アレク・プランタン

かえるまる

文字の大きさ
上 下
314 / 722
第2章 幼年編

315 クインテット(五重奏曲)①

しおりを挟む


【  ボル隊side  】


ギギギギギーーーーー

45階層休憩室の扉を開けた。
そこは額縁のあるキャンバスに描かれた絵画のようだった。雄大にして陰鬱な風景。真ん中には石畳の旧道が遥か先にまで続いている。その左右にもやっぱり遥か彼方まで荒野が広がっていた。雄大なんだけど、生命の息吹は感じられなく、なんとなく不吉さも覚える、つまりはあまり永く居たくない場所に俺には思えた。でもそう思ったのはわずかばかりのこと。一瞬ののちに余裕が無くなり絵画的どうのこうのっていう思いはどこかへ消え去っていった。


 「キム先輩、マリー先輩‥‥」
 「ああ(ええ)‥‥」
 「アレク君すごいね‥‥」
 「アレク‥‥」
 「セーラ大丈夫だよ」

ドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドド‥

ゥーゥーゥーゥー  ゥーゥーゥーゥー  ゥーゥーゥーゥー‥

前からも、右からも、左からも。4、5体の魔物。
探知をするまでもない。視覚と聴覚でハッキリとわかるものが迫ってきたんだ。
それは目視できる大きさとそれが生む土埃に地響き。数は少ないけどあたりに咆哮を響かせながら魔物が近づいて来ていることがはっきりとわかる。

 「「アレク(アレク君)指示を!」」
 「はいっ!闘いながら進みます。進行方向の左。マリー先輩は6時から10時までをお願いします。10時から2時までは俺が。右2時から5時をキム先輩が。シャンク先輩は5時から6時の後方とセーラの守護をお願いします」
 「「「了解(だよ)」」」
 「セーラは魔法しか通じない魔物が現れたら狙っていって。それ以外はヤバくなったら自分を障壁の中へ。時計は外箱も頑丈だから大丈夫だよ。リアカーは‥もう食べ物も少ないからね。気にしなくていいよ」
 「はい」

ビリー先輩の助言どおり。みんながそれぞれ自分のやることをやるんだ。そして仲間を信じるんだ。


 「想定外に魔物が増えたら俺の判断でみんなの前に『砂時計』や『槍衾』を発現しますから。各自対処を願います。じゃあみんなお願いします!」
 「「「はい!(ああ/ええ)」」」

 全員が目の前の魔物を倒しながら階層の終わりを目指す。みんながそれぞれにできることをやれば大丈夫だ。

 「アレク、またケチョンチケョンにやるよー!」
 「おおよシルフィ!」

ダッダッダッダッダッダッ
ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ‥

前からも左からも右からも。各方面から狼がやって来る。

 「デカっ‥」
 「大きいね‥」

一気に駆け寄り来るのは巨大な狼、天狼だ。
ワーウルフやヘルハウンドよりも二回りも三回りも大きな狼種だ。


◯天狼

ウルフ種の上位種。その大きさと驚くほどの跳躍の高さから天翔ける狼、天狼と呼ばれる。大きな個体は体長3メル、体重100キロを優に超え、1跳びで10メルの距離を稼ぐ。疾走する速さ、跳躍力とも他のウルフ種の比ではない。食用不可。

キム先輩の助言(アドバイス)がとぶ。

 「アレク、シャンク。特にシャンク、間違っても闘り合うなよ。着地前、受け流してからシールドバッシュだ。天狼の頭か背骨の真ん中を狙え」
 「「はい」」
 「見てろ」

 そしてキム先輩は俺たちに見本を見せるように天狼に向かっていったんだ。

とーんっ  とーんっ  とーんっ‥

いつものように速くて軽い跳躍。気配さえ感じさせないキム先輩らしい俊足の走り方だ。

ウゥーガルルルーッ  ガーーッ

威嚇の唸り声から両の爪を振り上げて跳躍する天狼。見上げる高さの頭上から襲い来る天狼を前にしたキム先輩。天狼の爪と牙がキム先輩へと直撃する直前。

スッ

その爪と牙を受け流したキム先輩はそのまま天狼の前脚から腕、肩、背と逆流する水の流れのように密着したままその身体をスッと移動。まるで騎乗するように天狼の背中へたどり着いた。そして。

ザクッ

後ろから頭の中心に向けてクナイを突き刺した。

ガーーーッッッ‥‥

ドウゥゥゥッ

土煙を上げ勢いそのまま地に倒れ伏した天狼。天狼は何が起こったのかわからなかっただろうな。

 「「すごい‥‥」」

とーんっ  とーんっ  とーんっ‥

何事もなかったようにそのまま次の天狼に狙いを定めたキム先輩が駆けていく。

 「僕たちもがんばろうねアレク君!」
 「はいシャンク先輩!」



 その進行方向左側では。

 「いつでもいいわよマリー。シルフィに負けられないんだから!」
 「フフ。そうね」

仲が良いのにいつも張りあうシルフィとシンディの風の精霊2人。だがその張りあう気持ちはいつも前向きでいい方向を向いている。

ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ‥

100㎏超の大型天狼だ。

 「最初から大物よ!」
 「ええ。楽しいわね」
 「あははは。ホントにマリーったら仕方ないんだから」

マリーが生を受けてからずっと、永くマリーに憑く精霊シンディでさえ思う平和的なエルフにはあまりいないマリーの「戦闘狂」の一面。いずれは里を統べる者になること間違いない人物にとって「戦闘狂」はどう作用するだろう。それはわからないが悠久を生きる一族の中でも名を残すこと間違いない希代の人物。ときには危なっかしく思える部分を含めてそのすべてを好ましく思えるエルフのマリーである。

一気に近づく天狼がマリーの矢の射程に入った。

 「いくわよシンディ」
 「ええ」

 シュッ!

