遺された日記【完】

静月 

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118〜120ページ目

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118ページ目∶
 ゾンビの部屋の床を少し掘ってみると、埋め込まれた魔法陣が日々のスキマから顔を覗かせた

「此処から先は、いつ死んでもおかしくない。覚悟を決めなきゃね」

 持続性の魔法陣なのか掘った床から光が耐えることなく溢れている
 私は光が反射して少しキラキラしている床を撫でながら自分に言い聞かせるように呟いた
 今からすることはただの夢じゃない、自らの魂をかけるリスクのおおきい賭けのようなもの
 少しでも時間を無駄にしたらどんどん死ぬ確率が倍増していくだけ
 魂が完全に魔法陣に吸収されたら、私はいなかったことにされて今私を覚えている人でさえ私の居た記憶だけがきれいに消えてしまうでしょうね
 軽い気持ちではこんな事はできない
 もうこれしか方法はない、文字通り死ぬ気で挑まないとね

 魔法陣の魔法を使うにはまず基準以上の魔力を持った人がその魔法陣に触れる必要がある
 条件を満たした人が触れると、魔法陣は淡い光を放ち必要な詠唱を頭に流してくれる
 今回の基準は必要魔力がギリギリだから、魔法を使って向こうに行っている間は魔法が使えないと思う
 私も過去に行けば一人の村人にになるのね
 同じ土俵で、出来ることを頑張ろう

「тамас ийтойикаx нноюуё」

 私が詠唱を唱えると、魔法陣の光が強まって床が溶かされていって徐々に形がなくなっていく
 魔法陣は余裕がないと暴発する可能性があるからここですら危険な賭けだけど、怖気づいてはいられない
 そして魔法陣の端から光の粒子が舞い上がったと思うと徐々にトゲの形になって私を全方面から串刺しにした
 痛みは感じないけど、とても窮屈な感じはした
 全身の力とともに魂が抜けていくような感覚を受け入れ、私は時を飛んだ

「床が治ってる…多分成功ね!」

 魔法を使って粉々になった床は前の姿に戻っていて、廊下に出るとしっかり道を塞いでいるベッドが1台置いてあった
 過去に行くことには無事に成功したようだった

「そうだ、なにか武器と…あの本も持っていっておこう」

 2人はきっと過去の私を閉じ込めていた部屋にいるはずだから、急いでなにか役に立ちそうなものを探して走り出す

 診察室で本を回収してカバンに入れる
 そして階段を上がって部屋まで走っていた時、何故か不規則な足音が奥の方から響いてきた

「あれは…過去の私?」

 足音の正体が角を曲がって姿が見えるようになると過去の私が走ってきた
 あの時思っていたのは何気に過去の私の顔家の鏡で見たのが最初で最後だったなとか、顔が少し私と違う気がするなぁとかだけだった気がする
 だけど少ししておかしい所に気がついた
 過去の私が走ってる?
 あの右足の痛みじゃ普通走ることなんてできないはずなのに
 また感覚ごと誰かに取り憑かれたんでしょうか

「っ!?私…じゃない未来の私じゃん!なんでここに、っていうか逃げて!」

 私が唖然としているのをよそに過去の私の表情は必死そのもの
 顔もひどく引きつっているから、多分痛みに耐えながら走っているんでしょうね
 取り憑かれているわけでは内容でとりあえずは安心
 それに、逃げてと言われても奥には何も見えない
 どうしたんだろう
ヒュッ
 急に奥からメスが飛んでくる
 取り憑かれていたのは坊の方だったみたい

「部屋に隠れて!」

 私はとっさに手元のドアノブを捻り過去の私の手を掴んで引き込む
 坊の姿はよく見えていなかったから私たちの居場所もギリギリバレていないはず 
色々聞き出さないと

◇◇ ◇◇

119ページ目∶
「本当に未来の私であってる?」

 扉の前を走る足音が通り過ぎたあと、ふと過去の私の顔がこちらを向く

「未来で色々あって、この世界に来れなくなったんだよね。だから魔法を使って少しだけ」

 本当なら魂を代償にしてるから途中で消滅するかもと言っておいたほうがいいのかもしれないけど、私にそんな余裕はなかったみたい
 この廃病院で色々ありすぎたせいでしょう 
 普通なら世迷い言ととられてもいいような言葉すらもすんなりと受け入れてくれる

