アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

356 瓢箪からインド人?

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 「じゃあ皆さん入っててください」
 「ああ坊‥」
 「なんでこんなところに貴族様のお屋敷が‥」
 「ワシら夢を見とるんかの‥」
 「やっぱりキツネコーンの幻術かの‥」


そしてお爺さんお婆さんたち6人が野営宿舎に入る前。居ずまいを正してお礼を言ってくれたんだ。

 「坊。助けてもらって尚且つこんな素晴らしいお屋敷にまで上げてもろうて。ありがとうの」
 「「「ありがとう」」」
 「名乗りもせずに悪かった。ワシらはナゴヤ村の‥‥ああ、今は元ナゴヤ村の年寄りじゃ。ワシはシシ。こっちはカバ、こっちはブーじゃ」

 (えー!?シシカバブじゃん!インド人じゃん!)

 「あっ。俺はデニーホッパー村出身で今はヴィヨルド領のアレクって言いいます」
 「ありがとうアレク坊や」
 「アレク‥どっかで聞いたことがあるの‥」
 「ああワシもどっかで聞いたことがあるわい‥」
 「ワシもじゃ」
 「私もじゃ」
 「「「なんじゃったかのぉ?」」」

 「ははは、まあまあ。まずは中に入ってください」
 「ああアレク坊。お邪魔するの」
 「じゃあしばらくのんびりしててくださいね。俺は魔獣を狩ってきますから」


 お爺さんお婆さんたちには野営食堂の中に入ってもらい、俺は夜ごはん用の魔獣を狩りに行ったんだ。だってまさかこんなことになるなんて思ってもいなかったからね。食べものは自分用の塩とお土産用のメイプルシロップ、保存用のクーラーに入れたキーサッキーと魚くらいしかないから。さすがにお土産を食べるのは躊躇われるし。

食糧はすぐに確保できたよ。運良くオークがいたからね。



 「じゃあ皆さん召しあがれ」
 「あ、ああ。ありがとうなアレク坊‥」
 「坊やありがとうね‥」
 「(なあ婆さん、なんやら魔獣のキツネコーンに騙されたようじゃの)」
 「(ほんにのう)」
 「(でもワシら騙してもアレク坊に何の得もあらせんわの)」
 「「「しーーっ!」」」


 急遽の野営食堂メニューは獲ってきたオーク肉を塩で焼いたもの。ふつうに美味しいと思うよ。塩は香草で味をつけた特製アレク塩だし、肉は元々が美味しい赤身のオーク肉だからね。
もう1品オーク肉を練ったハンバーグも作ったよ。シンプル塩味のハンバーグ。戻した乾燥タマネギーと人参を入れただけのものだけど。
あとは持ってきた乾燥野菜を入れた骨つき肉のスープ。これは顆粒コンソメスープで味つけしてある。
ダンジョン飯を作ってきたおかげで、今ある物からどうしたら美味しいものが作れるのかを一層考えられるようになった。あるもので美味しく料理を作る。まるで南極の料理人さんだね。


 ◯ 野営メニュー

 ・ オーク肉のグリル
 ・ オーク肉のハンバーグ
 ・ コンソメスープ


 「じゃあみなさん遠慮なく召しあがれ。お代わりもいっぱいありますからね」
 「ほ、本当に食っていいんかアレク坊?」
 「ごくんっ。本当かいアレク坊や?」
 「まさかアレク坊‥‥婆さんの身体がめあ」
 「(何の罰ゲームだよ!)はいはーい。早く食べないと俺が全部食っちゃいますよー!」
 「「いっ、いただきます」」
 「「「いただきます」」」

 ‥‥

 ‥‥‥‥

 ‥‥‥‥‥‥

 ここからはもう本当にすごかった。俺、飯を作るのが好きなのは、食べる人のこんな顔を見られるからなんだよね。

 「こんな美味いもんは生まれて初めてじゃわい」
 「婆さんワシら生まれて初めてオーク肉を食うたな」
 「ほうじゃの爺さん」
 「「うまいうまい!」」
 「これは噂に聞くツクネかの。肉を刻んだという‥」
 「ああ、これがツクネですよ」
 「実にうまいの」
 「「美味いのぉ!」」
 「このスープもどうだ!」
 「ワシらが食っとるものとはまるで違うぞ」
 「「美味い美味い!」」
 「もう死んでもええわい」
 「「「ほうじゃの」」」
 「こんなお屋敷の中に入るのも生まれて初めてじゃ」
 「「「夢のようじゃ」」」
 「「「ほうじゃのぉ」」」
 「婆さん、ほれアレク坊を」
 「はいはい!まだまだお代わりも食べてくださいよー!」

