上 下
1 / 1

クリスマスが今年はやってくる?

しおりを挟む
 
 湾岸エリアのタワーマンションには、都心回帰の流れで多くの人が住むようになった。流入してきた人には、都心への交通の便のよさと、互いに干渉し合わないという人間関係の煩わしさのなさが受けているようだ。
 浜泉第六中学校はそんなエリアの一角にある。近年になり急速に住民が増えたため、10年前は全校生徒が200人を切ろうとしていたが、今では1500人以上と急増している。中学校受験をする生徒がいる中、六中卒業生には各界で活躍する先輩が多く、公立でありながらとても人気が高い学校だ。
 そんな六中の3年生に神崎太陽がいる。彼自身も親の仕事の関係で、小学校5年生のとき九州から転校してきた。初めは都会の生活に馴染めなかったが、今では友だちも多く楽しく学校生活を楽しんでいる。

 放課後、太陽は親友の久司と塾へ向かっている。
「久司、クリスマスイブは芽依ちゃんとデートか?」
「だといいけど、24日は塾のクリスマス特訓じゃん。やらなくてもいいのに」
「彼女がいるだけでもうらやましいよ。俺なんかこの歳までシングル、情けない」
 太陽は学力は中くらい、スポーツはそれほどでもない、見た目もどこにでもいるまったく取り柄の少ない普通の少年だ。
「これまで好きになった子はいないのか?」
「そりゃ俺だって男だよ。でもなかなか勇気がなく言い出せてない」
「今もいるのか?誰?誰?教えろよ」
「えー、そのー。絶対に秘密だぞ。ほらうちの学年にいるじゃないか、村井さくらさん。おい、このこと他には絶対言うなよ」
「無理!あんなかわいい子、彼氏いるに決まってるじゃん。話したことあんの?」
「まだない、だから今は見てるだけ。廊下ですれ違ったら」
「胸がキュンキュンかハハハ」
「笑うなよ、こっちは真剣なんだから」
「ゴメン、ゴメン。悪かった」
「まあいいけど。うちって転校生が多いじゃん。俺もそうだけど。誰かが言ってたけど彼女も転校生だって。それで急に親近感がわいたっていうか」
「インスタとかチェックしてんのか?」
「まあなあ。彼女料理が好きみたい」
「そんな細かいとこまで。そんじゃ告るしかないなあ」
「できたら苦労しないよ。それに今年は受験だし。きっと向こうも忙しいんじゃない?」
「だよなあ、俺たち悲しき受験生、か?」
 二人は塾が入るビルへ消えていった。

 太陽が帰宅すると母の真美子が声を掛けてきた。
「おかえり太陽、手紙来てるわよ。なんか薄汚れた封筒。宛名もひらがなだし、なんか気味悪いのよね。嫌だったら捨てといてね」
 ダイニングのテーブルに太陽宛ての手紙があり、真美子が言うとおり〝 かんざき たいよう さま 〟と拙い文字が綴られていた。
「あっ本当だ。それよりお腹すいた」
 太陽はそっと手紙をかばんの中にしまい込んだ。
『いったい誰からだろう』
 真美子の料理を前にして、すぐにでも手紙を読みたい気持ちでいっぱいになっている。

 太陽は食事もそこそこに部屋へ急いだのはもちろん手紙を読むためだ。封筒には鉛筆で書かれたひらがなだけの手紙が入っていた。

  たいようくん  さくらです  わたしはたいようくんがすきです  
  でーとしてね  くりすますのひ  でずにーにいます 

『なんだこれは!完全にいたずらじゃないか』
 太陽はキッチンにいる真美子に手紙を見せた。
「言ったでしょ、変な手紙だって。そんなのすぐ捨てちゃいなさい」
 太陽が封筒を破ろうとすると、名前の下に『KSTACE』の印刷文字が。不思議に思った太陽はスマホで調べようとしたところ、真美子が話を続けてきた。
「母さんも調べたんだけど、何か日本郵便のサービスだって」
 KSは九州管区、TAは10年後、CEはクリスマスイブ。九州の幼稚園に通ってたとき書いた手紙を、10年後のクリスマスイブに宛先に送るというサービス。転居してても追跡し届いたようだ。
「う~ん、俺が幼稚園のとき、こんな手紙書いたか書いていないか?覚えてない」
「で、あなたどうすんの?行くの?行かないの?」
「そんなの行くわけないじゃん。どうせその子も覚えてないし。それよりも受験受験」
 当然部屋に戻った太陽は勉強に身が入るわけがない。

 その日を迎えた。12月24日、クリスマスイブ。いつもの日曜日なら寝ている朝8時だが、今日はすっきり目が覚めた。すべてはあのためだ。
「ゴメン、今日の冬期特訓休むわ」
と久司に電話した。
「えっ珍しいなあ、まじめなお前が、分かったよ。じゃあ明日またな」
 なんと塾まで休んでしまうほど、引き込まれていく何かがあったのだろう。明らかにいつもと違う太陽がそこにはいた。
『さてディズニーはディズニーランドだから分かるとして、いったい何時なんだろう。こうなりゃ開園から行くしかないか』
「母さん、今日友だちと会うから遅くなるかもしれない」
「分かったわよ、メリークリスマス」

