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朝霧編①

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一年越しに会えた刹那は以前より身長が伸びて
体格も大人と然程変わらないように感じた。
ああ、あの頃の迷子の子どもとは違うのだな。と感じつつも時の流れの速さに刹那にはわからないように苦笑いしてしまう。

「会いたかった」

その言葉をほぼ同時に溢した時は顔見合わせて
無言で抱きついた。刹那よりも永く生きているが独りが長いとどうしても心細さは消えてくれないのだ。毎年会いに来てくれるのは嬉しいが、夏だけ。ワガママなのは分かっているが刹那は刹那の生活があり、待っている人もいるのだから自分だけの人ではない。何度この気持ちを押し殺しているのだろうか。

「私も会いたかったぞ。
遅くに呼び出してしまってすまない。」

「ううん。本当ならすぐに逢いに来ればよかったのにすぐに来なくてごめんね。今年はいつもより早く夏休みに入ったから祭りが終わる頃にあっちに帰る予定なんだ。」

あっち。というのは本拠地としている都心での生活のことだろう。私は神である前にひとりの女だから、ということを刹那は思春期を迎える際に悟ったらしい。「友達よりも大切な存在だから自分の特別な人になってほしい。なってください。」と顔を赤らめながら言われたときは
こっちまで熱が移ったかのように熱くなったのを今でも覚えている。そして、刹那の言った祭りとは灯籠祭りだ。8月の中旬に行われる地元ではかなり規模の大きい昔からの祭りだ。

「そうかぁ。祭りが終わるまでは一緒に居られるのだな。」

私の言葉に刹那は社から少し離れてた木のブランコに腰掛けていたが私の座っている賽銭箱付近に来てくれた。

「早く来れたけど、その分帰るのが早くなってしまうから…ごめんね?」

「ふふっ。刹那が謝るのはおかしかろう?
それが学生というものなのだから。寧ろ、あっちの友達とは遊ばなくてもよいのか?」

私の質問は至極当然のことだと思う。
刹那は毎年、気にしなくていいよ。家族みんなで帰省しているから、みんな会いたい人に会いに来ているだけだよ。と返してくれていたが少し表情が曇ったのを私は見逃さなかった。

「刹那?」

声が低くなってしまったが仕方あるまい。
この場合は隠し事をしようとした刹那が悪い。

「えーっと、高3だから多少なりとも勉強というか進学するならそれなりに頑張らないとダメなんだけど…」

後半は蚊の鳴くような小さな声で言う刹那に
はっ。とした。そうだった。学生なのは理解していたが高校生なのだ。中学生とは違うのだった。遊ぶというよりは進む道によっては大なり小なり準備が必要なのだった。なんとも言えない気まずい空気感が流れた。「刹那!」
沈黙を先に破ったのは私の方からだった。

「いいのじゃ。今日来てくれた。
会える期間は長いのだから必要に応じて
勉強の合間でも構わん。私にも配慮が足りておらんかったのじゃ。すまん。」

「そんなことはない!
俺もいつも通りに。
特にあっちのことについては
伝えていなかったからごめん。」

鴉が一声鳴き風が靡いた。
2人の間に優しい風が流れたのを合図に私は社から出口への道を繋ぎ「刹那、会いに来てくれてありがとう」そのまま刹那の方向を自分から
出口へと回れ右させて刹那の返事を待たずに、
還した。「朝霧?」道の奥で刹那の声が聞こえたが私は返さなかった。否、返せなかった。
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