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新生活

最初の試練-3-

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 夕日が中庭を染め、9人の仲間たちが集まる中、俺は中庭の銅像の前に立ち、仲間たちを見回す。夕陽に照らされる中、彼らの表情には歴史の深淵に触れた感慨がにじんでいる。

「この試験を通して、帝国の歴史の深さを感じたな」

 アイザックが銅像へ視線を向けつつも、遙か彼方を見つめるように呟く。

「そうだな、過去の栄光と失敗が未来を築く礎となるんだ」

「私たちが担うべき重さ、それがより明確になった気がするわ」

 俺とリリーがアイザックの言葉に頷き言葉を続ける。アイザックとリリーは軍人の家系であるだけに、彼らの先祖が積み重ね受け継いできたの遺産の価値や意味、それを帝国の柱石たる生き証人クラウゼンベルク学長から改めて伝授されことへ武者震いに似た何かを感じていた様だ。

「歴史は私たちに責任を課している。だからこそ、真実を知り、学び、未来を切り拓かなければならない――そういうことなのね」

 ヴィクトリアもまた貴族令嬢としてアイザックたちとは違う使命感を感じていた様だ。

「帝国の未来は、歴史を理解し尊重することから始まるのだな」

 オリヴァーが力強く頷く。彼の言わんとするところはわかるが、それに複雑な表情を浮かべるアレクサンダーとフェリクス。

 二人は名門貴族たちが堅持する伝統と美学の論法だと感じたが、この士官学校や軍部にとって望まれる考え方であることを理解してもいた。だが、それによって革新が進まないというジレンマを財界人と技術者という立場にある二人は理解していただけに素直に頷けなかった様だ。

 折角醸成された良い空気を壊さないために俺はあえてこういう言い方をしたのだった。

「俺たちがこの士官学校で共に積み重ねてきた時間も、確かな絆となり、歴史の一ページになる。学長はそれもまた言いたかったのだと思うよ」

 仲間たちは一様に頷いてくれた様だ。俺の言葉の後、それぞれが思いに耽りながら、中庭から見える夕焼けの美しい風景を堪能していた。そのとき、何の言葉も必要ではなかった。

 暫くするとヴィクトリアが優雅に微笑みながら語りかける。

「歴史は過去だけでなく、未来を照らす灯台でもあるのね」

「まさにそうだ。これから先、俺たちが歩む未知の道も、先人たちの足跡が照らしてくれるだろう」

 オリヴァーがにっこり笑いながら応じた。

「仲間たちと共にある限り、どんな未来だって乗り越えることが出来るさ」

 アイザックは力こぶを作りながらそう言って歯を見せて笑う。彼のそれを見ていると力がわいてくる気がするのが不思議だ。

 和やかな空気に変わった後の俺たちは談笑して過ごしていたが、いつの間に夕陽は西の空に隠れようとしていた。そろそろ良い時間だと俺たちは中庭から寮へと移動し始めた。夕陽の余韻が残る中、彼らは寮の食堂で再び集結することを約束しながら別れ様としたときのことだった。

 フェリクスの姿が見当たらないことに気気付いたのであった。俺が周りを見回し、フェリクスを見つけられないことに不安を感じて皆に尋ねる。

「フェリクスはどこにいるんだろう?」

「あいつは試験の結果に悔しさを感じているかもしれないな。フォローしきれなかったか」

 アイザックは少し悔しそうな表情を浮かべていた。力になりきれなかったことへの悔恨だろうか。

 仲間たちは互いに頷き、寮への道を急ぐことにした。寮の中庭では、暖色の灯りが幻想的な雰囲気を醸し出していた。すると、一人の影が寮の廊下に佇んでいるのが見えた。

 それはフェリクスだった。

 彼は一人で寮の部屋に向かおうとしているようだった。俺たちは彼の様子を見守りながら、彼が辿り着いた寮の部屋の前で、一瞬立ち止まった。彼は深いため息をつき、ドアを開けると、中に入ってしまった。

 アイザックが他の仲間たちに手で合図し、静かに彼の後を追いかけることに決めた。

 寮の中のフェリクスの部屋では、彼が一人で悔し涙を流しているのが見受けられた。アイザックが仲間たちに制止の合図を送り、ゆっくりと彼の元へと歩み寄ると、彼の肩を軽く叩いた。

「君は一人じゃないんだ。仲間がいるんだから」

「アイザック、ありがとう」 

 仲間たちの存在が、フェリクスにとっての心の支えとなってくれると良いなと俺はその光景を見ながら思った。彼の悔しさはまだ癒えないままだろうが、仲間たちの言葉と温かい雰囲気が、その心を少しずつ包み込んでくれると良いなと思う。

「フェリクス、試験の結果だけが君の価値じゃない。君の強みは他にもたくさんある。今回のそれはあくまで帝国軍人たるものとしての自覚を促すものでしかないんだ」

 アイザックの言葉にフェリクスは黙って頷いた。

「試験の点数は一瞬の出来事だ。でも、仲間たちは君の強みを知っている。そして、次の試験に向けて、一緒に頑張るんだ。君が不安なら、俺たちが手助けするさ」

 アイザックは微笑みながら続けて言ったが、それには仲間たち皆が同様に頷いていた。

「そうだ。次の試験はきっと君にとって輝かしいものになる。俺たちが力を合わせて、乗り越えようじゃないか」

 オリヴァーが任せろと言わんばかりの表情でフェリクスの肩を二度叩く。彼の表情がだんだんと柔らかくなり、心の中で何かが解けていくようだった。

「君は一人じゃない。どんな時も仲間がそばにいるんだからな」

 アイザックが再び肩を叩き静かに励ました。

 仲間たちは寮の部屋で過ごす時間を共にし、笑顔と友情で部屋を包み込んだ。未知なる未来への冒険は、彼らの心をより一層固く結びつけていくことだろう。

 そして、帝国史の試験結果という出来事は、俺たちの長い旅路のほんの一瞬のことに過ぎなかった。
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