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天使のホワイトデー 後編
ホワイトデーまで。あと
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♢9♢
「ニークスくん。あーそぼ」
「……白夜さん。今日はどうされました?」
これは意味不明な出費の翌日の話だ。
あれによって、金銭的に今月はもうピンチになってしまった。
おかげでせっかくの休みなのに遊びにも行けずにいた俺は、ふと二クスくんと遊ぼうと思いつき、彼の執務室を訪れている。
昨日の出費で得たもの? ──ないよ!
ただ、買わされただけだよ!!
ミカもまだ金を払いに来てないしね。
まとめると、暇なので二クスの執務室に来ている。以上だ。
イケメンの机には紙の山がある気もするが、特に気にしない方向で話を進める。
「どうしたもこうしたも、今言っただろ。遊ぼうぜ!」
「せっかくの誘いに申し訳ない──」
「──遊ぼうぜ!」
とはいえ、これは必要な事なのだ。
でなければイケメンとわざわざ遊んだりはしない。家でゲームでもしている。
まあ、ちょっと思いついたこともあったというわけなんだけどね……クククッ……。
「いえ、ホワイトデーまで日にちもありません。私はいろいろと忙しいですし、終了間近の城門の修理に、成果が出始めている働き手の事等、やる事は山のようにありますので。遊んでる場合ではない……」
「これもホワイトデーに必要なんだよ! お前しか出来ないことなんだよ!」
「遊びがですか?」
「確かに遊びだが、これを単に遊びとは思わない方がいいぜ。これで遊ぶ者はデュエリストと呼ばれる。デュエリストとは決闘者という意味だ。いい方を変えよう……──俺と決闘しろや! 貴様のイケメン度にはイライラしていたんだ。こいつで白黒つけてやるぜ! デュエル!」
──というわけだ。
……何が? だからあれだよ。
これから先のバトルは、全部カードゲームにしようという話しだよ。どうして俺はこんな簡単なことを思いつかなかったのか。
昨日、オモチャ屋で俺の目に入ったデッキにはこう書いてあった。『光の天使』『闇の悪魔』と。
一目で思ったね。『あっ、これじゃね?』と。内容もピッタリじゃん。
これからの天使と悪魔のイザコザは全部これでケリをつければいいんだよ。
無論、そう簡単にはいかないだろうが、それはやりようによると思われる。
まず両陣営の決闘者だが、これはちょうどいいのが2人いるから問題ない。
彼女たちが大変相応しいと考えている。
次にそのままではちゃっちいという問題だが、それはイケメンが解決してくれると踏んでいる。
イケメンの悪魔スキルがきっと役立つ。
残るのはこれを良しとするかどうかだが、天使の上の方は言う事を聞くし。悪魔の上の方も言う事を聞く。なので、やれると思う!
そのためには実践してみることが必要なのである。というわけで、デュエル!
『まずはルール説明しながらやるから。勝ち負けとかカウントしないから。ここでだいたいを把握してくれ』
『よろしくお願いします』
──最初はルールから優しく教え。
『俺のターン、ドロー! クックック、運は俺に味方しているようだ。これで終わりだーー』
『なるほど。カードそれぞれに役割りがあり、運の要素も必要だと』
──実践をしながら徐々に厳しく。
『残念だがそうくると思っていた! こいつで終わりだーー』
『読み合いにタイミング。戦略は決闘者によると』
──最後には一切の手加減なく。
『……あー、ターン終了で……』
『これは私の勝ちですね』
『い、1回勝ったくらいで調子に乗んなよ? どれ、次はデッキを交換してもう1回だ。俺が悪魔デッキの真の使い方を教えてやろう』
──ビギナーに勝ちを譲りながら優しく接して。
『そこでそれを使ってはダメです。次のターンを処理できませんよ』
『バカな……。この俺が連敗だと?』
『もう40枚の内容は互いに分かっているのだから、相手がどう動くのかを考えないと。白夜さんは少し素直すぎます』
『はぁ!? 俺が手加減しているということが、キミにはわからないのかね。しかし、そろそろいいでしょう。本題に入ります』
結果は俺が勝敗数の大差で勝利した! ……した。
ま、まあ遊びはこのくらいにして本題に入ります。
「こいつでこの先の争いを行う。使うのは頭だ。誰も傷つかない。負けた時に多少、相手にイライラするくらいだ。天使と悪魔ってのもちょうどいいだろ?」
「これは姫への配慮ですか?」
「お前に嘘言ってもしょうがないからな。そうだよ。負けっぱなしのお姫様なんて俺は嫌だ。それに、これならいくら闘ったところで、怒るヤツも利用するヤツもいないだろう」
「……分かりました。全種出せるようにしましょう。その代わり、少しこの山を処理するのを手伝ってくださいね」
「いや、ボクも忙しいから無理かな。いろいろやる事が……あれっ、どうして兵を呼んで鍵をしめるんだい? どうして俺の前に紙の山を持ってくるんだい?」
※
どうしてお姫様は勝てない闘いをしたのか。
それは、お姫様が誰よりも一番世界ってやつを変えなきゃと思っているからだ。
自分が揉めてるうちは下に示しがつかないからだ。
あのポンコツ天使には分かってないだろうが、姫祭りのバトルは最後の喧嘩だったんだ。
もう二度とお姫様は天使と闘わないだろう。つまり、負けたまま終わりにするつもりなんだ。アイツは……。
世界が上手くいきそう。
世界は上手くいかなくてはいけない。
彼女にはそんな思いがあるんだろう。
確かに。いつまでも姫がガチの喧嘩をするのはどうかとは思う。
しかし、そうしてしまえば結局、今と変わらないんだと思うんだ。
姫なんだから波風立てないように。
姫だから自分が我慢して。
そんなことしたらせっかく仲直りしようと、前より仲良くなろうと意味があるとは思えない。
今や互いの部屋を行き来するのに1分くらいなんだせ? 俺の部屋を経由してだけどな……。
昨日のようにいつだって会えるし、いつだって遊べる。俺の部屋を経由してだけどな!
