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失敗の代償2

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「何だ今のは、安藤が、何をした。」
岸も分かってはいた。演習場でクライドルが見せたものだ。しかし確認しなければならない。しかも、何故安藤が。

「魔法…です。」
「クライドル、どういうことだ、安藤は日本人だぞ。」
クライドルは歯噛みした。日本人の記憶を鵜呑みにしすぎた。
数万人の同胞を殺した勇者たちに、政府内の幹部の中にあんな同調者が出ることまでは想定外だった。
「これは、私も想定外だった。しかし、考慮には入れるべきだった。私たちが元の世界と同じ魔法を制限なく行使できるということは、人間も使える可能性があったのだ。
しかし、元の世界でも攻撃魔法を使える人族というものは多くはないのだ、しかもかなりの鍛錬がいる。
あれはもし、元の世界に生まれていたのならば、本当に勇者達の仲間でもおかしくない力の持ち主だ。」
まずいことになった。安藤という人間の力が分からない。本当に二人がかりでも勝敗が見えなくなってきた。
「それがたまたま安藤だったのか。」
「分かりません。才能があったからこそ引かれた可能性はありますが…」

「報告。安藤を含む勇者5人は飛行しながら日本海側に移動している様です。」

「やはり、中国か。外事課からの報告は」
「それが、中国の動きは全くないとの事です。海自、海保からも、中国籍の船舶などもないとの報告で」
「ならなぜ、日本海側に移動を…」
「報告。対象をロスト、確認できません。」
何なのだ、何が起きている。中国ではないのか、旅行と言っていた。
安藤も連れている。おそらく国内ではないだろう。

「岸、私たちはどうしたらいいだろうか。」
「今のところ勇者達がどこに行ったかもわからん。日本海側を進行中だろうという事だけだ。もし、その時がきたら、すまないが頼む。」
「ああ、もちろんだ。私たちの責任でもあるのだ。」
クライドルは力なく答えた。


翌朝の官邸への報告と、テレビのニュースは悪夢そのものだった。
外務事務次官の失踪。
そして、テレビニュース。
ー大いなる力を持つ者達が、我らが偉大な指導者と同盟関係を結びましたー
字幕が流れる。
北朝鮮第一書記と握手を交わす勇者。傍には安藤の姿もあった。
最悪だ。中国ばかりに目を向けていた。外務次官も国内にはもういないだろう。
岸は頭を抱えた。
これでアジアの安全保障の均衡が一気に崩れる。
今だに兵器としての核を所持できていない北朝鮮と、核兵器並の破壊魔法を使える勇者達。
組み合わせとしては最悪としか言いようがない。
これからの日朝間、いや、世界のパワーバランスを根底から覆すものだ。

「緊急です。地震観測計の反応です。北朝鮮の地下核兵器実験場からのものです。
核兵器使用時と波形が違いますが、速報値だと30キロトン。繰返します30キロトン。また米国による衛星映像には前日までに実験準備をしていた形跡はないとの事です。」
クソ、また机を叩きつける岸。一体何度目だろうか。
「とんでもないパフォーマンスだ。」
岸は吐き捨てるように言った。恐らく今までの話ならミリスかディルかどちらかであろう。
30キロトン。それは、核兵器のようなではなく、まさに核兵器の威力である。
しかも良くも悪くも放射線の出ない。
世界中の新聞の一面は勇者達の話題になるだろう。

場所が場所だけに簡単に手も出せない。
事態は悪化する一方だった。

「総理、クライドル様からお電話です。」
今朝のニュースを見たクライドルからの電話だった。
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