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始まりのバレンタイン

後日談

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 誰だ、『バレンタインは続きます』って、嘘を言ったやつは……──そうだよ、俺だよ! だって続くと思うじゃん!?

 今日は2月14日。なお、これは現実での日付である。異世界のバレンタインは昨日のことだ。
 お姫様ことルシアからチョコレートを頂いた俺は、昨夜は夢見よく眠りについた。

 お姫様から貰ったチョコレートを自慢しまくり、最初は羨ましがられ、最後は疎まれ大変でした。
 ご本人からも浮かれすぎだとボコられ、自慢が鼻についたみんなからもボコられ散々でした。

 それでも、バレンタインにチョコレートを獲得した俺は、浮かれ気分でかつてないほど良い気分で眠りについた。
 翌日である今日も入試で休みだからな。いいことは続くもんだ!

 それと昨日はニヤケ顔が止めらなれなくて、妹から『きもい』と心無い言葉を頂戴もした。
 それでも、嬉しいままで朝を迎える。

 今日は久しぶりに1日中寝ていよう。どうせ、チョコレートをこれ以上獲得することはできないから。
 しかし、価値ある1個を手に入れたから満足です! 簡単には食べられない。大事に保管します!

 問題はここからだ。
 俺は、そんなことを思いながら惰眠を貪ってたんだ。そしたらね……。

「うるせーな、さっきから何回もかけてきやがってーーっ。どこのバカだ!」

 携帯電話が鳴ってはやみ、鳴ってはやみを繰り返していた。
 取りにいくのもめんどくさかったし、出なければ諦めるだろうと思っていたら、諦めるどころか電話の鳴る頻度は高くなっていく。

「出ないのにメールで連絡しないとすると……誰だ?」

 普通は電話に出なかったら留守電かメールに……それも変だよな。メールはないわ。自分で言ってあれだけど。
 電話に出ないのは理由があるんだよ? めんどくさいとか。めんどくさいとかね。

「仕方ないな」

 俺は仕方がないので起き上がり、充電器に挿してある携帯電話を掴む。
 俺の部屋は差込みがベッドまでは届かないので、起き上がらないといけないのだ。

「…………ヤバい」

 ずらりと並ぶ履歴の相手を見た瞬間に、すぐさま掛け直す。
 死のリスクがその瞬間も上がっている気がしたからだ。

「ヤバい。ヤバい。ヤバいーー!」

 呼び出し音がする間も気が気ではなかった。
 姿勢を正してみたりもしたが意味はないだろう。

「おはようございます! 何用でしょうか。店長」

『────!』

 何度もかけてきていたお相手の方は、かなり怒っておられた。耳がキーンってなるくらい怒鳴られた。
 電話の相手が誰かって? バイト先の元ヤン店長だよ。

「ちょっと気づかなくって……」

『──────!!』

 元ヤンの店長と言ったら、まずは近い。まるでそこにいるかのような音量。
 そしてこわい。お姫様より、幼馴染大明神様よりこわい。俺に関わりのある人間で一番こわいのだ。

零斗れいと。今日が休みなのは分かってんだ。1時間以内に来い。さもないと────する』

 淡々と、────すると言われた。
 内容はお聞かせできないが、元ヤンは相当怒ってる。たかが数十回、電話に出なかっただけでだ。
 ヤンキーは恐ろしい……。

「ははは、休むって言っておいたじゃないすか」

『──ブツッ──』

「切られた……。1時間以内とか無理だろ」

 参考までに説明すると、田舎は電車の数が少ないんだ。前にも言ったけどね。
 電車に乗れば10分でバイト先の駅まで着く。店が学校に行くのと同じ駅の駅前だから。前にも言ったけどね。

 ただ、次の電車を逃すと1時間以内には到着しない。つまり後10分で駅まで行って電車に乗らなくてはいけないね。
 移動時間は電車に乗ってる時間と同じだけしかないというわけだ。以上で、回想終わります。

「ヤンキーを怒らせるのはマズイ! 駅前だしバックれても待ち伏せされて────される。って、そんなこと言ってる場合じゃない! 急げ!」

 こうして俺の2月14日は過ぎていく。
 というか終わる。バイトから帰るのは夜になるからね。

◇◇◇

 バイト先で、休んだ分だけこき使われました。
 そんな今日ね、ひとつ思ったことがある。『実は俺はそういうのが好きなんだろうか?』と。

 というのも、本人たちには絶対に聞かせられないけど、俺の周囲にはすぐに暴力に訴える女が多い。
 物理的に制裁を科す彼女たち。よく言えばツンデレ。悪く言うと暴力女。
 恥ずかしさを暴力で誤魔化している。んだと思いたい。

 まさかとは思うが、俺はそういうのが好きなのか?

