遺された日記【完】

静月 

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23〜27ページ目

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23ページ目∶
 狩人を助ける術はないのだろうか
 俺が狩人を気絶させてから1時間ほど、もしかしたらそれ以上が経過した
 一時的な気絶に収まるようにいつもと同じぐらいで衝撃を与えた
 だから本来なら数十分で目を覚ましているはず、なのにまだ起きる気配がないのは不自然だ
 昔の体より圧倒的に筋肉質だからもしかすると調整をミスった可能性もある
 だが、この日記を遡ったら狩人のみに何が起こったのかある程度予測することが出来る
 この旅で1番悲惨なことが起きているのもきっと狩人だ、それによる精神疲労で目覚めが遅くなっているという可能性も十分にありえるのだ
 せっかく戻れたのにすぐに人殺しのレッテルなんて貼られたらたまったものじゃない
 こんな弱々しい体つきしててもこの洞窟でここまで生き抜いてきた一人の戦士だ、そう簡単には死なないと信じている
 だが、もし本当に狩人が死んでしまっていたら、狩人はどこかの部屋の隅にでも埋めて魔物のせいにでもしておくか
 こうして日記を書いている間にも狩人が起きないか待っているが、全く起きる気配がないどころか表情が険しくなったりとても苦しそうな顔をしている
 今のところは死んでないようだが、今すぐ起きるということもないだろう
 少しこのあたりを探索して何か脱出する術の在り処を探って待っていよう

◇◇ ◇◇

24ページ目∶(とても文字が震えている、このページから先は常人が書いたものとは思えないほどの狂気が感じられる、)
 前の日記から更に数時間が経ったが、狩人は未だ目を覚まさない
 もしかしたらもう起きないのかもしれない、ほんとにオレが殺してしまったのか?
 さっきからずっと手足の震えが止まらない、人を殺した実感というのは、こんなにも恐ろしいものだったのだろうか
 昔オレが住んでいたところでは急に人が消えることは当たり前だった、だからオレも人を傷つけ1日を這いつくばりながら生きていた
 だが、人を殺したことはなかった、自分では殺す必要がないからとか思ってたが、本当は殺したという事実に苛まれるのが恐ろしかったのだろう
 この手の震えについてこの体は、狩人をこんなことにした元凶と守れなかった自分に対するいらだちが俺の正気を狂わせてると言っている
 本当なら今からこの首をこの剣でじわじわと斬り裂いてやりたい
 体から燃え上がるこの感情は凄まじいものだ、魔物が悪くてしょうがなくなってきている
 魔物とともに自分も死ぬ気だろう
 しかし、俺が死ぬと残された僧侶や魔法使いはどうなるのか
 俺は自分さえ生き残れればそれでいい、だが何故かそう考えると頭が痛くなる
 怠ける心よりも強い苦を選ぶ意志がこの体に染み付いているのだろう
 しかたない、俺はまだ死ねない、この旅を終わらせ、今生き残ってるであろう二人だけでも家族の元へ戻さなくてはいけないのだ
 いや、本当にそうだろうか
 やっぱり、自分が生きてれば他人なんていらないんじゃないか?
 他人の痛みなんてわからない、痛みを考えてたら自分が傷められる
 それに、誰が助けてほしいなんて言った?
 誰が、 誰が 誰が誰が誰が
 オレはなんなんだ、なんでこんなことをしてるんだ?
 いつからリーダーになったんだ?どうして此処にいるんだ?
 オレはなんだ オレはなんだ オレはなんだ オレはなんだ オレはなんだ オレはなんだ オレはなんだ オレは
 全部ダンジョンが悪いんだ、俺等がこんな事になったのも、皆とばらばらになったのも、全部全部全部ダンジョンが悪いんだ俺は悪くない
 そうだ、狩人を狂わしたあの魔物だ、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス
 命を持って償わせるんだ


27ページ目∶(前のページが破られていて記録を見ることができない)
 戦士が死んだ
 私が殺した
 こうするしかなかった
 私に彼は救えなかった
 私が弱いせいで、戦士が死んだ
 戦士を殺した私に、戦士の最期を語る権利はない
 私がもっと早く戦士と会っていたなら変わったことがあったかもしれない
 そう思うと胃に穴が空くように痛みを感じる
 僧侶が書き始めたこの日記
 私達を記してるこの日記が憎い
 今からでも燃やし尽くして、記録を消し去りたい
 でも、これは戦士の最後の願い
 二度と私達みたいな人が出ないようにするための戒め
 精神が壊れた戦士がそれでも続けようとした、最後の決死の決意
 私は命を奪った償いに
 愛した戦士にしてあげられる最後の贈物としてこの日記を完遂させる
 もし、今この日記を消してしまえば、この旅はなかったことになるでしょうか
 答えは否
 わかってる
 この日記をなくしたところで、時間が戻るわけでもない
 だけど憎い
 持ち主の行動心理が全て書かれたこの日記
 私達のひび割れを見せつけるこの日記
 この日記を書いてると周りのことが全く頭に入らない、考えたことが無意識にさらけ出されてる
僧侶が雑貨屋で買ったただの日記、何の呪いもかかってない、どこにでもある日記
 なのに
 日記を書いてる人から狂っていく
 わたしは
 本当に正気でいられるでしょうか
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