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クリスマスが今年はやってくる?
しおりを挟む湾岸エリアのタワーマンションには、都心回帰の流れで多くの人が住むようになった。流入してきた人には、都心への交通の便のよさと、互いに干渉し合わないという人間関係の煩わしさのなさが受けているようだ。
浜泉第六中学校はそんなエリアの一角にある。近年になり急速に住民が増えたため、10年前は全校生徒が200人を切ろうとしていたが、今では1500人以上と急増している。中学校受験をする生徒がいる中、六中卒業生には各界で活躍する先輩が多く、公立でありながらとても人気が高い学校だ。
そんな六中の3年生に神崎太陽がいる。彼自身も親の仕事の関係で、小学校5年生のとき九州から転校してきた。初めは都会の生活に馴染めなかったが、今では友だちも多く楽しく学校生活を楽しんでいる。
放課後、太陽は親友の久司と塾へ向かっている。
「久司、クリスマスイブは芽依ちゃんとデートか?」
「だといいけど、24日は塾のクリスマス特訓じゃん。やらなくてもいいのに」
「彼女がいるだけでもうらやましいよ。俺なんかこの歳までシングル、情けない」
太陽は学力は中くらい、スポーツはそれほどでもない、見た目もどこにでもいるまったく取り柄の少ない普通の少年だ。
「これまで好きになった子はいないのか?」
「そりゃ俺だって男だよ。でもなかなか勇気がなく言い出せてない」
「今もいるのか?誰?誰?教えろよ」
「えー、そのー。絶対に秘密だぞ。ほらうちの学年にいるじゃないか、村井さくらさん。おい、このこと他には絶対言うなよ」
「無理!あんなかわいい子、彼氏いるに決まってるじゃん。話したことあんの?」
「まだない、だから今は見てるだけ。廊下ですれ違ったら」
「胸がキュンキュンかハハハ」
「笑うなよ、こっちは真剣なんだから」
「ゴメン、ゴメン。悪かった」
「まあいいけど。うちって転校生が多いじゃん。俺もそうだけど。誰かが言ってたけど彼女も転校生だって。それで急に親近感がわいたっていうか」
「インスタとかチェックしてんのか?」
「まあなあ。彼女料理が好きみたい」
「そんな細かいとこまで。そんじゃ告るしかないなあ」
「できたら苦労しないよ。それに今年は受験だし。きっと向こうも忙しいんじゃない?」
「だよなあ、俺たち悲しき受験生、か?」
二人は塾が入るビルへ消えていった。
太陽が帰宅すると母の真美子が声を掛けてきた。
「おかえり太陽、手紙来てるわよ。なんか薄汚れた封筒。宛名もひらがなだし、なんか気味悪いのよね。嫌だったら捨てといてね」
ダイニングのテーブルに太陽宛ての手紙があり、真美子が言うとおり〝 かんざき たいよう さま 〟と拙い文字が綴られていた。
「あっ本当だ。それよりお腹すいた」
太陽はそっと手紙をかばんの中にしまい込んだ。
『いったい誰からだろう』
真美子の料理を前にして、すぐにでも手紙を読みたい気持ちでいっぱいになっている。
太陽は食事もそこそこに部屋へ急いだのはもちろん手紙を読むためだ。封筒には鉛筆で書かれたひらがなだけの手紙が入っていた。
たいようくん さくらです わたしはたいようくんがすきです
でーとしてね くりすますのひ でずにーにいます
『なんだこれは!完全にいたずらじゃないか』
太陽はキッチンにいる真美子に手紙を見せた。
「言ったでしょ、変な手紙だって。そんなのすぐ捨てちゃいなさい」
太陽が封筒を破ろうとすると、名前の下に『KSTACE』の印刷文字が。不思議に思った太陽はスマホで調べようとしたところ、真美子が話を続けてきた。
「母さんも調べたんだけど、何か日本郵便のサービスだって」
KSは九州管区、TAは10年後、CEはクリスマスイブ。九州の幼稚園に通ってたとき書いた手紙を、10年後のクリスマスイブに宛先に送るというサービス。転居してても追跡し届いたようだ。
「う~ん、俺が幼稚園のとき、こんな手紙書いたか書いていないか?覚えてない」
「で、あなたどうすんの?行くの?行かないの?」
「そんなの行くわけないじゃん。どうせその子も覚えてないし。それよりも受験受験」
当然部屋に戻った太陽は勉強に身が入るわけがない。
その日を迎えた。12月24日、クリスマスイブ。いつもの日曜日なら寝ている朝8時だが、今日はすっきり目が覚めた。すべてはあのためだ。
「ゴメン、今日の冬期特訓休むわ」
と久司に電話した。
「えっ珍しいなあ、まじめなお前が、分かったよ。じゃあ明日またな」
なんと塾まで休んでしまうほど、引き込まれていく何かがあったのだろう。明らかにいつもと違う太陽がそこにはいた。
『さてディズニーはディズニーランドだから分かるとして、いったい何時なんだろう。こうなりゃ開園から行くしかないか』
「母さん、今日友だちと会うから遅くなるかもしれない」
「分かったわよ、メリークリスマス」
決めたら行動は早い。8時30分の開園前には改札口の前でスタンバイしている。そこはイブでしかも日曜日なだけに大勢の人が並び始め、長蛇の列ができていた。
『この中にいるのかなあ?』
気の遠くなるような話だが、太陽は見えない相手をひたすら待ち続けた。
お昼が過ぎ、1時からのパレードが始まった。それまでにはたくさんの人が通り過ぎていき、その多くがカップルだ。やはり誰かを待ってる素振りの女性は見つからない。それでも太陽は食事もせず、ただただ待ち続けた。
パレードから二時間が過ぎ、さすがに太陽も疲れ後悔の念が頭を過ぎったとき、太陽に声を掛ける男性が現れた。
「よう、太陽じゃないか」
同級生の孝太で、どうやら横にいるのは彼女のようだ。
「何だ、来てたのか。彼女でも待ってんの?それともクリボッチ?」
太陽は恥ずかしがらずいきさつを話した。
「えっそんな話あるの?まあいいや、せいぜいシンデレラを待つことだな」
そう言うと二人は笑いながら去って行った。
日も暮れ冷え込んできたと思ったら、空から白い使者が舞い降りてた。
そのとき再び太陽に話しかける声が。
「神崎、君だよね。六中の村井です」
もちろん太陽はさくらのことは知っている。でも何でここで会ったのか?
『まさか村井さんが運命の人?』
さくらにもこれまでの流れを説明したが、どやらお目当ての人とは違っていた。
「私ってディズオタなの、だから週1で来てるかな」
「そうんなだ、俺もディズニー大好き」
こんなチャンスは2度と来ないと、太陽は意を決して告白する。
「もし、もしでいいんだけど、今度、俺とディズニー来ない?よかったらでいいんだけど」
あのウブな太陽が、一世一代の大ばくちに出た。そのさくらの答えは。
「OKよ、というよりも私も神崎君のこと前から気になってたんだ。いつも見てるのに気づかなかった?」
なんと想定外の展開で、太陽の頭の中は完全に混乱してしまった。
『やった~超うれし~。最高のホワイトクリスマスやん』
「太陽、お帰り。実は話があるんだけど」
「待って俺からね。村井さくらさんって子に告ったら付き合うって」
「えっ、そうなんだ。それはよかったね」
真美子は手紙が自分で考えたクリスマスプレゼントだとは言えなくなってしまった。
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