37 / 38
夏の終わり
しおりを挟む
八月二十日。夏休みは残すところあと三日となった今日日。
そんな今現在、日本標準時で十七時四十三分。
待ち合わせの改札前について十分くらいは経過しただろう。
というか、考えてみればこんな夕方に学校帰りというわけでもないのに、この改札前にいるというのは初めてかもしれない。
そして夏休み中のいま制服姿の学生の姿は辺りになく、代わりに今日は浴衣姿の人が多い。
このあと始まる花火大会は規模としては市内で二番目であり、駅から少し距離はあるが車でというのは現実的ではなく、歩くとしても電車でくるの人が多いからだろう。
「結果、学校がある時よりかなり人が多いと……」
自分と同様に待ち合わせする人もやっぱりいるし、同じ電車に乗ってきた人数も相当だった。
このあとの電車に乗ってくる人もまだまだいるだろうし、待ち合わせ場所をここにしたのは失敗だったかもしれない。
せめて外にすれば……いや、外だとそれはそれで困るか。お互いどんな格好なのかもわからないわけだし。
しかし、いかないと一度は断られたのにどうしたんだろう?
そりゃあ初めに誘ったのは僕なんだけど、
「だーれだ」
「わぁっ!? だ、誰だ!?」
「……それはどういう意味なのかしら」
僕は前回もだが改札を背にしていてはと改札の方を向いていた。今日は気づいたら時間が過ぎていたわけでもない。
何よりまだ電車が到着する時間でもないというのに、何故だか背後から密着かつ目隠しされ、その冷ややかな声を聞くまで相手が誰だかわからなかった!
だって、電車が到着していないのだから彼女がいるわけがなく、まったく彼女から聞いたことがない音域の声だった。
だが、僕がそれをなんと表現しようと言い訳としか思われず、声色だけでなく視線まで冷たいのは変わらないだろう……。
「姫川、さん。こ、こんばんは」
「こんばんは、一条くん。黒川さんにはすぐ気づいたくせに私には気づかないのね」
「だって聞いたことない声だったし……」
姫川さんは今ので確実に当たった柔らかい何かを気にした様子もなく、むしろ不満げな様子で「思っていた反応と違うし、失礼ね」と言い、密着した態勢から離れていく。
どうやら僕は慣れというか多少耐性がついたのか、様々な刺激に対して平静を装うことに成功したようだ。
そして、仮に僕が姫川さんが思っていた反応をした場合どうなっていたのかだが。
どう考えてもいい内容ではなく、おそらくそれよりは冷ややかな態度の方がマシだと思う。
なんとなく姫川さんのことを理解できてきたと最近感じからか、この勘があながち間違いではないという気がする。
きっと黒川さんと同じかそれ以上に大変なことになっていただろう(僕だけが)。
「──というか姫川さんはなんでいるの!? ちょうど今だよね、電車着くの」
「何を言ってるの? それはその電車よりも前の電車できたからに決まっているでしょう」
「いや、それならそうだと言ってくれないと困るよ」
「伝えていたら今のできなかったじゃない」
「えー……」
もしかすると今のをやりたいがために一本早い電車できて、僕を待ち伏せていたのだろうか。
先日「隙があれば自分もやりたくなる」と言っていたし。
そういうのは黒川さんだけで間に合っているんだけどな……。
「ところで、今日は私服なのね」
「えっ、浴衣じゃないとダメだった? こないだのは母親に着させられただけで、自分で着たわけじゃなかったんだ」
「そう、浴衣だと思って探したから見つけにくかったという話よ」
浴衣だった先日と違い今日は姫川さんも私服だ。
姫川さんの制服と浴衣姿以外を初めて見たし、よくよく考えたら私服の女の子と待ち合わせという状況も初めてじゃないか?
任意補習の期間中、毎日のように朝待ち合わせた黒川さんはずっと制服だったし、先日の花火大会では浴衣だった。
……で、お付き合いしている彼女を差し置いてのこれは果たしていいのだろうか?
いやいや、黒川さんに承諾は得ているんだから心配することないよな。問題ない!
黒川さんが彼女なんだし。来週は二人でプール行くし。問題ないはず……。
「一条くん。今のはわかりやすく『褒めろよ』って言ったのよ。曲がりなりにもデートというていで待ち合わせて、女の子の服装に一言もなく何をボーっとしてるの」
「えっ、」
「『えっ』じゃない。そんなことじゃ黒川さんに愛想つかされるわよ。それはそれで構わないからいいのだけど、今は私が目の前にいるんだからそうしなさいということよ」
なるほど。そんな内容を確かに何かで見たぞ。
姫川さんの服装はなんと言ったか……そうだセットアップだ。
白のセットアップに底がないサンダル。肩から下げているポーチ。
一見かなりラフな格好に見えるけど、モデルの問題なんだろうか周囲よりも目立っている。
「えーと、見慣れた制服姿よりも露出がなく、浴衣姿よりも大人っぽくて、とてもよく似合っています」
「甘めに点数をつけて三十点」
「低っ、自信はなかったけどそれでも低」
「他と比較しないのは評価するけどそこだけね。こっちは色々と考えて着てきているのだから、褒めるならもっとストレートに褒めてちょうだい」
三十点の配点は一つの項目でだけだった。
あと七十点もどうすればいいのか……。
見たままを言うのではなく、もっとファッションを勉強したりすれば点数は上がるのか?
