遺された日記【完】

静月 

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「ぼ、坊?」

「…はや…っく、刀を゙…っ、」

 私の首元で坊の腕が小刻みに震えている
 今だけは坊の意識が戻っているみたい
 私は急いで地面についていた手で刀をつかんで坊のお腹を一刺しした

「あリ゙が…とぅ゙…」

 静かに目を瞑りながら私により掛かる坊を私は優しく抱きとめてその場に寝かす
 私がそっとその場を離れると刀の切り口から邪気を放つ紫の煙が漏れ出てくる
 友人を切ったときとは違う
 それよりももっと得体のしれない闇そのもの
 煙はしばらくすると形を作っていって最終的に狩人の姿になった
 だけどこいつは狩人じゃない。主だ

「色々武士について友人に教えてもらったわ。生涯を戦いに尽くした猛者たちを甘く見ないことね」

 見た目は狩人でも、それを動かしている中身はれっきとした敵
 私が言い切るまで主は冷静さを取り戻したのかゆっくりと口角を上げていく

「…魔法使いさんはヒドイナァ。ボクを殺そうだなんて?だけど、1つ勘違いしていることは、ボクを殺せると思ってることだよ」

「どういう、」

「ボクがどうやって坊に罠を避けさせたと思ってるの?ボクだよ、まだ魔法使いさんの中にはボクの分身がいる。そんな事も忘れるなんて馬鹿だね」

「っ…!」

 私が苦虫を噛んだような表情をすると主はより明るい表情を浮かべる
 そりゃ簡単に避けられるわけよ。作戦をわざわざ相手に行っていたようなものじゃない
 これじゃ、今から戦う動きも全て読まれて対策されるということ
 こんなの、どうすればいいの

「魔法使いさんは結局何も出来ない、このままボクの贄としてリナーシタの復活の手助けをしてくれよ」

「煩い!」

 まだまだ話そうとしていた主の言葉を遮って私は浮いている魂を2つとも飛ばす
 2つの魂は互いにくっついて、大きな火の玉となって進んでいく
 攻撃がバレるなら避けられない攻撃をすれば良いんだ
 これで主も怨念を食らったはず

「ちょっとちょっと、話の途中で攻撃なんて卑怯じゃないか。何したって無駄だっていうのに」

 確かに火の玉は主に命中した
 だけど、主は何食わぬ顔で無傷の体を私に見せつける
 主の力が強すぎて怨念が届かなかったとでも言うの?
 勝つ方法が完全に途絶えてしまった
 嘘でしょ、ここまで来て終わり?

「いや、まだボクが使ってあげるよ」

 主は当たり前のように私の思考を読んで言葉を返してくる
 どうにか、、もっと強い怨念をぶつけられれば主は殺せるのに
 私は無心で炎を主に当て続けた
 だけど、私の必死さを嘲るかのように主には傷1つ付いてくれない

「もう終わりかい?なら次はこっちの番だ」

 いくら攻撃しても効かない事き気づいた魂が諦めて私の元へ戻ってくると、まってましたと言わんばかりの顔で主が口を開く
 ここからのことは何があったのか全くわからない
 ただ、主が片手を挙げて横に倒した瞬間に、その方向から見えない刃―真空波のようなものが襲ってきた
 咄嗟の判断でガードすると真空波は無慈悲に皮を引き裂いて行く

「グッ…」

 幸い骨は切れなかったのか腕は動くけど、全く腕の耐性がなかったから痛みに苦しんでしまう
 この攻撃で心臓を狙われでもしたら間違いなく即死だというのは本能で分かる
 やっぱり駄目だ、終わりだ。勝てない
 だけどここまで来て負けたくない。なのに勝てない

勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない嫌だ勝てない嫌だ勝てない嫌だ嫌だ勝てないカテナイカテナイイヤダカテナイカテナイカテナイカテナイイヤダイヤダイヤダカテナイイヤダイヤダイヤダ

「わかったでしょ?早く威嚇を解いて楽になろうよ(笑)」

 絶望に悶えている私に主は笑いながら話し続ける

「そうだ、祭壇の部屋にあった形代に【賢】って書いてあったのなにか気になってたでしょ?冥土の土産に教えてあげるよ。実はあれもリナーシタ語なんだけど、成り立ちはね『目を潰された神の奴隷』。君たちは奴隷、所詮は神でボクの―」

「邪神は、果てろ!」

 どっちが狂乱が分からなくなるほど狂気に満ちた笑いが廊下に響いていた時、不意に叫び声が聞こえて主の喉から刀が生えてそのまま胸まで刀身が下がっていく
 刃こぼれ1つないきれいな鋼色に主と違う邪気をまとった武士の刀
 主は震えて首を後ろに回すと、そこには目を覚ました坊が立っていた

「人を嗤うんじゃねぇ、俺等は道具じゃねぇ…!お前が俺等を支配するなら、俺等は神を裁く!この世から往ね!」

 坊が言葉を放つたびに刀の刀身が強く光邪気も濃くなっていくのを私は肌で感じていた
 果てしない怒りのこもった怨念と坊の魂が共鳴して怨念の強さを倍増させていく

「やめろ!離せ!」

 主は両手を広げて、私にしたのと同じ攻撃で2連続で坊を切り裂いた

(ページの最後まで行って、そのまま次のページに続いている)