 お爺さんもお婆さんもみんなが大喜びで食べてくれたんだ。
 解体して持ってきたのは10㎏くらいのオーク肉。ダンジョンの仲間ならこれくらいじゃぜんぜん足りない。でもやっぱり高齢のお爺さんお婆さんたちには多かったみたい。
 まだ食べてないオーク肉はけっこう余ったし。

 「アレク坊、この余った肉はどうするんじゃ?」
 「うーん。どうしましょう。塩をつけて干し肉にするくらいですかね」
 「ワシら何もアレク坊にお礼もできんからの。せめてワシらの村の味つけで少し食べてくれんかの」
 「もちろんいいですけど?」
 「じゃあアレク坊にワシらの村の味つけで感謝を表すかの」
 「「ほうじゃの」」

そう言ったシシカバブの代表シシ爺さんが腰に下げた麻袋から何かの調味料らしきものを出したんだ。

 「ワシらの村は昔から貧しくての。だでたまに獲れる魔獣は残さず食うんじゃが、肉は
2日めからすぐに傷むじゃろ。貧しいワシらも臭い肉は嫌じゃからの。じゃから昔からこの種と木の根を潰して粉にしたものにつけて焼いて食っとったんじゃ。たまにはスープに入れたりしての。これは肉の臭いが消えるからの」

そう言ったシシ爺さんとカバ爺さん、ブー爺さん、シシカバブの3連星が流れるような共同作業を見せたんだ。小さな石の器とすりこぎみたいな石棒で種と木の根っこをトントン、トントン叩き始めたんだ。
 シシカバブ3連星が叩いた粉を嫁の婆さん3連星がブレンドして肉にまぶして焼いていく。
立ち上るこの匂いは……。間違いない。カレーだよ!

 (ま、ま、まさか‥‥)

 (この匂いは間違いない!カレーだ‥‥)

 (マジかよ‥‥)

 「シン爺さん、これって‥‥」
 「ああ。そりゃアレク坊は知らんわなぁ。ワシらの村の人間しか知らんからの」
 「せ、説明してくれますか‥‥」
 「ああ。これはコーリンダアの種じゃな」
 「(少し爽やかな柑橘を思わせる香りだ。間違いない。コリアンダーだ)」
 「これはクーミンの種じゃ」
 「(クミンだよ!)」
 「これはカルガモンの種じゃ」
 「(カルダモンだよ!)」
 「この木の根はウンコーじゃ」
 「(名前アウト!でもウコン、ターメリックだよ!)」
 「でこいつがチリリの実じゃな」
 「(はいチリペッパー、唐辛子の登場だね!)」

マジかよ!
まさに瓢箪からインド人だわ!
爺ちゃんはよくスパイスカレーを自分で作ってたからな。当時喜んて爺ちゃんの手伝いをしてた経験とその記憶のおかげだよ!これでついにカレーが作れる。

しばらくして。
シシカバブの3家が焼いてくれた肉はあの懐かしいカレー味だった。

 「う、ううっ‥‥」
 「なんじゃアレク坊。そんなに不味かったか」
 「いえ‥‥うますぎる‥‥」
 「おお!この味をうまいと言ってくれるかアレク坊!」
 「「「うれしいのお!」」」
 「うまーーーい!」

ついにカレーの誕生だよ!帰ったら学園長にも報告しなきゃ!

 「シシ爺さん、この種はどうやったら育つんですか?」
 「「「わははは」」」

シシカバブ一家(もうこの呼称がピッタリだよ)の6人が大笑いしたんだ。

 「どうやってってアレク坊。そのへんの地面に撒いたらなんもせんでも勝手に伸びるわい」
 「ああ水撒きも要らんにゃ」
 「根っこも土撒いときゃ放っといても生えてくるわい」


 「村についたら俺が間違いなくシシカバブ一家の面倒をみますからね!」
 「シシカバブ一家?」
 「おもしろ名前じゃのおアレク坊」
 「じゃあワシがアレク坊の嫁になろうかの」
 「あわわわ!(だからなんの罰ゲームなのさ!)」

 「「「わははは」」」


スープカレーやスパイスカレーは、このコリアンダー、クミン、ターメリック(ウコン)
、チリペッパー、カルダモンをブレンドすれば出来る。カレーライス用にはさらにこれらをブレンドして小麦粉と油脂を合わせれば日本の誇るカレー粉ができるんだよ。
白ご飯にカレー。やった、やった!ついに今まで不満だった食のマイナスが一挙に解決できたよ。醤油と味噌は米や麦から作る算段もできてるし。
ようやく俺的異世界飯が花開くな。





シシカバブ一家とはこのあと3日かけてデニーホッパー村まで無事に着いたんだ。

 「同じじゃ!」
 「アレク坊が作ったのと同じ屋敷がある!」

当面の居住は村営宿舎になったんだけど、野営宿舎で3日すごしたシシカバブ一家はあらためて腰を抜かすくらい驚いていたよ。



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