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刻まれた記憶 2(悲しい過去)
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放課後の記念館には長蛇の列ができていた。華ばあちゃん効果は絶大。
「前にも見たけど、そのときは何とも思わなかった。戦前からだとは知らなかったよ」
三年生の小川孝彦と井川宏一は、一つ一つ丁寧に見て回っている。
「孝彦って代々ここに住んでたってことは、お父さんやおじちゃんもここ出身?」
「そう桜小、桜中の同窓生。でもここまで詳しくは知らないと思うよ」
「やっぱり歴史が語るってやつ?何か神々しく感じちゃう」
「へえ?当時の黒板って何か色が変」
「他にも椅子や机が木でできていて、何か座りにくそうだね」
「アンチティークと見ればかオシャレじゃない?」
よほど興味が出てきたのだろう。隅々まで見て回っていると、ふと教室の柱に複数の傷が付いているのに気づいた。
「何?マークかな?いくつある?」
ーーーー+ ーーーー+ ーーーー+ ーーーー+ ーーー
「ただのいたずらじゃない?意味があるとも思えないけど」
孝彦があることに気づく。
「もしかして+は五本目かも。すると二十三本だ。これって意味あんのかなあ?」
不思議な傷は、恐らく彫刻刀のような鋭利な刃物で彫られたのに間違いなかった。ただ答えが見つからないまま、二人は記念館を後にする。
翌日、三年二組では、記念館が大変なことになると大騒ぎとなっていた。
「おい新聞見た?古くて危険だからって、記念館が取り壊しだって」
孝彦の情報に、クラスメートたちが輪を作ってきた。
「この前、華ばあちゃんから聞いたばかりじゃないか、みんな大切にしようと思ったよ」「何でも修繕するのに五百万円はかかるみたい。そんなお金出ないんだって」
「でも記念館って桜中の誇りじゃない?それを壊すなんて許せない」
「俺たちで反対の署名を集めないか?それを区役所に持って行くのってどうだい?」
当然異論はなく、すぐに行動に移す。すると全校生徒半分近くの署名が集まり、区役所に直談判に行ったが、決まってることだとして通らなかった。
このままでは取り壊しが確定してしまう。だからこそ、孝彦が浩一に気に掛かっていた疑問を投げかけてみた。
「記念館の柱の傷が気になるなあ。壊されちゃうと永遠に分からないままに」
「ねえ華ばあちゃんに聞いてみるってのどう?」
「そうだね。あの秘密を知ってるの絶対ばあちゃんしかいないよ」
さっそく華ばあちゃんに会いに行くことにした。
家を探してみると、驚いたことに学校のすぐ向かいにあった。だからこそ華ばあちゃんは、記念館を毎日眺めて懐かしんでたんだろう。
快く迎え入れてくれた華ばあちゃんは、九十歳と思えぬほどかくしゃくとしている。
「それにしてもよくあんな印に気づいたわよね」
「印ってことは、あれって傷じゃなく、わざと彫られてたってことだったんですね」
「そう、あれは桜川小の卒業生で、兵隊さんとして戦地に出向いた人たちの数なの。今日も一人、今日も一人と印をみんなで付けていったのを、今でもよく覚えているわ。まさに国に命を捧げていった数なのよ」
いきなり胸をえぐられるような話に、二人には返す言葉が見つからない。
「だからあの印を見るたびに、戦争のことが思い出されてしまうの」
「こんな大切なことみんな知らないよね。やっぱり永久に保存しなくちゃ」
「まあ壊すのは仕方なくても、せめてこの話は受け継いでいってほしいわ」
言い切れないような寂しさと、伝えなければという責任感が交差する中、二人は改めて記念館を見に行ってみた。
「この印にそんな意味があったなんて。なくなるなんてすごく残念」
心配をしていくうちにも、取り壊しの日が一刻一刻と迫っていく。
「前にも見たけど、そのときは何とも思わなかった。戦前からだとは知らなかったよ」
三年生の小川孝彦と井川宏一は、一つ一つ丁寧に見て回っている。
「孝彦って代々ここに住んでたってことは、お父さんやおじちゃんもここ出身?」
「そう桜小、桜中の同窓生。でもここまで詳しくは知らないと思うよ」
「やっぱり歴史が語るってやつ?何か神々しく感じちゃう」
「へえ?当時の黒板って何か色が変」
「他にも椅子や机が木でできていて、何か座りにくそうだね」
「アンチティークと見ればかオシャレじゃない?」
よほど興味が出てきたのだろう。隅々まで見て回っていると、ふと教室の柱に複数の傷が付いているのに気づいた。
「何?マークかな?いくつある?」
ーーーー+ ーーーー+ ーーーー+ ーーーー+ ーーー
「ただのいたずらじゃない?意味があるとも思えないけど」
孝彦があることに気づく。
「もしかして+は五本目かも。すると二十三本だ。これって意味あんのかなあ?」
不思議な傷は、恐らく彫刻刀のような鋭利な刃物で彫られたのに間違いなかった。ただ答えが見つからないまま、二人は記念館を後にする。
翌日、三年二組では、記念館が大変なことになると大騒ぎとなっていた。
「おい新聞見た?古くて危険だからって、記念館が取り壊しだって」
孝彦の情報に、クラスメートたちが輪を作ってきた。
「この前、華ばあちゃんから聞いたばかりじゃないか、みんな大切にしようと思ったよ」「何でも修繕するのに五百万円はかかるみたい。そんなお金出ないんだって」
「でも記念館って桜中の誇りじゃない?それを壊すなんて許せない」
「俺たちで反対の署名を集めないか?それを区役所に持って行くのってどうだい?」
当然異論はなく、すぐに行動に移す。すると全校生徒半分近くの署名が集まり、区役所に直談判に行ったが、決まってることだとして通らなかった。
このままでは取り壊しが確定してしまう。だからこそ、孝彦が浩一に気に掛かっていた疑問を投げかけてみた。
「記念館の柱の傷が気になるなあ。壊されちゃうと永遠に分からないままに」
「ねえ華ばあちゃんに聞いてみるってのどう?」
「そうだね。あの秘密を知ってるの絶対ばあちゃんしかいないよ」
さっそく華ばあちゃんに会いに行くことにした。
家を探してみると、驚いたことに学校のすぐ向かいにあった。だからこそ華ばあちゃんは、記念館を毎日眺めて懐かしんでたんだろう。
快く迎え入れてくれた華ばあちゃんは、九十歳と思えぬほどかくしゃくとしている。
「それにしてもよくあんな印に気づいたわよね」
「印ってことは、あれって傷じゃなく、わざと彫られてたってことだったんですね」
「そう、あれは桜川小の卒業生で、兵隊さんとして戦地に出向いた人たちの数なの。今日も一人、今日も一人と印をみんなで付けていったのを、今でもよく覚えているわ。まさに国に命を捧げていった数なのよ」
いきなり胸をえぐられるような話に、二人には返す言葉が見つからない。
「だからあの印を見るたびに、戦争のことが思い出されてしまうの」
「こんな大切なことみんな知らないよね。やっぱり永久に保存しなくちゃ」
「まあ壊すのは仕方なくても、せめてこの話は受け継いでいってほしいわ」
言い切れないような寂しさと、伝えなければという責任感が交差する中、二人は改めて記念館を見に行ってみた。
「この印にそんな意味があったなんて。なくなるなんてすごく残念」
心配をしていくうちにも、取り壊しの日が一刻一刻と迫っていく。
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