「でも、一言でも褒められたら満足よ」
「姫川さん。そういう不意打ちみたいなのズルいよ」
急にしおらしくというか、急に態度が甘くなるのはズルいと思う。
姫川さんというのはもっと刺々していて、触れたら絶対に怪我するみたいな感じなはずなのに、この落差には正直言ってドキドキするしかない。
これがみんなが普段見ている姫川さんだとしたら、姫川さんにまいらないヤツはいないと思う。
「そろそろね」
「……何が? 灯籠流しはもう始まってるから、今からだと踊りと花火しか見れないよ」
姫川さんは僕に答えることなく三歩ほど後ろに下がる。
そして視線は僕ではなくその後ろの方を見ているようで、気になって振り返ると、そこには一目でわかるほどものすごく不機嫌な黒川さんがいた!
「この浮気者……。彼女の目の前でデレデレしやがって。あーしは服装を一回も褒められたことないけど!? どうなってんだ、言ってみろこのやろう!」
「なっ、えっ、黒川さん!?」
「高木っち。これ持ってて!」
「高木くんも!?」
黒川さんにばかり目がいっていたが紙袋を受け取ったのは高木くん。
どうして二人が? どうなってるんだ?
──なんて考える暇はなく、今は怒りが態度にまで出ている黒川さんをなんとかしなければ!
そんな今現在、日本標準時で十七時四十三分。
待ち合わせの改札前について十分くらいは経過しただろう。
というか、考えてみればこんな夕方に学校帰りというわけでもないのに、この改札前にいるというのは初めてかもしれない。
そして夏休み中のいま制服姿の学生の姿は辺りになく、代わりに今日は浴衣姿の人が多い。
このあと始まる花火大会は規模としては市内で二番目であり、駅から少し距離はあるが車でというのは現実的ではなく、歩くとしても電車でくるの人が多いからだろう。
「結果、学校がある時よりかなり人が多いと……」
自分と同様に待ち合わせする人もやっぱりいるし、同じ電車に乗ってきた人数も相当だった。
このあとの電車に乗ってくる人もまだまだいるだろうし、待ち合わせ場所をここにしたのは失敗だったかもしれない。
せめて外にすれば……いや、外だとそれはそれで困るか。お互いどんな格好なのかもわからないわけだし。
しかし、いかないと一度は断られたのにどうしたんだろう?
そりゃあ初めに誘ったのは僕なんだけど、
「だーれだ」
「わぁっ!? だ、誰だ!?」
「……それはどういう意味なのかしら」
僕は前回もだが改札を背にしていてはと改札の方を向いていた。今日は気づいたら時間が過ぎていたわけでもない。
何よりまだ電車が到着する時間でもないというのに、何故だか背後から密着かつ目隠しされ、その冷ややかな声を聞くまで相手が誰だかわからなかった!
だって、電車が到着していないのだから彼女がいるわけがなく、まったく彼女から聞いたことがない音域の声だった。
だが、僕がそれをなんと表現しようと言い訳としか思われず、声色だけでなく視線まで冷たいのは変わらないだろう……。
「姫川、さん。こ、こんばんは」
「こんばんは、一条くん。黒川さんにはすぐ気づいたくせに私には気づかないのね」
「だって聞いたことない声だったし……」
姫川さんは今ので確実に当たった柔らかい何かを気にした様子もなく、むしろ不満げな様子で「思っていた反応と違うし、失礼ね」と言い、密着した態勢から離れていく。
どうやら僕は慣れというか多少耐性がついたのか、様々な刺激に対して平静を装うことに成功したようだ。
そして、仮に僕が姫川さんが思っていた反応をした場合どうなっていたのかだが。
どう考えてもいい内容ではなく、おそらくそれよりは冷ややかな態度の方がマシだと思う。
なんとなく姫川さんのことを理解できてきたと最近感じからか、この勘があながち間違いではないという気がする。
きっと黒川さんと同じかそれ以上に大変なことになっていただろう(僕だけが)。
「──というか姫川さんはなんでいるの!? ちょうど今だよね、電車着くの」
「何を言ってるの? それはその電車よりも前の電車できたからに決まっているでしょう」
「いや、それならそうだと言ってくれないと困るよ」
「伝えていたら今のできなかったじゃない」
「えー……」
もしかすると今のをやりたいがために一本早い電車できて、僕を待ち伏せていたのだろうか。
先日「隙があれば自分もやりたくなる」と言っていたし。
そういうのは黒川さんだけで間に合っているんだけどな……。
「ところで、今日は私服なのね」
「えっ、浴衣じゃないとダメだった? こないだのは母親に着させられただけで、自分で着たわけじゃなかったんだ」
「そう、浴衣だと思って探したから見つけにくかったという話よ」
浴衣だった先日と違い今日は姫川さんも私服だ。
姫川さんの制服と浴衣姿以外を初めて見たし、よくよく考えたら私服の女の子と待ち合わせという状況も初めてじゃないか?
