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新生活
前奏曲
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夕暮れの列車は、窓の外に広がる風景が速く通り過ぎていく。
帝都中央駅を目指す海岸本線の上り特別急行列車は時速100ルーデという高速で夕闇迫る帝都近郊をひた走る。もう直に到着であるというのに車内は慌ただしさを感じさせず、心地よい空間を提供している。この車両は特別急行列車の二等客車であり、比較的ゆったりとした乗車空間であり、客層そのものがあくせくするような者たちでないこともあるだろう。
そんな車内に目立つ乗客が三人いた。真新しい士官学校の制服を着用していることからも、その所属と身分を示すには十分だろう。とは言っても、他の乗客もじろじろと見物するほど珍しいものではない。何しろ、この時期には帝都中央駅ではこの手の存在は掃いて捨てるほど居るのだから。
そして、その三人というのが、俺、オリヴァーそしてセリーナという士官学校入校前のヒヨコたちだ。俺たちは一緒に座り、懐かしい友情の空気を車内に漂わせていた。
俺とセリーナは1時間ほど前に帝国直轄都市であるゴルトハーフェンから乗車したのだが、オリヴァーは地元が更に遠く、昼前に乗車したらしい。ゴルトハーフェンはその名の通り黄金の港を意味する商港であり、その近郊都市が工業地帯として産業の中心として繁栄している。
歴史浅き我がアシュモア伯爵家と同じくセリーナのメリウェザー子爵家も新興貴族であり、帝国直轄地に小さな領地を下賜されている。たまたまアシュモア家とメリウェザー家はほど近い領地を有していることからゴルトハーフェンでは近所に邸宅を構えている。領地は鉄道が通っていないことから不便で多くの新興貴族は我ら同様に帝国直轄都市に邸宅を構えているのだ。
俺とセリーナの家と違い、オリヴァーは歴史古き名門貴族のウィンザービル伯爵家の出身だ。彼は次男坊であるからか、彼の兄と比べて比較的自由な生活をしていたのか、あまり名門と新興の壁を感じさせない付き合いやすい男である。
今も東海岸地方の名産であるミカンを頬張りながら楽しそうに笑っている。そういえば、こいつは重度の鉄オタだった。何の用事もないのにローゼリア自治国との国境にあるノルドグレンツェ門まで出掛けてとんぼ返りしたのは記憶に新しい。
そのオリヴァーは笑みを浮かべながらセリーナに思い出したかのように話題を振った。
「そういえば・・・・・・セリーナ、あの時のパーティー楽しかったな」
セリーナは軽く微笑んで頷いた。
「はい、素晴らしいパーティーでした。思えば私たちはあのときに初めて知り合えたのでしたね」
俺は彼らの話に混ざることにする。彼らの出会いの話は純粋に興味深いからだ。
「二人はどうして知り合ったんだい?」
オリヴァーが思い出深そうに笑みを浮かべた。
「実はあの日、俺はちょっと場違いな感じでね。セリーナはそれに気づいて、手助けしてくれたんだ」
「ただのお世話程度のことですわ」
セリーナは恥ずかしそうに微笑んで、そう答えたがオリヴァーは大らかな笑顔で続けた。
「でもな、それからはどうだい? セリーナとはいい友達になれたろ?」
「ええ、お話しを楽しめましたわ」
「オリヴァー、セリーナが君を助けた瞬間ってどんな感じだったんだい?」
セリーナは照れくさい微笑みを浮かべて応じたことにオリヴァーは思い出にほころぶ笑みを浮かべた。セリーナは微笑みながら付け加える。
「オリヴァー様は、いわゆる『華やかな場』に馴染みたくないご様子で、ひとりでいらしたの」
オリヴァーは苦笑しながら続けた。
「まあ、俺が知らない顔ばかりで、正直戸惑っていたんだ。そこへセリーナが声をかけてくれたんだ。あのときは本当に助かった」
「あの時、私はちょうど友達と離れていたの。オリヴァーくんがひとりでいるところを見かけて、気になってね。」
セリーナは優雅な仕草でオリヴァーの言葉を補完したのだが、それが俺はとても興味深く思えて尋ねることにした。
「それから、どんな会話が始まったんだい?」