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 主は笑って、坊のお腹から血がドバドバと流れ出した
 普通なら気絶してもいいほどの痛みを感じているはずの坊はそれでも刀を離さずに力を込め続ける

「しぶといなぁしぶといしぶといしぶとい!!良いだろう!死ぬまで切ってやろう!」

「させるわけ無いでしょ!」

 もう一度手を動かそうとする主に体当たりして止める
 私の思考を読んでいる暇がなかったのか、主は避けずに食らってくれた

「ぐっ…やめ…!」

「診察室の日記、本当は他にも読んでるところがあったんだよ!暴走したお前について書いてあるページだ、知らねぇと思ったろ!」

 主の表情がどんどん険しくなっていく
 効いている証拠でしょう

「俺等を記憶を操って、罪のない異世界人を吊るし上げで悪者扱いか!お前はリナーシタ作って支配欲満たしたいだけじゃねえか!オスマントを穢すんじゃねぇ!」

 眩しすぎるほどの光が刀を包みこんで、一瞬全てが刀に吸われる
 その瞬間に浄化された光が刀の軌跡を辿るように廊下を照らして主の体が2つに分断した
 武士たちの魂と、坊の魂が一心同体となってついに主を越えたのだ

「っ燃えつきなさい!悪霊退散!」

 すかさず私は2つの魂の炎を両方に当てて、力が半減した主を燃やし尽くす


「坊…あ゙リ゙がドゥ゙…本当に…」

 事が終わって、気付いたら私は坊の肩に抱きついていた
 いつもと立場が逆で少し違和感があるけど、今はそんなこと気にする気にはなれない
 夢を見始めてからずっと第三者としか見れていなかったけど、この一夜で坊の印象は180°変わったと思う
 事情こそ知らないけど、坊が叫んでいたことを考えるとリナーシタは主が支配したいがためにオスマント人を洗脳して閉じ込めていたみたいな感じなのでしょう
 主から皆を開放した坊は、一生誇りとなるでしょう
 私はふと坊の顔を見上げると私は絶句した
 坊は刀を振り下ろした姿勢のまま、死んでいた
 おかしいと思っていたの、主を殺してから坊は一言も話していなかったのだから
 私は坊から手を離し、ゆっくりと後ろへ下がる
 私は気の所為かと思って何度も瞬きを繰り返したけど、坊は何一つ表情を変えずに虚ろな目で私を見続けていた
 嫌だ、嫌だ…そんな訳ないそんな訳ない

〝魔法使い、無事で良かった。こっちは、多分僕の知らない方…かな?〟

 何処かから微かに坊の声が聞こえて、私は無意識に上を向いた
 上にはヒビの入った天井があるだけ
 少し固まった後でようやく頭の中で響いておることに気がついて話しかける
 坊…?坊!どうしてそんな所に!!

〝もう、魔法使いったら意地悪だなぁ、わかってるくせに。僕はもう死んじゃったみたい。魂だけになったから少しだけ話にね…〟

 嘘よ、そんなこと言って、冗談なんでしょ?笑えないよそんなの早く戻ってきて
 まだ過去の私とも話してないし、別れの挨拶だって!
 それに、私たちは勝ったんだよ?なんで坊が

〝もう、無理みたい。主を殺すにはこうするしか無かったんだ。主を殺すには刀の怨念を強くしないとでしょ?怨念に干渉できのは同じかそれ以上の怨念を持つものだけ。だから…ね〟

 だから、魂を刀に捧げたってこと?
 まだ私たちは子供なのに…!もう生きられないんだよ!わかってたの!?
 …途中で諦めても良かった…!
 それに、他にも方法は…

〝無かったでしょ、その手〟

 私が静かになってようやく坊の声がまた響く
 坊の言う通り、坊があの時助けてくれなかったらきっと私たちは全滅していたに違いない
 だけど、

〝大丈夫、やる前からこうなるのは分かってたよ。君の友達の狩人君と話したから〟

狩人…


〝狩人君はもう現世に戻ってると思う。現世にはまだ主がいるんでしょ?〟



〝僕を導いてくれてありがとう、こっちの魔法使いにも、今までありがとうって言っておいて〟

 まっt

〝僕はそろそろ消えちゃうんだ、ここに魂が入れたのも主が閉じ込めてたのをちょっと利用しただけ、主は殺したからもう力は殆ど残ってない。リナーシタももう終わりだと思う、〟

 私は、結局誰も守れず、むしろ何度も守られてしまった
 ここで少しだけ何も聞こえない時間があった
 ほんの数秒
 だけど、私には果てしなく長く感じた
 出来ることなら今すぐでも過去に戻りたい、だけど、もう戻れない
 手遅れだ

〝じゃあね、魔法使い。狩人君を、助けてあげて〟

 これ以降はもう声も聞こえなかった
 夢の世界が崩壊する
 リナーシタが荒廃した理由は、こういうことだったのね
 結局、過去は変えられなかったんだ


 私は、寺院で目が覚めた
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