けど、そこに今まで2人を繋いでいたものがなくなったらどうだろう? 正しいと思うか?
俺は思わない。
故に、戦争はダメだが喧嘩くらいはいいとさせる。
全部を駄目だと決めつければ簡単だ。実際に世界はそうやって回っている。
でも、それで表向き平和ならいいのか?
誰かが誰かに忖度して。使わないからと兵器を持ち。それでいて平和を語る。
自分の利益には貪欲で、他人の不幸には知らんぷり。いい言葉でいいような事を言うくせに、言動は行動にまでは発展しない。
※なお、これは俺個人の見解であり実際にはおそらくたぶん違います※
と誰かに気を使わなくてはいけないのが世界というやつなんだ。
不便ではあるが、こんな仕組みに慣れているから、特に俺に思うところはない。自分たちの世界にはな。
「二度と争いませんなんて口が裂けても言えねーよ。どっかで限界やら、予期せぬ事態は起きるもんだから」
「そろそろ口ではなく手を動かしてください」
「どうしてカッコよく〆させてくれないの? 流れとか空気とか読んでよ。察してよ」
「それで全部が上手くいくならそうしますが、残念ながら実際には、こうして書類の山を処理したり、実行力がある取り決めが必要だったりするのです。口で言うほど簡単ではないということです。なので、理想を語る前に手を動かしてくださいね」
こうして現実主義なイケメンにこき使われました。
とても大変でした。世の中の厳しさを感じました。遊んだ分の倍は働かされました……。続く。
「ニークスくん。あーそぼ」
「……白夜さん。今日はどうされました?」
これは意味不明な出費の翌日の話だ。
あれによって、金銭的に今月はもうピンチになってしまった。
おかげでせっかくの休みなのに遊びにも行けずにいた俺は、ふと二クスくんと遊ぼうと思いつき、彼の執務室を訪れている。
昨日の出費で得たもの? ──ないよ!
ただ、買わされただけだよ!!
ミカもまだ金を払いに来てないしね。
まとめると、暇なので二クスの執務室に来ている。以上だ。
イケメンの机には紙の山がある気もするが、特に気にしない方向で話を進める。
「どうしたもこうしたも、今言っただろ。遊ぼうぜ!」
「せっかくの誘いに申し訳ない──」
「──遊ぼうぜ!」
とはいえ、これは必要な事なのだ。
でなければイケメンとわざわざ遊んだりはしない。家でゲームでもしている。
まあ、ちょっと思いついたこともあったというわけなんだけどね……クククッ……。
「いえ、ホワイトデーまで日にちもありません。私はいろいろと忙しいですし、終了間近の城門の修理に、成果が出始めている働き手の事等、やる事は山のようにありますので。遊んでる場合ではない……」
「これもホワイトデーに必要なんだよ! お前しか出来ないことなんだよ!」
「遊びがですか?」
「確かに遊びだが、これを単に遊びとは思わない方がいいぜ。これで遊ぶ者はデュエリストと呼ばれる。デュエリストとは決闘者という意味だ。いい方を変えよう……──俺と決闘しろや! 貴様のイケメン度にはイライラしていたんだ。こいつで白黒つけてやるぜ! デュエル!」
──というわけだ。
……何が? だからあれだよ。
これから先のバトルは、全部カードゲームにしようという話しだよ。どうして俺はこんな簡単なことを思いつかなかったのか。
昨日、オモチャ屋で俺の目に入ったデッキにはこう書いてあった。『光の天使』『闇の悪魔』と。
一目で思ったね。『あっ、これじゃね?』と。内容もピッタリじゃん。
これからの天使と悪魔のイザコザは全部これでケリをつければいいんだよ。
無論、そう簡単にはいかないだろうが、それはやりようによると思われる。
まず両陣営の決闘者だが、これはちょうどいいのが2人いるから問題ない。
彼女たちが大変相応しいと考えている。
次にそのままではちゃっちいという問題だが、それはイケメンが解決してくれると踏んでいる。
イケメンの悪魔スキルがきっと役立つ。
残るのはこれを良しとするかどうかだが、天使の上の方は言う事を聞くし。悪魔の上の方も言う事を聞く。なので、やれると思う!