「で、突然本題なんだけど、あの部屋で何かあったの?」

「…」

 途端に過去の私の顔が暗くなる
 自分救ってくれた人に殺されかけたんだから信じたくないのも無理はない
 だけど、ちゃんと完結させないとどのみち逃げることは出来ないようだったの
 それに、原因はなんとなく察しているし

「大丈夫、坊のことは絶対に裏がある。それに、ここまで救ってくれたのに恩を仇で返すなんて出来ると思ってる?」

 眼の前で震えている手をそっと持ち上げて笑ってみせる
 すると過去の私も少しだけ吹っ切れたのか、柔らかい顔を取り戻して重そうな口をゆっくりと開く

「実は…」

 過去の私が言うには、祭壇に触れてから様子がおかしくなったみたい
 過去の私は私がいなくなった後に坊と一緒に祭壇を開けてみたらしいの
 すると、中から出てきたのは小さな木彫りの人形だった
 頭のところには布が巻かれていて、顔の方には赤い文字で【賢】と書いてあったそう
 リナーシタ語で詳しくは知らないけど、過去の私が言うにはかしこいという意味らしい
 頭がいいという意味だから悪いものではないと思って持ち出してみたらしいのだけれど
 手に取ったみた瞬間坊が手荒くそれを奪い取って飲み込んでしまったの
 急なことで何が起きたのか全くわからなかったけど、坊がその人形を飲み込んだ瞬間から過去の私に襲いかかるようになったらしい

 主がいかにもな抵抗を見せてきたということね
 きっと今の坊に取り憑いているのは霊じゃない
 私と同じ未来の人間―狩人だ

「坊に取り憑いている本体を殺せば、私たちの勝ち、ね」

「そうみたい…だね、、勝てるかな」

 過去の私は不安そうに声を縮めて問いかける

「勝てるかな、じゃなくて。勝つ、でしょ」

「っ…! …うん、最後まであきらめない。体は2つ、向こうは1つ。こっちが有利」

「そう、しっかり勝つ気でいかないとね」

 そこから少しの間私たちは勝つ手段を見つけるために思考を巡らせた

◇◇ ◇◇

120ページ目∶
 まず真っ先に思いついたのは、坊と真っ向勝負する方法
 この方法なら2対1で体格的にも能力的にも負けることはなさそう
 そしてそのまま殺して人形ごと弔ってあげれば私達は生きて変えることが出来るでしょう
 だけど、この方法は言わなくても分かるように、

「大きな代償を払わないといけない、坊と、狩人と…」

「狩人、、」

 聞き覚えのない名前に少し過去の私は首を傾げる

「狩人は、記憶のある時からずっと一緒に過ごしてきた血の繋がっていない兄弟のような存在、刀がある分には霊は取り憑く事はできないはずだから、私のような方法で操作しているとしか考えられない、だからきっと、今入っているのは狩人なの」

 狩人は私にとってパーティの中でもいちばん大切な存在
 これを代償として支払うのはできるだけ避けたい

 次に、狩人の意識を取り戻させて精神世界から主を殺して貰う方法
 これは私が悪霊を払うときにした方法ね
 この方法なら、成功すればなんの代償もなしに全員がハッピーエンドでで終わることが出来る、かもしれない
 ただ、今狩人がどんな状態か全くわからない状況で狩人と接触する手段を見つけるのは無理に等しい
 これも一筋縄ではいけないでしょう

 そして最後、除霊式を行って実体化した主を殺す
 今のところはこれが1番理想的な方法
 だけど、自分から除霊式を行ってくれるわけもないから罠形式で坊をはめないといけない

「どう?これが私の思いつく主を殺す方ほ―」

「あ、まって。私いい考えがある」

 過去の私がそう言って顔を上げる
 過去の私の案というのは、祭壇の部屋の刀を回収して、それで坊を捕まえてそのまま怨念で主を押し出せばいいというもの
 刀自体は元ゾンビたちの魂だから意志が残っていたら形を変えることも可能なんじゃないかという仮説のもとでの案
 もしこれが出来るなら1番可能性が高そう
 勝機が見えたなら、進む以外に道はない

「しよう」

「分かった、じゃあ僕に見つからないように刀を取りにいかなくちゃね」

 さすが自分といった所でしょうか
 言わなくても以心伝心が正確にできるのは助かる
行こう
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