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第2章 幼年編
371 繋がり
しおりを挟む日照りからの干ばつを予想?予知?した俺。でもいきなりそんなことを言われたら‥‥それは信じないどころか虚言癖があるのかって誰もが思うよね。
でも違ったんだ。
しばらくして。
ポンコーさん、次いでシスターサリーが相次いで声を上げたんだよ。
「信じるさアレク君」
「信じるわよぉアレク君」
その言葉は他のみんなにも広がったんだ。
「「「俺(わし/私)も信じるよ」」」
「「「ああアレク君の言うことだもんな」」」
「(なぜ?なぜなのシャーリー?なんでこの村の人たちはアレクの言う荒唐無稽なことを信じるの?)」
「(うーん、積み重ねかな)」
「(積み重ね?)」
「(うん。最初から信じてはもらえないわ。それは信頼関係なのよ。私たちもそうでしょ?)」
「(うん……。そうよね!)」
「俺なんかの子どもが言うことを信じてくれてありがとうございます」
「あー俺チューラットのツクネの前にアレク君がいきなり発現した石のテーブルを思い出したよ」
「ああ俺もだ」
「「俺も!(私も!)」」
「あのときいきなり空中から石の机が3つ発現したんだよな」
「「「ああそうだったな」」」
「あのときはびっくりしたよなあ」
「「「ああ」」」
「でもあれからアレク君やデニーホッパー村、ニールセン村とのつきあいが始まったんだよなあ」
「「「そうだよなあ」」」
あー懐かしいなあ。チューラットのツクネ。
ああダメだダメだ。昔話じゃなくってこれから起こる災害とその対策を話さなきゃ。
「だからこのままだったら雨も降らない夏になります」
「「「‥‥」」」
「雨が降らないのぉ?」
「はいシスター。おそらく冬までまったく降らないでしょう」
「それじゃあ農作物は?」
「ええ。麦や芋はもちろん、わずかばかりの稲の苗も枯れてしまうでしょうね」
「たださえ人頭税やなんやかんやと重税になるというのに‥」
「来週からは騎士様も来るっていうしな‥」
「その費用も捻出しなならんのか‥」
「「「‥‥」」」
来たるべき災害対策は喫緊の課題だ。
雨が降らない。それは水の精霊ウンディーネのディーディーちゃんが教えてくれたんだ。おそらくって言うか必ずそうなるだろう。てか、ここの村でも重税かよ!本当に何やってんだよあの3人は!
「アレク君僕たちに何かできることはあるかい?」
「はい。まずはみんなの畠を毎日いつも以上に耕して土に空気を入れてください。それが干ばつ対策にできる大事なことになります。それから川や井戸が涸れると思いますから、村にある井戸は俺が全部もっと深く掘り直しますね。あと村の奥。山の麓に貯水用の池を作りたいと思いますがいいですか?」
「もちろんいいよ」
「「「当然だよ」」」
「高台に池を作っていざというときにそこから水を流せば冬まではなんとかなるかと」
「池!?でもそんなことが‥‥ああこの建屋を見ればわかるな。アレク君だもんな‥‥」
「「「だよねー」」」
わはははは
フフフフフ
なんかね、半分呆れたようにみんなが俺を見て笑ったんだ。
「「「わははは‥」」
「あははは‥」
これから夏にくる雨が降らないことによる干ばつ。なんとかみんなに信用してもらったよ。
でもなんだか場の雰囲気が深刻じゃないんだよね。やっぱのんのん村の気質かな。
「シスター。私春休みだからサウザニアからシャーリーやアレクの村に泊めてもらってるです。みんななんで子どもの言うことを信じられるんですか?」
「えーっとねミリアさん。始まりはツクネなぉ」
シスターサリーがこれまでの経緯をミリアに話したんだ。のんのん村がチューラットの被害に悩んでいたこと。それをニールセン村のマモル神父様に相談。神父様からうちのデニーホッパー村の師匠に相談。そして師匠から俺が遣わされたってこと。それ以来のんのん村、ニールセン村、デニーホッパー村3村の親睦が始まったってことを。
やっぱり村と村の付き合いが深く永くなってきたのが大きいよな。助け合いなんだよ。
俺に関しては師匠やシスターナターシャのおかげだと思う。だって俺ふだんヴィンサンダー領に居ないからね。たぶんシスターナターシャや師匠の人徳だろうな。2人とも俺のことを手紙も送ってくれてるだろうな。町長のチャンおじさんの付き合いもあるだろうな。サンデー商会さんやミカサ商会さんからの声かけもあるのかもしれない。うん。俺だけだったら絶対信用されないよ。
白熱した会議は夜になるまで続いたんだ。
「じゃあ会議はここまで。ごめんねアレク君、シャーリーさん、ミリアさん。こんな永く引き留めてしまって」
「大丈夫ですよ。このままここに泊まらせてもらいますから」
「何言ってるんだい。そんなのはダメに決まってるだろ!今日は家に泊まってもらうからね」
「3人がもう少し大きかったらそのまま朝まで酒盛りだよ!」
「さすがに酒はダメだよなぁ」
「あたりまえです!」
「じゃあ町長とポンコーアレク君たちをしっかりもてなしてけれよ」
「「「そうだぞ」」」
「いえ俺たちは泊まらせてもらえるだけで。なあ」
「「うん」」
