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優しい少女

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少年がいた。
 ボロ屋の前で佇んでいる。
 どうやら一人ぼっちで、路上で犬と遊んでいるらしい。
 優しそうに微笑む少女が声をかけた。
「君、大丈夫?」
 少年はどきりとしていた。

「うん、君は?」
「なんでも二つまでなら願いを聞くよ。さあ、言ってみて」
 願い事なんて、叶うのかな?
 けれど、なんだか不思議な力を感じる女の子だ。
「じゃ、じゃあ僕の友達になってくれる?」
「え?」
「学校でもいつも一人なんだ・・・僕だけなんだ」
 白い風が吹いた。
「なあんだ、簡単じゃない! 任せて。はい、今日からお友達ね」
「本当? やったあ!」
 それから少年は毎日少女と遊ぶことになった。
 
 月日は経ち、少年も青年になったが、少女は高校生くらいの容姿のままだ。
「君は何故、年を取らないの?」
「そういう決まりなの。ところで、そろそろ就活よね?」
「うん・・・」
「お願いごとをしなくていいの?」
 少年はどこかぼんやりしているので、少女は不安だ。
「うん、そんなことより、お願いがあるんだ」
「うん! なんでも言ってよ」
「・・・君が好きなんだ」
「ええ?」
「結婚してくれないかな?」
 少女はどぎまぎとしながら、
「うん、喜んで! だって、私もずっと大好きだったから」
 こうして、仲のいい夫婦ができた。
 白い風が吹いていた。

 やがて、少女は赤ん坊を身ごもっていた。
 慎ましいボロ屋だが、中は温かかった。
 青年の方は、起業して社長になり大きな家を建てようとしていた。
「君と会ってからなんでも夢が叶うよ。これからもいっぱいお金を稼ぐからね」
「うん・・・けど、あなた・・・一つ絶対に約束を守って」
「なんだい?」
「・・・絶対に三つ目の願いを言わないでちょうだい。ね? 約束よ」
「なんだい、急に。もちろんだ! もう、僕の夢なんか全部叶ったんだからね」
 青年は嬉し気にゴルフの練習をしていた。
 少女はお腹をさすっていた。
(三つの願いを叶えると、私たち天使族は泡となって消えてしまうのよ・・・)
 少女は儚げに青年を見守っていた。

「お前、今月の成績はなんだ!?」
 青年は部下に怒鳴っていた。こんな業績では生まれてくる娘のための大きな家は建てれない。
「あなた、そんなに怒鳴らないで」
 少女はおびえていた。起業してから、夫は変わってしまった。
「何を言うんだ、君たちのためにこんなに働いているんだぞ!」
 青年は少女にそう言い、さらに部下たちを叱りつけていた。
 少女は青ざめながらも、必死で青年のために家事をしていたが、やがて青年の会社は部下たちが反発して逃げ出してしまい、潰れる寸前となった。
「なんてことだ・・・もう終わりだ・・・」
「私たちにはこの子がいるわ」
 少女は微笑んでいた。
「あの会社のために全資産をつぎ込んでいたんだ・・・もう終わりだ」
「平気よ、私が頑張るわ」
 少女は青年のために身を粉にして働いた。
 しかし、少女もまた、心労のために倒れるのだった。

 元々暮らしていた貧相な家の中で、少女は安らかな風に吹かれていた。
「おお、僕が間違っていた・・・君まで失ったらどう生きていけばいいんだ? 頼む、君さえ無事でいればそれでいいんだ」
「あなたは何も失わない・・・ねえ、あなた。『子供を救う』と言ってちょうだい」
「馬鹿な! 三つ願いを叶えると駄目なんじゃないのか?」
「別に平気よ。ねえ、聞いてちょうだい。私はあなたに救われた」
「僕が?」
「あなたに会う前・・・私も除け者で仲間外れだったの。私はドジで何も上手くできないから」
「そうだったのか」
「彷徨っている所であなたと出会えて、全てを手に入れたわ・・・もう、何も怖くない。さあ、『子供を救う』と願って」
「分かった・・・本当に大丈夫だね?」
「ええ。今まで全部叶ったでしょう?」
「わ、分かった・・・子供を救おう・・・」
 白い風が吹いた。
 少女は微笑んでいた。
「ありがとう。いつも、私の願いを叶えてくれる。大好きよ、あなた・・・」
「何を言うんだ、君が僕の願いを叶えていたんだろう?」
「いいえ、いつもあなたの方よ」
 そうして、少女は病院へと担ぎ込まれて、無事に元気な女の子を産んでいた。
 
 それは、少女によくにた笑顔の優しい赤ん坊だった。
 
 しかし、不思議なことに少女は白い風と共にかき消えて、後にはわずかな泡だけが残っていた。
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