そのためには実践してみることが必要なのである。というわけで、デュエル!
『まずはルール説明しながらやるから。勝ち負けとかカウントしないから。ここでだいたいを把握してくれ』
『よろしくお願いします』
──最初はルールから優しく教え。
『俺のターン、ドロー! クックック、運は俺に味方しているようだ。これで終わりだーー』
『なるほど。カードそれぞれに役割りがあり、運の要素も必要だと』
──実践をしながら徐々に厳しく。
『残念だがそうくると思っていた! こいつで終わりだーー』
『読み合いにタイミング。戦略は決闘者によると』
──最後には一切の手加減なく。
『……あー、ターン終了で……』
『これは私の勝ちですね』
『い、1回勝ったくらいで調子に乗んなよ? どれ、次はデッキを交換してもう1回だ。俺が悪魔デッキの真の使い方を教えてやろう』
──ビギナーに勝ちを譲りながら優しく接して。
『そこでそれを使ってはダメです。次のターンを処理できませんよ』
『バカな……。この俺が連敗だと?』
『もう40枚の内容は互いに分かっているのだから、相手がどう動くのかを考えないと。白夜さんは少し素直すぎます』
『はぁ!? 俺が手加減しているということが、キミにはわからないのかね。しかし、そろそろいいでしょう。本題に入ります』
結果は俺が勝敗数の大差で勝利した! ……した。
ま、まあ遊びはこのくらいにして本題に入ります。
「こいつでこの先の争いを行う。使うのは頭だ。誰も傷つかない。負けた時に多少、相手にイライラするくらいだ。天使と悪魔ってのもちょうどいいだろ?」
「これは姫への配慮ですか?」
「お前に嘘言ってもしょうがないからな。そうだよ。負けっぱなしのお姫様なんて俺は嫌だ。それに、これならいくら闘ったところで、怒るヤツも利用するヤツもいないだろう」
「……分かりました。全種出せるようにしましょう。その代わり、少しこの山を処理するのを手伝ってくださいね」
「いや、ボクも忙しいから無理かな。いろいろやる事が……あれっ、どうして兵を呼んで鍵をしめるんだい? どうして俺の前に紙の山を持ってくるんだい?」
※
どうしてお姫様は勝てない闘いをしたのか。
それは、お姫様が誰よりも一番世界ってやつを変えなきゃと思っているからだ。
自分が揉めてるうちは下に示しがつかないからだ。
あのポンコツ天使には分かってないだろうが、姫祭りのバトルは最後の喧嘩だったんだ。
もう二度とお姫様は天使と闘わないだろう。つまり、負けたまま終わりにするつもりなんだ。アイツは……。
世界が上手くいきそう。
世界は上手くいかなくてはいけない。
彼女にはそんな思いがあるんだろう。
確かに。いつまでも姫がガチの喧嘩をするのはどうかとは思う。
しかし、そうしてしまえば結局、今と変わらないんだと思うんだ。
姫なんだから波風立てないように。
姫だから自分が我慢して。
そんなことしたらせっかく仲直りしようと、前より仲良くなろうと意味があるとは思えない。
今や互いの部屋を行き来するのに1分くらいなんだせ? 俺の部屋を経由してだけどな……。
昨日のようにいつだって会えるし、いつだって遊べる。俺の部屋を経由してだけどな!
けど、そこに今まで2人を繋いでいたものがなくなったらどうだろう? 正しいと思うか?
俺は思わない。
故に、戦争はダメだが喧嘩くらいはいいとさせる。
全部を駄目だと決めつければ簡単だ。実際に世界はそうやって回っている。
でも、それで表向き平和ならいいのか?
誰かが誰かに忖度して。使わないからと兵器を持ち。それでいて平和を語る。
自分の利益には貪欲で、他人の不幸には知らんぷり。いい言葉でいいような事を言うくせに、言動は行動にまでは発展しない。
※なお、これは俺個人の見解であり実際にはおそらくたぶん違います※
と誰かに気を使わなくてはいけないのが世界というやつなんだ。
不便ではあるが、こんな仕組みに慣れているから、特に俺に思うところはない。自分たちの世界にはな。
「二度と争いませんなんて口が裂けても言えねーよ。どっかで限界やら、予期せぬ事態は起きるもんだから」
「そろそろ口ではなく手を動かしてください」
「どうしてカッコよく〆させてくれないの? 流れとか空気とか読んでよ。察してよ」
「それで全部が上手くいくならそうしますが、残念ながら実際には、こうして書類の山を処理したり、実行力がある取り決めが必要だったりするのです。口で言うほど簡単ではないということです。なので、理想を語る前に手を動かしてくださいね」
こうして現実主義なイケメンにこき使われました。
とても大変でした。世の中の厳しさを感じました。遊んだ分の倍は働かされました……。続く。
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