アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

326 悪夢のような現実

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坂を上りきった先。ブーリ隊がいる場所はすぐにわかった。それは今もまさに闘い続けているからだ。そして何より何体もの天狼が倒れているからだ。

 ガルルルーーッッ‥

 グギャッグギャッ‥

 ガルルルーーッッ‥

えっ!?天狼が吠える声じゃない?
あの姿は!
まさかゴブリンアーチャーか?
とにかく急ごう。

 ガルルルーー!
 ガルルルーー!

 グギャッ!
 グギャッ!

いきなり背後から現れた俺に驚愕する天狼にゴブリンアーチャー。でも待つ余裕なんか与えない。

 「サンダーボウ!」
 「サンダーボウ!」

 ガフッッ
 ギャァァ
 ガアァァッッ
 ギャアァッッ

 射程のいっぱいいっぱい。200メルを使ってどんどん倒していく。天狼は倒せなくったって仕方ない。少しでも戦意を削げたらヨシだ。
 でもこの階層は天狼だけじゃなかったのか?

 「アレク、天狼だけじゃないわ。ゴブリンアーチャーもよ!」
 「ああシルフィ。イレギュラーだ。たぶんあのゴブリンソルジャーが指揮をとってるんだ」
 「そうね‥」
 「とにかく急ごう」
 「ええ」

 「サンダーボウ!」
 「エアカッター!」
 「サンダーボウ!」
 「エアカッター!」

 ガアァァッッーー
 ギャアァッッーー

進路上の魔物は俺の雷魔法で、左右の魔物はシルフィの風魔法で。とにかく倒して先輩たちの下へ急ぐ。

 「急げ急げ。先輩たちのところへ!」
 「ええ急ぎましょう!」

急ぎながらも俺ね、正直に言うとね、遺物の音(救援要請)は間違いじゃないのかって思ってたんだ。
だってブーリ隊の先輩たちだよ?めちゃくちゃ強いんだよ?
体術では俺を圧倒するタイガー先輩が斥候でいるんだよ?タイガー先輩が天狼に負ける絵図なんて想像もできないよ。
でも何かの理由で仮にタイガー先輩を抜けた天狼がいたとしてもオニール先輩がいるんだよ。あの槍の刺突に屈しない天狼がいる?居ないでしょ!
それでもだよ、それでももしタイガー先輩とオニール先輩を抜けた天狼が居たとしてもビリー先輩が控えてるんだよ?
俺より精度の高い矢を放つビリー先輩なんだよ?しかも頭なんか抜群に良いんだよ?
仮に乱戦になっても今度はそこにゲージ先輩がいるんだよ?
あの圧倒的な破壊力がある尻尾の攻撃を躱せる天狼なんているのかな?
そしてブーリ隊の本陣はリズ先輩なんだよ?
とんでもない重力魔法をぶっ放すんだよ?
重力魔法だけでもすごいのに聖魔法も火魔法も使えて、魔法陣も使いこなすんだよ?
そんな先輩なんだからはっきり言って並のベテラン鉄級冒険者チームでも歯が立たないくらいなんだよ?

そう思いつつ本陣を目指す俺とシルフィ。でも心の片隅にはあのゴブリンソルジャーの憎しみに満ち溢れた瞳がチラチラしてたんだ。アイツなら何か仕掛けるんじゃないかって……。


混戦模様のブーリ隊の中に俺は突っ込んだ。
そこではブーリ隊の先輩たちが何体もの天狼相手に奮闘中だった。

 「タイガー先輩お待たせしました。俺だけ先に来ました!」
 「アレク!よく来てくれた。リズとゲージのところへ行ってくれ!早く!」

あれ?
タイガー先輩のあんな顔、初めて見るぞ。怒りと焦り、それと泣いてる?

本陣の手前ではオニール先輩がいた。

 「ア、アレク。リズのところへ行ってくれよお‥ゲージの尻尾も取れちゃったんだよぉ」
 「オニール先輩!オニール先輩!どうしたんですか!」
 「天狼とゴブリンアーチャーがな‥‥」

タイガー先輩の様子もいつもと違っていた。だけどオニール先輩の様子はさらに違っていたんだ。目も虚ろなオニール先輩。オニール先輩ははっきりと泣いていた。目を真っ赤にして、鼻水を垂らしまくった顔をして。心が折れていたんだ。
 なんだ?いったい何があった?

 「こっちだアレク君!」

本陣前。そこには返り血なのか自身の血なのかわからないけど、全身に血を纏って闘っているビリー先輩がいた。

 「ビリー先輩!」
 「アレク君よく来てくれた。天狼の背にゴブリンアーチャーがカモフラージュしてたんだ。まんまとやられたよ」

 そう言いながら、矢を放つビリー先輩。

 シュッ!
 グギャッッ

 「ビリー先輩。ゲージ先輩とリズ先輩は?」

俺、ホントはすでに視界に2人の姿が入ってだんだけどね‥‥認めたくなかったからわざとビリー先輩に訊ねたんだ。

 首を左右に振ったビリー先輩。ビリー先輩も‥‥静かに泣いていた。

 「えっ?!なんで‥‥」

 背中を丸めて倒れ伏すゲージ先輩。その背には数多くの矢が刺さっていた。そしてそれ以上に俺がショックを受けたのはゲージ先輩の尻尾だ。あの立派な尻尾が根元から千切れていた……。

 「ゲージ先輩!ゲージ先輩!」

目を閉じたままのゲージ先輩は身動きひとつしなかった。そして‥‥ゲージ先輩が身体を丸めて守っていたのはリズ先輩だった。
本陣から血の滲んだ道すじがゲージ先輩の懐まで続いている。それはリズ先輩が這ってゲージ先輩のところまで行ったという証しだ。
ゲージ先輩という大きな身体に包まれて、リズ先輩は静かな笑顔を浮かべて横たわっていた……。

 「リズ先輩!ゲージ先輩!リズ先輩!ゲージ先輩!起きてください!なんで?なんでなんだよーー!」


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