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ループ、11

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 背中が冷たい。

 側で控えていたマリウスが慌てて手拭いを取り出して私を拭き始める。

「何?」

「背中に水が・・・‼︎」

「え?」

「御免なさい‼︎」

 振り向いて状況を確認しようと思ったら、突然の声。

「皆さんに飲み物でもと思って・・・」

 涙を潤ませて怯えるユーリがグラスを手に後ろに立っていた。

「本当に御免なさい」

「謝罪しているのに、ユーリに対してお前も無視しているではないか‼︎」

 無視をしている訳ではない。
 呆れているだけだ。
 しかも、何故王子が怒っているのか。

 必死に私の背中を拭うマリウスと王子達以外が鋭い目線を向けている事に気付かない王子とユーリバカ

「その手に持つグラスは何だ?」

 まだその場にいた国王の鋭い問いに、全員がユーリの手元に集中する。

「え?あ、これは皆さんに配る為に・・・」

「一人分しかない様だが?」

「一個ずつしか持てなかったんです。だから・・・」

「ゆ、ユーリ。父上の許可なく口を開いたら駄目だ」

「何で?聞かれたから答えただけなのに」

 頬をぷくりと膨らませて、王子に擦り寄るのを忘れない。

「男爵家は躾け方を間違えた様だな」

「どう言う意味ですかっ⁉︎」

「ユーリ、止めろ‼︎」

「何でぇ・・・」

 強引に口を閉ざす事を余儀なくされたユーリが半泣きで王子抱き付く。

「申し訳御座いません、父上」

「側に置くなら、お前がキチンと礼儀を教えなさい。それと、役にたたない側近は不必要だ。候補から外す。よいな」

 国王の一言で、王子の側にいた側近候補達が青褪める。
 間違いを咎めず、二人の後を追いかけるだけではただの金魚糞だ。
 今日にでも各家に通知が届くだろう。
 ご愁傷様。

「そのままでは風邪を引く。着替えを用意してやろう」

 すぐ様、父様が国王に頷くと早足で城へと戻っていった。
 執事長にでもお願いに行ったのかな。

「有難う御座います、国王陛下」

「カルヴァイス、お前は部屋で暫く謹慎だ。それと、そこの男爵家の者は城への出入りを禁ずる」

「何故・・・何故謹慎なのです⁉︎俺は何もしてません‼︎」

 自分が謹慎を言い渡されるとは思いもしなかったのか、王子は目を見開いて驚く。

「今回の主催者は誰だ?」

「叔父上です‼︎」

「馬鹿者。呼んだのはオズワルドだが、主催はお前だ。お前の茶会だと言ったのを、もう忘れたか」

「・・・っ‼︎」

「オズワルド。呼んだ子息達に迎えの馬車を責任を持って手配しなさい。カルヴァイス、お前は部屋へ。護衛はこの男爵子息と側近候補達を城から追い出す様に」

 テキパキと采配する姿に少し見惚れていると、マリウスの手が背中に添われた。

「リオン様、着替えの用意が出来たようです。参りましょう」

「うん。国王陛下、無作法にも下がらせて頂くことをお許し下さい」

「気にしなくていい。早く着替えてきなさい」

「はい。では失礼致します」

 安心して国王にその場を任せて、着替えの為に城へ向かう。

「背中だけだから、まだ寒さはないね」

「油断してはいけません。グラス一杯でも風邪は引くものです」

 そうなのか?
 まぁ、心配してくれているから素直に言うことを聞いておこう。

 父様の伝言により駆けつけてくれた執事長が案内してくれたのは広い客室。
 既に用意されていた服に着替えると、扉を叩く音がした。
 マリウスが扉を開くと、そこには国王陛下が立っていた。



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