 確かに、ツンデレは好きだよ。デレがあるならね。ただ、彼女たちに今のところデレはないよ。
 だとすると……ただのツン。俺は、その物理的な制裁がいいと思っているのか? そんな変態だったのか?

「そんなわけないよな。たまたまツンデレが多いだけだ。お姫様に幼馴染大明神様に元ヤン店長。ちょっと多いだけだ!」

 バイト先の店長は暴力女かつ元ヤンキー。
 元とつけているのは今は働いてるからね。昔は悪かったってやつだね。
 ……今も変わらないと思うんだけど。というのはナイショだよ?

「しかし、あの店長がチョコレートをくれるとは思わなかった。コンビニで買ったんだろうけど、まさかバレンタインにチョコを貰うとは……」

 店長は帰り際にチョコレートをくれた。
 コンビニの袋に入ったままだったけどね。あの人らしい。
 なんやかんやこき使われだが、今日は忙しくはなかった。チョコレート渡すために呼び出されたというのは、流石に考えすぎだよな。

「俺はそんなにチョコレート欲しそうだったのだろうか」

 尋ねてみても答えは返ってこない。俺は1人で、自宅までの帰り道を歩いているんだから。
 少しだけ悪魔が答える気がしたんだが、今日はいなかったらしい。

「──んっ?」

 家まで10メートルちょっとくらいのところで、家の前に誰かが立っていることに気づいた。
 近づいていくにつれ、シルエットから相手が誰か分かる。

「ルイ、家の前でどうしたんだ?」

「よう、おかえり。おまえ油くさいな……」

「まあな。だが、バイト帰りはいつもこんなんだぞ。帰ったら即風呂に行くし。ところで──」

「そうしろ。最初から渡すだけのつもりだったし、ちょうどいい……。はいこれ」

 そう言って、ルイは何やら紙袋を手渡してくる。
 ルイに、『どうやって帰りの時間を知ったのか?』とか聞きたかったが、紙袋を貰ってしまったし、ルイはそそくさと帰っていこうとする。

「あ、ありがとう。 ……ところでこれは何?」

 受け取った紙袋は思ったより重い。それに中からビンがこすれるような音がした。
 なんかのおすそ分けとかだろうか? ママンに渡せばいいのに。いや、俺の帰りと偶然タイミングが合っただけとか?

「今日は何日だ?」

 4歩くらい進んでルイは立ち止まり、振り返らずにこう聞いてきた。
 答えるのは簡単だ。かなり分かりやすい日にちだし。

「2月14日」

「なら、わかんだろ」

 えっ、つまりチョコレートなの……これ。
 まぁまぁ重いんだけど。
 チョコレートってこんな重量ないはずだよね。

「この袋の中はチョコレートなのか?」

「なんで疑問形なのかは分からないけど、チョコレートだよ。いちおう」

「いちおうチョコレート。つまりチョコレートではないと……」

「──めんどくさいな! 帰って開けてみろよ。じゃあな」

 いや、いちおうチョコレートと聞いたら不安になるよね?
 俺の、『毒植物のチョコレートソースで食べる、ドラゴンのステーキ』くらいには怪しい。

「──ルイ!」

 だけど俺は、背を向け徒歩1分以内の隣の家に帰っていく幼馴染を呼び止める。
 ずっと言っていなかった言葉を言うために。

「ありがとな。数年越しのありがとうになっちまったけどさ。ありがとう」

「ホワイトデーにお返しはちゃんとよこせよ。昔みたいに忘れたりしたらヒドイからな」

「わかってる。期待しないで待ってろ!」

「……普通は期待してじゃないのか」

 これは、バレンタインの無茶振りを繰り返さないための伏線だよ。ホワイトデーも無茶振りをされてはたまらないので。

「それ、日持ちしないから早く食べろよ。零斗れいとはこないだは食べられなかったからな。余るようだったら家族にでもやれよ。日持ちしないって言ったからな?」

 なに、俺が食べられなかった……そんなのあったか? すぐには分からないな。

「じゃあな」

「あぁ、また明日な!」

 そう昔のように口にして別れる。家だって隣なのだから、毎日顔を合わせるはずだ。
 俺が普段より少し早起きすればね。
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