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第2章 幼年編
398 多数決
しおりを挟むダンジョンを登る10日前。
トールのお父さんが突然亡くなったんだ。
朝方、ウッとなってそのまま亡くなったそうなんだ。不幸なことだけど、それはこの世界ではわりとよくある急な病いだった。
トールのお父さんは、幼い頃流行り病で両親を亡くしたシャンク先輩にとって父親同然の存在の叔父さんだったんだよね。
だからその心痛は察して余りあるものだった。もちろんトールもだけどね。
この世界の葬儀はほぼ火葬なんだ。ゾンビになるのが怖いからね。
まだ事情のわからないトールの双子の妹弟がキャッキャと笑って走りまわる姿に俺は胸が痛かった。
葬儀のあと、セーラが言ったんだ。
「アレク。シャンク先輩は‥」
「ああセーラ、おそらく辞退するだろうな」
「はい‥‥」
ヴィヨルド学園側
として10傑2位のシャンク先輩を前日直前まで待つ方針だったけど、俺とセーラはやっぱりダメかなって思ったんだ。
俺たちも気が動転してトールやシャンク先輩に満足に励ますこともできなかったんだ。
だってこんなにも身近な人の死はなかなか体験できなかったから。
森の熊亭はおじさんが亡くなった翌日から営業を再開したんだ。ヴィンランドの街の人の食を守らなきゃっておばさんが言ったから。
「はい3番さん上がったよー。トール次は」
「シャンク兄ちゃん次は‥」
何事もなかったように森の熊亭で鍋をふるうシャンク先輩とトール。2年10傑の俺たち仲間も激励の言葉が出てこなかった。
ただそばにいて手伝うだけで。
そして。
「アレク君ごめんね。僕やっぱりダンジョンはいけないんだ。代わりにがんばってきてね」
「‥‥はい。シャンク先輩」
シャンク先輩は学園側にも辞退する旨を伝えたみたいだ。
退学も視野に入れててたらしいけど、せめて学園は卒業してくれってトールのお母さんが懇願したらしい。だから昼間の厨房はおばさんが1人でがんばるんだって。
10傑専用の部屋で。再び6年の人族の先輩たちから提案が出されたんだ。
「シャンクは学園ダンジョンを辞退することになった。代わりに登ってくれる仲間は6年人族の‥‥」
ここからは言葉が悪いけど、なんとなく他人事みたいな気がしたんだ。俺自身、ダンジョンへの熱も急速に冷めていったし。
6対4
多数決で総隊長、副隊長は6年人族の先輩に決まった。
「先輩何かできることありますか?」
「あーないない」
「先輩ここはこうしたらどうでしょう?」
「ふーんいーんじゃなーい」
「(チッ2年生のくせにうぜぇなあいつ)」
「(ちょっと1回行ったぐらいで調子に乗りやがって)」
「先輩!その考えは間違ってると思います!」
「やめろセーラ」
「だって‥‥」
「それでもだ!」
なんとか寄り添えないか、歩み寄れないかって努力したんだよ。
それでも6年人族の先輩たちの「自分たちが優れている」感はなくならなかった。
▼
先輩たちみんなが帰ったあとの10傑専用の部屋で。
思い出すのはマリー先輩の言葉だ。
「あとね、私と同じでアレク君はこれから6年間、学園ダンジョンの探索が続くわ」
「はい」
「たぶんね、下級生でいる内は意見も通らない可能性があるわ」
「今年、こんなにいい先輩たちばかりなのにですか?」
「ええ。残念ながら人って考え方をなかなか変えられないものなのよ」
「はい‥‥」
「ううっ‥‥」
「アレク!」
自然と、涙が頬を伝ったんだ。
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