 マリーが放った矢は風の精霊シンディの力を借りて狙いどおり迷うことなく天狼へと向かう。

 ザンッ!

眉間の間に深く突き刺さるマリーとシルフィの矢。

 ガーーーッッッ‥‥

断末魔の悲鳴をあげる天狼は勢いそのままに倒れ伏していく。
100㎏超の狼でさえ急所に寸分違わず放たれた1本の矢には敵わない。

 ザザザーーードウゥゥゥッッッ

その勢いは矢を構えて立つマリーの手前数メルまで続いた。

 「一丁あがりー」
 「いっちょ?」
 「あー気にしなくていいわ。昔の北方言葉よ。グッジョブよ」
 「そう。フフフ」

ダッダッダッダッダッダッ‥

 「よーし次いってみよー!」
 「そうね」

嬉々として次の矢を番えるマリーだ。


場面は再びシャンクに戻る。

 ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッ‥

 みるみるシャンクに近づいてくる天狼1体。その大きさは横になったシャンクとほぼ同じ大きさ。

 「ううっ、緊張するなあ」

 そう言いつつ額の汗を拭うシャンク。
 だが‥‥ニヤッと笑う笑顔に気づかないのは本人だけかもしれない。
ネコ科の虎を筆頭に最強種の一角を占める獣人の中にあって、熊獣人もまた最強の名を戴く。
ふだんは絵にかいたような温和なシャンクもまた心に猛る思いを抱いていたのだろう。

ウゥーーーッッ  ガルルルーッ!

ダーーーンッ!

一気に跳躍をした天狼はシャンクの持つ盾ごとシャンクを押し倒す。そして倒れたシャンクの喉元めがけて牙を剝く天狼と咄嗟に盾を離し、両手の膝をクロスして牙から喉元を防ぐシャンク。

 ガルルルーッ!ガブッ!

シャンクの膝に牙をたてる天狼。
ひじから血が流れだすシャンク。

「痛い痛いやめてよ!」

ガルルルーッ!ガブッ!

「やめないと怒るよ」

ガルルルーッ!ガブッ!

「痛いって。本当に‥‥」

ガルルルーッ!ガブッ!

「やめろって‥‥言ってんだろうがーー!!!」

 ガアァァァァーーーーッッ!

牙を剥いたシャンクが天狼の顎に両手をかける。天狼の噛む力をも凌駕するシャンクの握力と腕力が一気に天狼を襲う。

 ミシミシミシミシミシミシーーーーーッ

天狼の口元が不自然に開いた。

 ギャンッッーーーーーーーーーーー

 口元から2つに裂ける天狼とその体内から噴水のように湧きでる大量の血液。

 ブシャーーーーッッッ!

アレクとシルフィは赤いシャワーを浴びたかのようにシャンクを見えた。

 「アレク‥‥あんた絶対熊の子と喧嘩しちゃダメよ」
 「あ、当たり前だろシルフィ‥‥」


戦闘の最中にも関わらず。茫然とする俺とシルフィだった。そしてそれはもっと間近で目撃することになったセーラも同様だった。


後日。
思い出しながらも青い顔をしたセーラがガタガタと震えながら俺にあの日のことを語った。

 「あのね、シャンク先輩がね、身体中に赤い液体を浴びたシャンク先輩がね、私にね、手を振りながら笑顔で言ったの。『大丈夫だよ』って」
 「‥‥」
 「あのね、真っ赤なシャンク先輩の牙だけ白くキラキラと光ってたんだよ」
 「「こわっ!」」


――――――――――――――


いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします! 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

妾の子だった転生勇者~魔力ゼロだと冷遇され悪役貴族の兄弟から虐められたので前世の知識を活かして努力していたら、回復魔術がぶっ壊れ性能になった

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
◆2024/05/31   HOTランキングで2位 ファンタジーランキング4位になりました! 第四回ファンタジーカップで21位になりました。皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 『公爵の子供なのに魔力なし』 『正妻や兄弟姉妹からも虐められる出来損ない』 『公爵になれない無能』 公爵と平民の間に生まれた主人公は、魔力がゼロだからという理由で無能と呼ばれ冷遇される。 だが実は子供の中身は転生者それもこの世界を救った勇者であり、自分と母親の身を守るために、主人公は魔法と剣術を極めることに。 『魔力ゼロのハズなのになぜ魔法を!?』 『ただの剣で魔法を斬っただと!?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ……?』 『あいつを無能と呼んだ奴の目は節穴か?』 やがて周囲を畏怖させるほどの貴公子として成長していく……元勇者の物語。

処理中です...