっ!」
脚を伸ばせば10メルは余裕にある巨大タコや、全長5メルを超えるウツボみたいな凶暴な魚魔獣も現れたんだ。
ガーンッッ!
ガーンッッ!
ガーンッッ!
ウツボみたいな魚はそのまま突進してくるから、その都度俺の空気ボールが凹んでるよ。
「破裂するだろ!スパーク!」
指先から指向性のある雷撃を放つ。
ビリビリビリビリビリッ!
「ギャッッ!」
「ギャッッ!」
「アレク、大きなタコが来たわよ」
河原の石をひっくり返すとでてくるデビルフッターとは違う、正真正銘のタコだよ!ただ、デカいな。軽自動車くらいあるよ。
キュッキュッキュッキュッ‥‥
ギシッギシッギシッギシッ‥‥
「だからー空気ボールを破るなっつーの。スパーク!」
ボハッッッ‥‥
うわっ!墨吐きやがった!煙で前が見えないよ!
「どんどん来るわよ!」
そうこうするうちに、巨大タコと同じくらい大きくて攻撃性のあるキーサッキー、ヨルムンガー、ウミガメ、巨大シャコ、5メルは余裕にあるウツボがうじゃうじゃと湧きでてきた。なんだよこれ?怪獣大戦争かよ!?
「ジョングたちが離れててよかったよ。危ないもんねシルフィ」
「そうね。てかアレクも危なくなってきたわよ」
「大丈夫だよ、こんな魔獣くらい‥‥」
そんなことを言ってる矢先から、タコにぐるぐると空気ボールごと巻きつかれたんだ。
ガタロボールの同じように、タコボールが出来上がっていく。
キュッキュッキュッキュッ‥‥
ギシッギシッギシッギシッ‥‥
ギシギシいってるよ!これはあんまりよくないよな。
ギシッギシッギシッギシッ‥‥
「うおぉぉっっ!空気ボールが破れるだろ。やめろよ!何体いるんだよ!離れろよ!スパーク!」
「スパーク!」
「スパーク!」
「あれ?」
「スパークが効かない?」
ヤバっ!?
なんでだよ!スパークが効かないのか?
「違うわ。感電死した魔獣がそのままクッションになってるのよ!」
「マジ?」
スパークで感電死したタコが剥がれ落ちる前に新しいタコがタコボールを形成しているみたいなんだ。
バリバリバリバリバリバリバリ‥‥
空気ボール全体からガラスが割れるような音がしてきた。
ブクブクブクブクブクブクブクブク‥‥
ヤバっ!空気が漏れてるよ。どうしよ?一旦空気ボールを解除するか?でもタコに捕まったら呼吸できないよ。どうしよう?
「シャーーーッッ!」
「ピーちゃんが狐ちゃん助けてあげるわって!」
「シャーーーッッ!」
「ピーちゃん!」
「シャーーーッッ!」
「狐ちゃん助けてあげるって。私のお腹の中に入っててって」
お腹の中?
「シャーーーッッ!」
タコボールを難なく牙で剥がしていくピーちゃん。てか周りの魔獣でさえビビってる様子がありありなんだ。ヨルムンガーでさえ、ピーちゃんから逃げようとしてるよ。
「ピーちゃんありがとう!もういいよ」
「シャーーーッッ!」
ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる‥‥
「ピーちゃん、聞いてる?もういいよ?」
「シャーーーッッ!」
ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる‥‥
どんどん近づいてきたピーちゃんがとぐろを巻くように俺を中に閉じ込めたんだ。
タコボールの危機が去ったと思ったのに、まさかのピーちゃんボールかよ!
「アレク、ついにピーちゃんに食べられるのね!フフフ」
な、な、なんで笑ってられるんだよシルフィ!
お、俺、ついに終わりが来たの?せっかく2度めの人生精一杯頑張ってきたのに。
最期はピーちゃんに喰われて終わり‥‥‥‥フッ、俺らしいか。
でもさ……。
「うおおおぉぉぉぉぉーー喰われるーーー!」
パクっ!
―――――――――
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