任意補習の期間中、毎日のように朝待ち合わせた黒川さんはずっと制服だったし、先日の花火大会では浴衣だった。
……で、お付き合いしている彼女を差し置いてのこれは果たしていいのだろうか?
いやいや、黒川さんに承諾は得ているんだから心配することないよな。問題ない!
黒川さんが彼女なんだし。来週は二人でプール行くし。問題ないはず……。
「一条くん。今のはわかりやすく『褒めろよ』って言ったのよ。曲がりなりにもデートというていで待ち合わせて、女の子の服装に一言もなく何をボーっとしてるの」
「えっ、」
「『えっ』じゃない。そんなことじゃ黒川さんに愛想つかされるわよ。それはそれで構わないからいいのだけど、今は私が目の前にいるんだからそうしなさいということよ」
なるほど。そんな内容を確かに何かで見たぞ。
姫川さんの服装はなんと言ったか……そうだセットアップだ。
白のセットアップに底がないサンダル。肩から下げているポーチ。
一見かなりラフな格好に見えるけど、モデルの問題なんだろうか周囲よりも目立っている。
「えーと、見慣れた制服姿よりも露出がなく、浴衣姿よりも大人っぽくて、とてもよく似合っています」
「甘めに点数をつけて三十点」
「低っ、自信はなかったけどそれでも低」
「他と比較しないのは評価するけどそこだけね。こっちは色々と考えて着てきているのだから、褒めるならもっとストレートに褒めてちょうだい」
三十点の配点は一つの項目でだけだった。
あと七十点もどうすればいいのか……。
見たままを言うのではなく、もっとファッションを勉強したりすれば点数は上がるのか?
「でも、一言でも褒められたら満足よ」
「姫川さん。そういう不意打ちみたいなのズルいよ」
急にしおらしくというか、急に態度が甘くなるのはズルいと思う。
姫川さんというのはもっと刺々していて、触れたら絶対に怪我するみたいな感じなはずなのに、この落差には正直言ってドキドキするしかない。
これがみんなが普段見ている姫川さんだとしたら、姫川さんにまいらないヤツはいないと思う。
「そろそろね」
「……何が? 灯籠流しはもう始まってるから、今からだと踊りと花火しか見れないよ」
姫川さんは僕に答えることなく三歩ほど後ろに下がる。
そして視線は僕ではなくその後ろの方を見ているようで、気になって振り返ると、そこには一目でわかるほどものすごく不機嫌な黒川さんがいた!
「この浮気者……。彼女の目の前でデレデレしやがって。あーしは服装を一回も褒められたことないけど!? どうなってんだ、言ってみろこのやろう!」
「なっ、えっ、黒川さん!?」
「高木っち。これ持ってて!」
「高木くんも!?」
黒川さんにばかり目がいっていたが紙袋を受け取ったのは高木くん。
どうして二人が? どうなってるんだ?
──なんて考える暇はなく、今は怒りが態度にまで出ている黒川さんをなんとかしなければ!
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
僕と柚子のエッチな日課
がとりんぐ
恋愛
主人公の23歳男と、近所に住む5年生の身長135cmロリっ子・柚子(ゆず)の物語。
ある出来事をキッカケに、僕は柚子と仲良くなった。学校帰りに毎日のように僕の家に来てくれて、一緒に遊ぶようになった。いつしかエッチな遊びをするのが日課になり、その内容もどんどんエスカレートしていき・・・
変態主人公に調教されて、どんどん変態ロリ痴女に成長していく柚子ちゃんをご覧あれ!
僕はキミに「さよなら」を告げる
はるの美羽都
恋愛
主人公の“僕”は、彼女である“キミ”とデートの待ち合わせ場所に行く途中で交通事故に遭う。
キミに何も言えずにこの世を去った悔しさと、心残りの中で死後の世界を生きていると、神様に呼ばれ「その心残りを果たしたいか」と聞かれる。
そして、一週間という期限の中で彼女を見つけ出し、伝えられなかったことを伝えられるチャンスが与えられた。
しかし、期限の中で彼女を見つけ出せず伝えられなかった場合、彼女の記憶から“僕”との想い出も記憶も何もかも、全て消し去ると告げられた。
僕は無事に彼女を見つけ出し、伝えられなかったことを伝えることが出来るのか。
そして、僕はキミに「さよなら」を告げることが出来るのか ───
『小説家になろう』で掲載している小説を、こちらでも掲載することにしました。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話
赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。
「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」
そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語
Lily connect
加藤 忍
恋愛
学校でぼっちの四条遥華にはたった一人の親友がいた。どんな時もそばにいてくれた信頼できる友達。
ある日の放課後、ラブレターが下駄箱に入っていた。遥華はその相手に断りと言うつもりだった。
だけど指定された場所にいたのは親友の西野楓だった!?
高校生の同性愛を描いたラブストーリー
(性描写少なめ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる