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下駄箱に入っていた運命 ②
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ラブがないラブレターに宛名も何も書いてなかった理由は、そのままラブレターにラブがないからだ。
特別好きじゃない相手に出す、負い目のあるラブレターだから、宛名も自分の名前も書くことができなかったのだろう。
ラブレターを渡す手段が下駄箱に投函だったのも、おそらく一番始めにラブレターを開封してもらうというハードルを自分で作るためだ。
一条は読まれない可能性があること、読まれても返事がない可能性をどこかで覚悟していたと思う。
周到に用意したラブレターに宛名を書き忘れるなんてミスをする一条じゃないし、負い目があろうとハードルを越えさえすれば大丈夫だという自信もあったのだろう。
まあ、普通はドン引く内容だったわけだけど……。
しかし、あのラブレターにラブは一欠片も感じられなかったけど、彼女が欲しいんだという書いた人間が伝えたい気持ちは十分に伝わった。
そしてラブレターとしては零点でも、企画書としての面白さは満点だった。
一条の不純さは相手を好きではないというところであり、その不純さは企画書をこなしていけばなくなるもので。
始まりが好きではなくても、最後が好きならいいんだという考えに基づいたビジネスライクなラブレター。
あーしにはそれがとても面白かった。だからすぐ様行動したのだ。
「──リンちゃん。さっきの続きだけど一条くんに本当に声かけるからね。『やっぱりアタシも好きだった』とか『この泥棒猫。絶交だ!』とかあとで言わないでね」
「言わないって。お好きにどうぞ。どうせ無理だと思うけど」
「それは去年までの話でしょう。今はラブレターを出すくらいには異性に興味があるんだからいける! 多少強引にでも落とすし」
昼休みでは会話の時間が足りず、かと言って授業中に喋っていてはリンちゃんにも先生にも怒られるから、この日の体育の授業というのは都合がよかった。
体育は二つのクラス合同で行われ、授業数も単位に必要な分だけしかなく、まったくと言っていいほど厳しくないのだ。
そして運動が得意ではないリンちゃんは単位だけ取れればいいらしく、あまり体育に乗り気でないから端の方でサボっ……話しかけても怒らないのだ。
「モテる女は言うことから違うね。 ……というか、ラブレターは誰宛だったの?」
「姫川 美咲」
「あー、あの美人で背が高い。球技大会で大活躍だった子ね。羨ましいわ、あの運動神経」
「美咲ちゃんゴール下で立ってただけだったけどね」
「でも負けたじゃん。あれ黒川の背が足りないのと、ウチの運動神経のなさが主な原因だぞ」
この時点ではどうして告白する相手が美咲ちゃんなのかはわからなかった。
人気がある女の子にラブがないラブレターの意味もわからなかったし、どう考えてもリンちゃんに告白した方が可能性があるのになと思った。
一条と美咲ちゃんが同じクラスで、席も隣というのは情報収集をするまで知らなかった。
美咲ちゃんに「私に話しかけないで」と初日も初日に言われていたから、あーしは美咲ちゃんに意識して近づかないでいたんだ。
今更だけど、そんなの気にしなければよかった。
あーしが少しでも美咲ちゃんと話していれば、美咲ちゃんの気持ちに気づくこともできただろうと思うから……。
「──それにしても一条は無謀だね。姫川さんってモテるんだろ。姫川さんにちゃんと届いてたら間違いなく振られてたな」
「リンちゃんの十倍。あーしの三倍はモテるね。無謀と言えば無謀だけど、そんなこと言ってるからリンちゃんモテないんだと思うよ」
「言い返したくても言い返せない。なら、黒川から見てウチはどうしたらいいの。ファッションには気をつけてますが?」
「もう少しガードを甘くしたら? ファッションをどう変えようと付け入る隙のない今のままだと、寄ってくる男も寄ってこないよ」
「そうか。そういうのも必要なのか……」
高等部になって彼氏はほしいがガードが固く、本来なら人気はありそうなのにもったいないのがリンちゃん。
そのリンちゃんにファッションをレクチャーしたのはあーしだが、リンちゃんがライバルになったりしたら手強いので話題を早急に変えることにした。
「で、一条くんって誰と仲がいいの? あーし、顔も知らなくて。ラブレターについてお話しようにもクラスに突撃よりは、友達に伝言を頼んで呼び出したいんだけど」
「あー、今のクラスだとアレとアレ。あのトサカも仲良いけどクラスは違う」
「……何か変な組み合わせだね。気のせい?」
「明らかにカテゴリーが違うわな。でも、そうなんだよ。別にずっと一緒ってわけでもないらしいのにな」
一条とは違った意味の真面目そうな硬派くんと、その真逆をいくような見た目ヤンキーくんと、どちらとも仲良さそうには見えないオタクくん。
ラブレターでわかった気になっていた一条のイメージが急にバラけた。
ファッションに興味があったリンちゃんとあーしとは違う、カテゴリーからのエラーに見えた。
そんな三人と仲がよく、あんなラブレターを書く一条のイメージは会うまでわからなかった。
スキンシップへの耐性のなさも意外だった。
「って、別にウチが紹介すればいいんじゃない?」
「それだと話が違ってくるから。ラブレターのこともあるしリンちゃんは無関係でいて。付き合うことになったら教えてあげるから」
「そんな報告いらない……」
「まぁそう言わずに。リンちゃんにも幸せをおすそ分けするから♪」
