アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

431 冬休みの依頼〜グラシアへ

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 「ヴィンランドギルドのアレクと言います。俺の依頼は来てますか?」

 「あらかわいい狐さんね」

 (なぜ子どもってバレた!?)


 キム先輩の弟トマスからの依頼は狐仮面をつけたままでグラシアの冒険者ギルドに行けというものだった。


 「えーっと、鉄級冒険者のアレクちゃんね。トマス様からの伝言はこちらよ」

 なんだよ!そのお遣いに来た子どもをあやすみたいな言い方!
 (いやじゃないけど)


 受付嬢から渡された手紙。それは羊皮紙に魔法印で封を閉じた手紙だった。

 「こ、これは‥」
 

 この魔封印で閉じられた手紙はギルドにある水晶に手を翳し、それが対象の相手のみに開封閲覧されるという手紙だ。対象者以外が開こうとすれば、その手紙は即座に燃え尽きるという。おおーっプロの仕事みたいだぜー!

 「はい狐君この水晶よ。手を翳してみて」

 「ありがとうきれいなお姉さん」

 「あらおませな狐ちゃんだこと。フフフ」




 『アレクありがとうな。今お前がいる冒険者ギルドには既に何人かのマークが付いていると思ってくれ。ここを出たらそいつらを撒いて明日の朝6点鐘に港に集合だ。ああ、くれぐれも闘わないでくれよ。お前は俺たちの隠し玉なんだから。目印は‥‥』



 うんたしかに見張られてるな。めっちゃ視線を感じるもん。
 でもさ、そんなことよりもさ‥‥

 「キムの弟君、めっちゃ字上手くない?アレクもあとで字の書き方教えてもらったら?」

 「あはははは‥‥チキショー!」


 シルフィが誉めるくらいトマスの字は達筆だった……。


 ギーーーーーッッ

 冒険者ギルドの開店扉を開けてグラシアの街を歩きだす。

 冒険者ギルドの前はグラシア市街の目抜き通りだった。
 両側に屋台が立ち並び行き交う人もまるでサウザニアのお祭りや村のバザーのときのようだ。

 グラシアはヴィヨルドの第2か第3の都市なんだよね?
 デカいよな。領都サウザニアより余裕で大きいじゃん!

 ミョクマルさんやサンデーさんが言ってたけどヴィヨルド領って今、領全体の景気が良いんだって。ここグラシアは織物がすごいんだよな。


 そういやヴィンサンダー領は今どうなのかな?干ばつはどうなったのかな。みんな大丈夫かな。


 こないだの披露宴のとき、モンデール神父様も師匠もシスターナターシャもそうした話を一切しなかったし。
 みんなからの手紙も来てないよな。
 あっ!?来てるけど俺が披露宴の準備に夢中になり過ぎてて気づかなかったのかな?



 「(いるねシルフィ)」

 「(ええアレク)」

 冒険者ギルドを出てしばらく歩くうちに探知できたんだ。

 大通りの人混みの中。左右に2名、後方に2名。合計4人の男が後をついてきている。

 「(シルフィそこの角で一気に撒くね)」

 「(ええアレク)」

 そこは煉瓦の壁が続く商店併設の住宅街だったんだ。
 だからもちろん走って撒くんじゃないよ。煉瓦の壁そのものを発現してその間に隠れるって算段なんだ。角を曲がって……。

 サッ!

 「煉瓦の壁カモーン!」

 ズズズッッ‥











 「見失ったのか!?」

 「何処へいった?」

 「「追え!」」

 追えって俺ここにいるよ。なんか忍者っぽくない俺?かっこよくない?いけてない?

 「(行ったよねシルフィ)」

 「(ええもう大丈夫よ。アレクもそのまま永遠にそこに居たらいいんだわ)」

 「(酷くない?シルフィさん‥)」



 しばらくそのまま待ってたら探知に引っ掛からなくなったからまた歩き始めたよ。
 翌朝まで時間あるから、アレク工房でも見てこようかな。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 「そろそろ行くか」

 グラシアの港はすぐにわかったよ。市街地を抜けるとすぐにわかるくらい大きな港だった。

 大河に面して多くの船や小さな舟が係留する整備された港。海の匂いがしないだけ。ぱっと見はまんま大きな海の魚港なんだよね。

 えーっと目印は海洋諸国アイランド一族の旗が掲げられた船だから‥‥ああこれかな。
 

 海洋諸国の旗はちょっぴり独特なんだ。
 一族毎の旗頭。旗は一部分だけがその一族固有のデザイン。独自になってる部分がおもしろいんだよね。

 青地に白抜きのパームツリーが海洋諸国の統一絵柄。
 左右から交差するように垂れ下がるパームツリーの下で尻尾を上げる真っ赤なサソリのマーク。これが海洋諸国アイランド一族の旗頭なんだ。

 「シルフィこの船じゃない?」

 「たぶんそうよね」

 船は昔の帆船みたいだったよ。東北の爺ちゃん家から車でしばらく行ったところに戦国武将が当時の法皇のいるヨーロッパに向けて船を出したっていうんだけど、そのレプリカ船を見学できるんだよね。それを思い出したよ。これも川船なのにめっちゃデカい。

 河なんだけど対岸が見えないくらいめちゃくちゃ大きなロナウ河だから船も大きいのかな。

 船の前ではお爺さんが1人荷物運びをしていた。

 「すいません。冒険者ギルドから派遣されたアレクって言います。トマスさんかキムさんにお取次ぎいただけますか」

 「はいはいわかりましたよ。こちらへお越しくださいますかな」

 「はいお願いします」

 腰の曲がったお爺さんに連れられて船内に入ったんだ。船首付近の艦長室?っぽいところに案内されたんだ。


 「よう狐仮面」

 「ようトマス」

 俺たちは拳をぶつけ合った。

 船は幾部屋もあるキャビンも思ったより大きかった。普通に2、30人は船上生活できるくらい。廻船や北前船を大きくした感じだね。

 帆船仕様。ロナウ河を降るときは帆を張って風任せで進み、逆に上るときは魔石で風魔法を発現して前に進むんだって。

 
 「ありがとうなアレク」

 「気にすんなよトマス。それよりどういう予定なの?」

 「ああ前に話したように商人を護衛してグラシアからロナウ河を下り王都まで行きたいんだ。王都に入るまでの約1週間。船上を含めて俺たちアイランド一族が無事王都の河港に入ればOK。王都では組織ぐるみの大々的な喧嘩はできないからな。だから港に着くまでの間をアレクにも手伝ってもらいたいんだ」