「じゃあ大したことはできないが家にきてくれよ」
「いいんですか!ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
夜は町長さんとポンコーさんが住む家にお世話になった。そこでも田植えから栽培までをあらためてじっくり説明したんだ。
何せ言葉だけの説明だからめちゃくちゃ説明し難いものだったけど。シャーリーとミリアはずっとメモをとっていてくれていた。
「じゃあアレクの話をまとめたら手紙を送りますね」
「ああ。シャーリーさん、ミリアさんありがとう」
【 ミリアside 】
私の疑問にシスターサリーが応えてくれた。小柄でかわいい見た目のシスターサリー。彼女を見るアレクの変態みたいな顔はイヤだったけど。
「チューラットの被害をなくしてくれたのはアレク君よぉ。
誰だって害を与える魔獣のような嫌なものは嫌だし、ツクネのように美味しいものは美味しいわぁ。
だからねミリアちゃん、そんなアレク君を遣わしてくれたニールセン村にも感謝してるしデニーホッパー村にも感謝してるのよぉ。
そしてねぇ、なにも難しいことじゃないわぁ。嬉しいこともかなしいことも人族も獣人も同じなのよぉ。そしてそんな仲間のアレク君の言うことだからみんな信じるのよぉ」
「はい。わかりました!」
シスターサリーの言ってることは私の胸にすぅーっと入った。
信じる心に信じられる仲間か。シャーリーもアレクも私には大事な仲間だもんな。アレクは仲間っていうか、それよりも‥だけど……。
とってもいい春休みになってる。ディル神父様の言ったとおりだわ。ここでのことを父様や母様にも話さなきゃ。
それと‥‥ずっと思ってたんだ。アレクやシャーリー、シスターサリーのみんなが獣人を一切差別していないことを。これって当たり前に立派だわ。
ーーーーーーーーーーー
翌朝まだ薄暗い内に。
シャーリーとミリアが寝てる間にポンコーさんと山の麓に行き、池を発現したんだ。
「いでよ小さなダム湖!」
ズズッ‥
ズズッズズッ‥
ズズッズズッズズズーッ‥
「アレク君僕は夢を見てるのかな?」
「あはは。ポンコーさんちゃんと起きてますよ」
「そ、そうだよね‥」
そうは言いつつ、ポンコーさんはしきりに自分の頬をつねっていたけど。
池はだいたい学校の25mプール4面くらいの大きさ。深さは2mくらい。元々湧水の出る場所だからこれから夏になっても涸れることはないんだって現れたウンディーネたちが言ってた。そんなウンディーネたちもすぐに楽しげに水の縁で遊んでいたよ。これなら雨が降らなくても大丈夫だな。下の畠に水が流れる水路も作った。池から溢れた水は緩やかな高低差から村のすべての畠に水が行き渡るよ。
そのままポンコーさん家の畠も1枚水田に替えた。
「じゃあポンコーさん。これが水田です」
「わかったよ。ここに米の苗を植えたらいいんだね」
「はい。稲穂が垂れて収穫を迎えることができそうになったら水を抜いてください」
「うん。でも大丈夫かなあ」
「大丈夫ですよ。昨日の話をまとめたものをシャーリーが手紙にしてくれてると思うんであとはそのとおりにやってください」
「そうだね。あとは適宜アレク君のお父さんたちやニールセン村の人たちと相談しながらやってみるよ」
「はい。お願いします」
ポンコーさんの畠も1枚水田にした。10日もしたら種籾も発芽するだろう。
ゴーンッ ゴーンッ ゴーンッ ゴーンッ‥
「おっ。6点鐘だ。良い音色だね」
「はい。そうですね」
「朝ごはんにしようか」
「はい。ポンコーさん俺腹減りましたよ」
「僕もだよ」
「やっぱのんのん村の芋はうちよりおいしいですよね」
「そうかい。デニーホッパー村の芋も前よりずっとうまくなってると思うよ」
「それはだってポンコーさん。前が酷すぎましたもん」
「わははは。たしかに石だらけの土だったからね」
「うちの土ものんのん村みたいに‥」
6点鐘を知らせる鐘の音が村中に響き渡った。それは穏やかでどこまでも澄んだ音色だった。
「うまっ!」
「「美味しーい!」」
「おばさん俺おかわりください」
「あー私も」
「私もくださーい!」
「「「うまーい!」」」
ポンコーさん家でいただいた朝ごはんのスープ。やさしい味わいがいかにものんのん村だって思えたよ。
▼
「じゃあシャーリーさん。また秋にデニーホッパー村に行くのを楽しみにしてるよ」
「はい!」
「ミリアさんも秋にデニーホッパー村でお会いしましょう」
「はい。かならず」
「アレク君は‥‥つぎはいつ来てくれるのかな。ワハハハハ」
「あははは‥(ダンジョン次第だよな)」
行きの同じようにのんのん村のみんなが見送りにきてくれた。
「うっ、うっ、さようなら‥」
なんかミリアが感極まってけど?
「じゃあ帰ろうかシャーリー、ミリア」
「「ええ」」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥
「お前ら歩けるよな!」
「嫌よ!」
「もっと速くよ!」
「なんだよそれ」
「「速く速く!」」
「お前らなぁ‥」
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