このあと硬派くんにはよく思われてなく、ヤンキーくんにもよく思われてなく、消去法でメッセンジャーはオタクくんになる。
そして、あーしは体育館の裏で一条がくるのを今か今かと待った……。
特別好きじゃない相手に出す、負い目のあるラブレターだから、宛名も自分の名前も書くことができなかったのだろう。
ラブレターを渡す手段が下駄箱に投函だったのも、おそらく一番始めにラブレターを開封してもらうというハードルを自分で作るためだ。
一条は読まれない可能性があること、読まれても返事がない可能性をどこかで覚悟していたと思う。
周到に用意したラブレターに宛名を書き忘れるなんてミスをする一条じゃないし、負い目があろうとハードルを越えさえすれば大丈夫だという自信もあったのだろう。
まあ、普通はドン引く内容だったわけだけど……。
しかし、あのラブレターにラブは一欠片も感じられなかったけど、彼女が欲しいんだという書いた人間が伝えたい気持ちは十分に伝わった。
そしてラブレターとしては零点でも、企画書としての面白さは満点だった。
一条の不純さは相手を好きではないというところであり、その不純さは企画書をこなしていけばなくなるもので。
始まりが好きではなくても、最後が好きならいいんだという考えに基づいたビジネスライクなラブレター。
あーしにはそれがとても面白かった。だからすぐ様行動したのだ。
「──リンちゃん。さっきの続きだけど一条くんに本当に声かけるからね。『やっぱりアタシも好きだった』とか『この泥棒猫。絶交だ!』とかあとで言わないでね」
「言わないって。お好きにどうぞ。どうせ無理だと思うけど」
「それは去年までの話でしょう。今はラブレターを出すくらいには異性に興味があるんだからいける! 多少強引にでも落とすし」
昼休みでは会話の時間が足りず、かと言って授業中に喋っていてはリンちゃんにも先生にも怒られるから、この日の体育の授業というのは都合がよかった。
体育は二つのクラス合同で行われ、授業数も単位に必要な分だけしかなく、まったくと言っていいほど厳しくないのだ。
そして運動が得意ではないリンちゃんは単位だけ取れればいいらしく、あまり体育に乗り気でないから端の方でサボっ……話しかけても怒らないのだ。
「モテる女は言うことから違うね。 ……というか、ラブレターは誰宛だったの?」
「姫川 美咲」
「あー、あの美人で背が高い。球技大会で大活躍だった子ね。羨ましいわ、あの運動神経」
「美咲ちゃんゴール下で立ってただけだったけどね」
「でも負けたじゃん。あれ黒川の背が足りないのと、ウチの運動神経のなさが主な原因だぞ」
この時点ではどうして告白する相手が美咲ちゃんなのかはわからなかった。
人気がある女の子にラブがないラブレターの意味もわからなかったし、どう考えてもリンちゃんに告白した方が可能性があるのになと思った。
一条と美咲ちゃんが同じクラスで、席も隣というのは情報収集をするまで知らなかった。
美咲ちゃんに「私に話しかけないで」と初日も初日に言われていたから、あーしは美咲ちゃんに意識して近づかないでいたんだ。
今更だけど、そんなの気にしなければよかった。
あーしが少しでも美咲ちゃんと話していれば、美咲ちゃんの気持ちに気づくこともできただろうと思うから……。
「──それにしても一条は無謀だね。姫川さんってモテるんだろ。姫川さんにちゃんと届いてたら間違いなく振られてたな」
「リンちゃんの十倍。あーしの三倍はモテるね。無謀と言えば無謀だけど、そんなこと言ってるからリンちゃんモテないんだと思うよ」
「言い返したくても言い返せない。なら、黒川から見てウチはどうしたらいいの。ファッションには気をつけてますが?」
「もう少しガードを甘くしたら? ファッションをどう変えようと付け入る隙のない今のままだと、寄ってくる男も寄ってこないよ」
「そうか。そういうのも必要なのか……」
高等部になって彼氏はほしいがガードが固く、本来なら人気はありそうなのにもったいないのがリンちゃん。
そのリンちゃんにファッションをレクチャーしたのはあーしだが、リンちゃんがライバルになったりしたら手強いので話題を早急に変えることにした。
「で、一条くんって誰と仲がいいの? あーし、顔も知らなくて。ラブレターについてお話しようにもクラスに突撃よりは、友達に伝言を頼んで呼び出したいんだけど」
「あー、今のクラスだとアレとアレ。あのトサカも仲良いけどクラスは違う」
「……何か変な組み合わせだね。気のせい?」
「明らかにカテゴリーが違うわな。でも、そうなんだよ。別にずっと一緒ってわけでもないらしいのにな」
一条とは違った意味の真面目そうな硬派くんと、その真逆をいくような見た目ヤンキーくんと、どちらとも仲良さそうには見えないオタクくん。
ラブレターでわかった気になっていた一条のイメージが急にバラけた。
ファッションに興味があったリンちゃんとあーしとは違う、カテゴリーからのエラーに見えた。
そんな三人と仲がよく、あんなラブレターを書く一条のイメージは会うまでわからなかった。
スキンシップへの耐性のなさも意外だった。
「って、別にウチが紹介すればいいんじゃない?」
「それだと話が違ってくるから。ラブレターのこともあるしリンちゃんは無関係でいて。付き合うことになったら教えてあげるから」
「そんな報告いらない……」
「まぁそう言わずに。リンちゃんにも幸せをおすそ分けするから♪」
このあと硬派くんにはよく思われてなく、ヤンキーくんにもよく思われてなく、消去法でメッセンジャーはオタクくんになる。
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