 「ふーん。でもさトマスちょこっと聞いたんだけどさロナウ河の川降りは王都まで真っ直ぐ降って行ったら2、3日だっていうじゃん。なんで1週間なの?」

 「ああそれは理由があってな‥‥兄貴に直接聴いたほうがいいかな」

 「うんわかったよ。ところでキム先輩は?」

 「‥‥」

 「だからキム先輩は?」

 「えーっ?お前‥‥」

 トマスがあの大人が俺によくやる生暖かい顔をして見せた。

 「なんでそんな顔するんだよトマス?!俺なんか変なこと言ったか?てかキム先輩はまだ船に乗ってないのかよ?」

 「お前なぁ‥‥」

 「いやだーかーらーその生暖かい顔‥‥えっ!?ま、まさか?」

 「フッ」

 「ひょ、ひょっとしてこのお爺さん?」

 「クククッ。さすが兄貴だよな。本当にわかんないみたいだな」

 「いやトマスこいつがポンコツなだけだ」

 えつ?!
 ま、まさか‥‥お爺さんはキム先輩だった。

 船内でも荷物の出し入れをやってたお爺さんに俺はなんの疑問も抱かなかった。そんなお爺さんが手を止めて普通に話し始めたんだ。

 「お前なぁアレク……。相変わらず甘いっていうか相手の見てくれだけに騙されるんだよなぁ」

 「ええー?!お爺さんが?!るぱーんかふぉぉじゃあだよ?!」

 「ん?るぱーんかふぉぉじゃあが誰か知らんがな。お前1度会った相手の魔力は覚えなきゃだめだぞ」

 「マジ‥‥。お久しぶりですキム先輩!」

 「ああ久しぶりだなアレク。元気‥だな」

 「でも知らんかったーー!騙されたわ!」

 「「わははははは」」

 「でもキム先輩1度会った相手の魔力ってわかるもんなんですか?」

 「てかアレク、それくらいわからなきゃダメだぞ。索敵もそこまで考えてしなきゃな」

 うんうんと横ではシルフィとトマスが頷いている。

 「トマスもわかるの?」

 「あー初めてアレクに勝てたわ俺」

 「くそー!なんか悔しいな」

 「フッ。人それぞれ外に漏れ出る魔力には特徴があるからな」

 「そうなんですね」


 やっぱキム先輩といるとめっちゃ勉強になるよな。実戦で役立つことばっかだもんな。


 「てことはキム先輩、握手した相手からもわかることがあるんですよね?」

 「ああ握手をすると相手の魔力総量がわかる。それももちろんだがどういった魔法を使うだろうなとか武力はどのくらいだろうなとかもわかるぞ。人によっては親や兄弟など相手の出自までわかるぞ」

 「あーだからか‥‥」

 「どうした?」

 「春にサンデー商会の護衛依頼でアネッポに行ったんですけど、そのときテンプル老師がいたんです」

 「あのテンプル老師か」

「はい。でテンプル先生は握手した俺の顔を見て『なるほどな』って言ったんですよ。なんか笑顔だったし。
 それから武闘大会では帝国やダルク大国の皇帝やエルフの女王や法皇様なんかは握手した後笑ってましたもん」

 「フッ。ってことはお前の情報を知られた可能性があるな」

 「はい‥‥」

 もちろんキム先輩が言ってる深い意味もようやくわかったんだ。俺キム先輩にはもうなんの隠し事もないから。

 「とにかくだ。今後人と握手するときは魔力の強弱や遮断をして逆に偽の情報を流すくらいにしろよ」

 「そんなこともできるんだ!」

 「てかできなきゃダメだろ」

 「あはははは‥」

 「トマスお前は?」

 「フッ」

 「あークソッ!また負けたよ」

 ははははは
 ワハハハハ
 あはははは

 「兄貴、アレクの前ではこんな風に笑うんだ」

 「こいつはお前と同じだからな。家族だな。ああ、お前ら2人とも出来の悪い弟だがな」

 「「あははは‥」」

 そうなふうに言ってくれるキム先輩。嬉しかったなあ。







 「ここからロナウ河を下って王都まで。いい風が吹ければ2日で着くんだよ。だがな途中の中洲が問題なんだ」

 「中洲?」

 「ああ中洲といってもまんま島だ。縦長だけどな。ずいぶんデカいぞ。普通にこのグラシアの街が2、3すっぽり入るくらいだからな」

 「へぇー」

 河の間の中洲か。ああ中部地方の木曽三川の間にある長島だっけ。たしかジェットコースターで有名な遊園地のある所だ。

 「その中洲、グランドっていうんだがな、そこは海洋諸国の飛地なんだよ。実質の管理領有はデグー一族な」

 「デグー一族!」

 「ああ」

 わかるだろっていうようにキム先輩が俺に頷いたんだ。

 「そっか。だからキムはアレクがいればなって言ったんだよ!」

 シルフィがそう言った。もちろんシルフィの言ってることは俺にしか聞こえないけど。

 「デグー一族はこの何年も裏の仕事でヘタ続きでな。海洋諸国の間でも発言権が弱まってるんだ。それで奴らが今更ながら目をつけたのがこの飛地グランド。
 ロナウ河の行き来には右周りだろうが左周りだろうがすべての船がグランドの前を通らざるを得ないからな。
それで奴らが通行料を取るようになったというわけだ」

 「なるほど」

 「通行料が極々僅かなら王国側も見逃しただろうな。だがその通行料が一丁前の通行代金額なんだよ。多く払う船は途中途中の河関をスルーパス。少額になればなるほど途中途中をすべて留まりながら進む。だから2、3日余分にかかるんだよな」

 「それってキム先輩‥?」

 「ああ苦情も増えて王国騎士団が目をつけている」


 「今回河を降る俺たちアイランド一族としては揉めたくはない。だが奴らデグー一族としてはここでアイランド一族がヘタうってくれればいい。何せ今回護衛する商人は海洋諸国を一手に仕切る御用商人だからな」

 「へぇーそういうことなんだ」

 「アレクはデグー一族を知ってるのか?」

 こいつ勘がいいな。

 「ああトマス名前だけは聞いたことがあるよ」


 デグー一族。
 海洋諸国の主だった一族だ。海洋諸国は主要グループ5部族から成る連合組織だという。
 (連合帯という意味では自由都市国家連合と同じかな)

 キム先輩のアイランド一族はどちらかというと保守的らしいんだけどデグー一族は武闘派の急先鋒なんだって。だから元々合わないのにここのところその対立は激しさを増しているらしい。

 俺にとってはもちろん毒薬の原料ノクマリ草の元締めデグー一族……。


 「王都の港に着くまでにデグー一族は必ず襲ってくる。デグー一族も俺たちアイランド一族も自分たちと同じで総合的な戦力自体は大したことないと思い込んでるだろうからな」

 「そうなんですか?」

 「ああ、暗殺にしても護衛、斥候にしても少人数が基本だからな」

 「だから今回お前が来てくれたのはありがたいんだよ。正直お前の大出力の魔法は助かるからな」

 「あははは‥」
 
 「あああとなアレク、デグーの姫は‥‥まぁいい。見てからだ」

 ん?なんだろう?デグーの姫?
 
 「よし、じゃあ護衛対象に挨拶に行くぞ。仮面は外すなよ。言葉は注意しろ。とにかくご主人様と言っとけ」

 「はい」






 それは船室の最後尾の特別豪華な部屋だった。

 コンコン

 「なんじゃ?」


 「間もなく出発しますドスゴルご主人様」

 「ようやく出発かキム」

 「はい。お待たせしました。
 ああ途中の護衛を紹介します。こいつはアレク。トマスと同い年です。普段草をやってる関係で顔を隠している俺の弟です。アレク、こちらは国の御用商人ドスゴルさんと娘のルイさんだ」

 「アレクです。よろしくお願いします」

 「ふむ。アレクとやら、お前は死んでもいいからちゃんとワシらを死ぬ気で守れよ」

 「‥‥」

 「返事は?」

 「かしこまりましたご主人様」

 護衛依頼の対象は商人とその娘だった。
 太ったオッさんと太った娘の2人連れ。同い年くらいかな。娘なんか俺を見もしなかったな。
 うん、初対面から最悪。めっちゃ蔑まれた気がするよ。

 「キム、船には獣人はおらんだろうな」

 「はいご主人様」

 「ならばよし。あいつらは臭くてかなわんからな」

 「パパー出発まだなのー?ルイもう飽きちゃったー」

 「ルイちゃんもうすぐだから辛抱しようね。キム急げ!」

 「はいご主人様」

 





 「キム先輩なんですかアレ?」

 「フッ。仕事だからな。文句は無しだぞ」

 「そうだぞアレク。特にあの雌豚を怒らすなよ。キーキー鳴いて煩いからな」

 「トマスやっぱお前は友だちだよ!」

 「フン!俺は変態じゃないけどな」

 「あー言ったなこいつ!」

 「「わはははは」」



 しばらくして船が離岸したんだ。ロナウ河は対岸が見えないくらい広かった。

 帆にいっぱいの風を受けてゆっくりと下る船。なんか楽しいな。

 「アレク」

 「はいキム先輩」

 「危ない時間帯は日に4度。満潮と干潮の前後だ。そのときはロナウ河の流れが緩やかになるかな。奴らが来るのはそのときだ。あとな」

 !
 !
 !

 「兄貴!」

 「くっ。言う前にきやがったか」

 「何あれ?デカっ!」

 それは河岸からだんだんと迫ってくる大きな‥‥めっちゃ大きな‥‥めちゃくちゃ大きな‥‥デカ過ぎるわ!
 余裕で15メル20メルはあるニョロニョロとした長物だった。

 「何ですか!?あのデカい蛇!?」












 「ピーちゃんだ」

 「はあ?」


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