オリヴァーは軽く頬をかいて考え込んだ後、思い出すように答える。彼にとっては良い思い出のようである。
「まず最初はお互いの名前から始まったかな。それからどうしてこんな場所にいるのか、趣味の話、家族のこと……。そんな感じだったかな」
「オリヴァー様は本当に率直で、話しやすかったですわ。私がちょっと控えめだったから、彼がリードしてくださった感じで・・・・・・」
セリーナは微笑みを浮かべるとオリヴァーも大らかな笑顔で続ける。
「セリーナも最初は緊張してたけど、徐々に打ち解けて。その頃から俺たちの友情は芽生えたって感じだな」
「それが二人の始まりだったんだな。本当に素晴らしい出会いだ」
俺は感慨深そうに頷いたが、同時に二人のその微妙な雰囲気を感じ取ってもいた。故にあえて尋ねることにした。微妙な話題ではあると思ったが、長く付き合うことになるだろう相手のことだ、ある程度腹を割って話をしておきたいと思ったのだ。
「話しの中で気になることがあるんだが、お互いの家柄のことはどう思っているんだい?」
オリヴァーは肩をすくめる。彼にとっても頭痛の種っぽい様子が感じられる。
「ああ、家柄だね。俺は正直、あまり気にしていないな。家族のことも含めて、みんな個々の良さがあると思ってるよ。知っての通りの次男坊だ。部屋住みのスペアが何様だってのさ」
セリーナは少し考え込んでから口を開いた。
「私も同感よ。でも、家族の期待や社会の目は感じることがあるわ」
正直な思いは二人とも同じだった。
オリヴァーは軽くセリーナの肩を叩いて言葉を続ける。
「まあ、気にしすぎるのも良くないって。俺たちはここにいる今、同じ立場だろ?」
セリーナは彼の言葉に助けられたように微笑んで頷いた。
「ありがとうございます。オリヴァー様。その言葉に力を貰える思いがしますわ」
俺はそんな彼らのやりとりを見て思った。
「お互いに支え合ってる姿が、本当に素敵で、大切なことだと思うよ」
列車の揺れと共に、窓の外に広がる風景が次第に変わっていく。不夜城と謳われる帝都の喧噪が車内にも伝わってくる様になった。
客車の三軸台車が線路の継ぎ目を通過するその音が、三人の過去と未来をつなぐような、新たな章への前奏曲を奏でているようだった。
帝都中央駅を目指す海岸本線の上り特別急行列車は時速100ルーデという高速で夕闇迫る帝都近郊をひた走る。もう直に到着であるというのに車内は慌ただしさを感じさせず、心地よい空間を提供している。この車両は特別急行列車の二等客車であり、比較的ゆったりとした乗車空間であり、客層そのものがあくせくするような者たちでないこともあるだろう。
そんな車内に目立つ乗客が三人いた。真新しい士官学校の制服を着用していることからも、その所属と身分を示すには十分だろう。とは言っても、他の乗客もじろじろと見物するほど珍しいものではない。何しろ、この時期には帝都中央駅ではこの手の存在は掃いて捨てるほど居るのだから。
そして、その三人というのが、俺、オリヴァーそしてセリーナという士官学校入校前のヒヨコたちだ。俺たちは一緒に座り、懐かしい友情の空気を車内に漂わせていた。
俺とセリーナは1時間ほど前に帝国直轄都市であるゴルトハーフェンから乗車したのだが、オリヴァーは地元が更に遠く、昼前に乗車したらしい。ゴルトハーフェンはその名の通り黄金の港を意味する商港であり、その近郊都市が工業地帯として産業の中心として繁栄している。
歴史浅き我がアシュモア伯爵家と同じくセリーナのメリウェザー子爵家も新興貴族であり、帝国直轄地に小さな領地を下賜されている。たまたまアシュモア家とメリウェザー家はほど近い領地を有していることからゴルトハーフェンでは近所に邸宅を構えている。領地は鉄道が通っていないことから不便で多くの新興貴族は我ら同様に帝国直轄都市に邸宅を構えているのだ。
俺とセリーナの家と違い、オリヴァーは歴史古き名門貴族のウィンザービル伯爵家の出身だ。彼は次男坊であるからか、彼の兄と比べて比較的自由な生活をしていたのか、あまり名門と新興の壁を感じさせない付き合いやすい男である。
今も東海岸地方の名産であるミカンを頬張りながら楽しそうに笑っている。そういえば、こいつは重度の鉄オタだった。何の用事もないのにローゼリア自治国との国境にあるノルドグレンツェ門まで出掛けてとんぼ返りしたのは記憶に新しい。