 決めたら行動は早い。8時30分の開園前には改札口の前でスタンバイしている。そこはイブでしかも日曜日なだけに大勢の人が並び始め、長蛇の列ができていた。
『この中にいるのかなあ?』
 気の遠くなるような話だが、太陽は見えない相手をひたすら待ち続けた。
 お昼が過ぎ、1時からのパレードが始まった。それまでにはたくさんの人が通り過ぎていき、その多くがカップルだ。やはり誰かを待ってる素振りの女性は見つからない。それでも太陽は食事もせず、ただただ待ち続けた。
  パレードから二時間が過ぎ、さすがに太陽も疲れ後悔の念が頭を過ぎったとき、太陽に声を掛ける男性が現れた。
「よう、太陽じゃないか」
 同級生の孝太で、どうやら横にいるのは彼女のようだ。
「何だ、来てたのか。彼女でも待ってんの?それともクリボッチ?」
 太陽は恥ずかしがらずいきさつを話した。
「えっそんな話あるの?まあいいや、せいぜいシンデレラを待つことだな」
 そう言うと二人は笑いながら去って行った。

 日も暮れ冷え込んできたと思ったら、空から白い使者が舞い降りてた。
 そのとき再び太陽に話しかける声が。
「神崎、君だよね。六中の村井です」
 もちろん太陽はさくらのことは知っている。でも何でここで会ったのか?
『まさか村井さんが運命の人?』
 さくらにもこれまでの流れを説明したが、どやらお目当ての人とは違っていた。
「私ってディズオタなの、だから週1で来てるかな」
「そうんなだ、俺もディズニー大好き」
 こんなチャンスは2度と来ないと、太陽は意を決して告白する。
「もし、もしでいいんだけど、今度、俺とディズニー来ない?よかったらでいいんだけど」
 あのウブな太陽が、一世一代の大ばくちに出た。そのさくらの答えは。
「OKよ、というよりも私も神崎君のこと前から気になってたんだ。いつも見てるのに気づかなかった?」
 なんと想定外の展開で、太陽の頭の中は完全に混乱してしまった。
『やった~超うれし~。最高のホワイトクリスマスやん』

「太陽、お帰り。実は話があるんだけど」
「待って俺からね。村井さくらさんって子に告ったら付き合うって」
「えっ、そうなんだ。それはよかったね」
 
 真美子は手紙が自分で考えたクリスマスプレゼントだとは言えなくなってしまった。 

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。

山法師
青春
 四月も半ばの日の放課後のこと。  高校二年になったばかりの本田稔(ほんだみのる)は、幼馴染である中野晶(なかのあきら)を、空き教室に呼び出した。

不撓導舟の独善

縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。 現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。 その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。 放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。 学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。 『なろう』にも掲載。

【完】Nurture ずっと二人で ~ サッカー硬派男子 × おっとり地味子のゆっくり育むピュア恋~

丹斗大巴
青春
 硬派なサッカー男子 × おっとり地味子がゆっくりと愛を育むピュアラブストーリー  地味なまこは、ひそかにサッカー部を応援している。ある日学校で乱闘騒ぎが! サッカー部の硬派な人気者新田(あらた)にボールをぶつけられ、気を失ってしまう。その日から、まこの日常が変わりだして……。 ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* サッカー部の硬派男子 未だ女性に興味なしの 新田英治 (やばい……。 なんかまだいい匂いが残ってる気がする……) × おっとり地味子  密かにサッカー部を応援している 御木野まこ (どうしよう……。 逃げたいような、でも聞きたい……) ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*   便利な「しおり」機能をご利用いただくと読みやすくて便利です。さらに「お気に入り」登録して頂くと、最新更新のお知らせが届きますので、こちらもご活用ください。

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

彼女に思いを伝えるまで

猫茶漬け
青春
主人公の登藤 清(とうどう きよし)が阿部 直人(あべ なおと)に振り回されながら、一目惚れした山城 清美(やましろ きよみ)に告白するまでの高校青春恋愛ストーリー 人物紹介 イラスト/三つ木雛 様 内容更新 2024.11.14

夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。

みっちゃん
青春
『俺の隣の席はいつも空いている。』 俺、九重大地の左隣の席は本格的に夏休みが始まる今日この日まで埋まることは無かった。 しかしある日、授業中に居眠りして目を覚ますと隣の席に女の子が座っていた。 「私、、オバケだもん!」 出会って直ぐにそんなことを言っている彼女の勢いに乗せられて友達となってしまった俺の夏休みは色濃いものとなっていく。 信じること、友達の大切さ、昔の事で出来なかったことが彼女の影響で出来るようになるのか。 ちょっぴり早い夏の思い出を一緒に作っていく。

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

『10年後お互い独身なら結婚しよう』「それも悪くないね」あれは忘却した会話で約束。王子が封印した記憶……

内村うっちー
青春
あなたを離さない。甘く優しいささやき。飴ちゃん袋で始まる恋心。 物語のA面は悲喜劇でリライフ……B級ラブストーリー始まります。 ※いささかSF(っポイ)超展開。基本はベタな初恋恋愛モノです。 見染めた王子に捕まるオタク。ギャルな看護師の幸運な未来予想図。 過去とリアルがリンクする瞬間。誰一人しらないスパダリの初恋が? 1万字とすこしで完結しました。続編は現時点まったくの未定です。 完結していて各話2000字です。5分割して21時に予約投稿済。 初めて異世界転生ものプロット構想中。天から降ってきたラブコメ。 過去と現実と未来がクロスしてハッピーエンド! そんな短い小説。 ビックリする反響で……現在アンサーの小説(王子様ヴァージョン) プロットを構築中です。投稿の時期など未定ですがご期待ください。 ※7月2日追記  まずは(しつこいようですが)お断り! いろいろ小ネタや実物満載でネタにしていますがまったく悪意なし。 ※すべて敬愛する意味です。オマージュとして利用しています。 人物含めて全文フィクション。似た組織。団体個人が存在していても 無関係です。※法律違反は未成年。大人も基本的にはやりません。

処理中です...