そのオリヴァーは笑みを浮かべながらセリーナに思い出したかのように話題を振った。
「そういえば・・・・・・セリーナ、あの時のパーティー楽しかったな」
セリーナは軽く微笑んで頷いた。
「はい、素晴らしいパーティーでした。思えば私たちはあのときに初めて知り合えたのでしたね」
俺は彼らの話に混ざることにする。彼らの出会いの話は純粋に興味深いからだ。
「二人はどうして知り合ったんだい?」
オリヴァーが思い出深そうに笑みを浮かべた。
「実はあの日、俺はちょっと場違いな感じでね。セリーナはそれに気づいて、手助けしてくれたんだ」
「ただのお世話程度のことですわ」
セリーナは恥ずかしそうに微笑んで、そう答えたがオリヴァーは大らかな笑顔で続けた。
「でもな、それからはどうだい? セリーナとはいい友達になれたろ?」
「ええ、お話しを楽しめましたわ」
「オリヴァー、セリーナが君を助けた瞬間ってどんな感じだったんだい?」
セリーナは照れくさい微笑みを浮かべて応じたことにオリヴァーは思い出にほころぶ笑みを浮かべた。セリーナは微笑みながら付け加える。
「オリヴァー様は、いわゆる『華やかな場』に馴染みたくないご様子で、ひとりでいらしたの」
オリヴァーは苦笑しながら続けた。
「まあ、俺が知らない顔ばかりで、正直戸惑っていたんだ。そこへセリーナが声をかけてくれたんだ。あのときは本当に助かった」
「あの時、私はちょうど友達と離れていたの。オリヴァーくんがひとりでいるところを見かけて、気になってね。」
セリーナは優雅な仕草でオリヴァーの言葉を補完したのだが、それが俺はとても興味深く思えて尋ねることにした。
「それから、どんな会話が始まったんだい?」
オリヴァーは軽く頬をかいて考え込んだ後、思い出すように答える。彼にとっては良い思い出のようである。
「まず最初はお互いの名前から始まったかな。それからどうしてこんな場所にいるのか、趣味の話、家族のこと……。そんな感じだったかな」
「オリヴァー様は本当に率直で、話しやすかったですわ。私がちょっと控えめだったから、彼がリードしてくださった感じで・・・・・・」
セリーナは微笑みを浮かべるとオリヴァーも大らかな笑顔で続ける。
「セリーナも最初は緊張してたけど、徐々に打ち解けて。その頃から俺たちの友情は芽生えたって感じだな」
「それが二人の始まりだったんだな。本当に素晴らしい出会いだ」
俺は感慨深そうに頷いたが、同時に二人のその微妙な雰囲気を感じ取ってもいた。故にあえて尋ねることにした。微妙な話題ではあると思ったが、長く付き合うことになるだろう相手のことだ、ある程度腹を割って話をしておきたいと思ったのだ。
「話しの中で気になることがあるんだが、お互いの家柄のことはどう思っているんだい?」
オリヴァーは肩をすくめる。彼にとっても頭痛の種っぽい様子が感じられる。
「ああ、家柄だね。俺は正直、あまり気にしていないな。家族のことも含めて、みんな個々の良さがあると思ってるよ。知っての通りの次男坊だ。部屋住みのスペアが何様だってのさ」
セリーナは少し考え込んでから口を開いた。
「私も同感よ。でも、家族の期待や社会の目は感じることがあるわ」
正直な思いは二人とも同じだった。
オリヴァーは軽くセリーナの肩を叩いて言葉を続ける。
「まあ、気にしすぎるのも良くないって。俺たちはここにいる今、同じ立場だろ?」
セリーナは彼の言葉に助けられたように微笑んで頷いた。
「ありがとうございます。オリヴァー様。その言葉に力を貰える思いがしますわ」
俺はそんな彼らのやりとりを見て思った。
「お互いに支え合ってる姿が、本当に素敵で、大切なことだと思うよ」
列車の揺れと共に、窓の外に広がる風景が次第に変わっていく。不夜城と謳われる帝都の喧噪が車内にも伝わってくる様になった。
客車の三軸台車が線路の継ぎ目を通過するその音が、三人の過去と未来をつなぐような、新たな章への前奏曲を奏でているようだった。
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