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最終戦 九条さんVSバイオハザード
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あれから2年が経ち、九条あかりは都内でも有名な名門都立高校へと進学していた。
高校2年生に進級したあかりは優等生であることと持ち前のリーダーシップから生徒会長に任命され、高校をより良くするための生徒会活動に励んでいた。
「大変なことになりましたね。わが校の責任にはならないと言っても、世間に知られれば大ごとになりますよ」
「全くもってその通りです……」
ある日の放課後、生徒会活動を終えて校舎を後にしようとしていたあかりは理科室で校長と見知らぬ白衣姿の男性が話しているのを見かけた。
「校長先生、何かあったんですか?」
「ああ、九条さん。君は口が堅いと思うから話すけど、実は大学の出張講義でねずみが逃げてしまってね。大問題になってるんだ」
「そうなんです。もちろん、ただのマウスなら問題ないんですけど……」
白衣姿の男性は都内で人気の高い私立の理系大学から高校1年生対象の出張講義のため訪れた大学教員で、今回起こった問題の深刻さについて説明した。
男性はマウスを用いた行動科学の研究を専門にしており、今回は研究室で飼育されている普通のマウスを持ってきたはずが、誤って遺伝子改変を施された他の研究室のマウスを持ち出してしまったのだった。
「日本にはカルタヘナ法という国際条約に基づいた法律がありまして、遺伝子組み換え動物が自然界に逃げ出すとそれはもう大変な事件になるんです。大学に連絡したところ私が逃がしてしまったマウスは自然界で繁殖しても大きな問題にはならないそうなのですが、どのみち私は厳しい罰を受けることになるでしょう……」
がっくりと落ち込んで話した研究者に、あかりは目を輝かせて口を開いた。
「そんな、落ち込むことありませんよ。人類も動物たちも地球の歴史の中で進化してきたんですから、先生は遺伝子の多様性、ひいては生物多様性の発展に貢献した素晴らしいお方です!」
「九条さん、ここは冗談を言う場面でもないよ。まあ面白い意見ではあるけどね」
ハハハと笑って言った校長に、あかりは何かをひらめいた。
「多様性……多様性……そうだ、この高校にももっと多様性があるべきです! そうと分かればこうしてはいられません、明日から新たな生徒会活動の始まりです!!」
あかりは一息にそう言うと理科室を飛び出していき、一人で勝手に盛り上がって走り去っていった生徒会長の姿に校長も大学教員も呆気に取られていた。
その1年後、あかりのいる都立高校には新年度を迎えて新たな校長が着任していた。
「それでは皆さん、今から校歌を斉唱しましょう。私と同様に皆さんも校歌を歌うのは初めてでしょうが、合唱部の先輩方の真似をして歌ってみてください。よろしくお願いします」
入学式で校歌斉唱について説明した校長に、新入生の男子生徒が手を挙げて質問を始めた。
「校長せんせー、この漢字なんて読むんですかぁ? てか、読めない漢字ばっかで歌いようがないんすけど」
「はいっ?」
「てかさー、校歌斉唱とか高校まで来てアホらしくね? とっとと部活見学させてよー」
「僕もそのような儀式に時間を取られたくはありませんね。塾に行きたいので先に失礼させて頂きたいです」
新入生が集まった体育館にはヤンキー座りをしている男子生徒や肌を褐色に日焼けさせて髪を金髪に染めている女子生徒の姿があり、このような生徒は昨年度までこの高校には一人もいなかった。
普通の生徒の姿も多いが度の強い眼鏡をかけて入学式中に単語帳を開いている男子生徒や床に布団を敷いて寝ている女子生徒など他にもおかしな生徒が数多くみられ、校長はここは進学校のはずではなかったのかと驚愕した。
「皆さん、校歌を歌うかどうかは個々人の裁量に委ねられていますから、歌いたくない人は退場してくださって構いません。どうぞ、ゲームセンターでも学習塾でも好きな所に行ってください」
体育館のステージ横から現れたあかりはマイクを勝手に取ると新入生にそう伝え、新入生たちは歓声を上げて体育館からぞろぞろと出ていった。
「生徒会長、これは一体どういうことなんです。この高校は真面目な生徒が集まる進学校だと聞いていたのですが……」
「ああ、校長先生はご存じなかったんですね。生物多様性の観点から、この高校では今年から入学時の成績が均等にばらけるように合格者を出すようにしたんです。一般入試の受験生だけだと偏差値が高い生徒に偏るので、荒れている中学校からも学校推薦型選抜で入学者を集めました。その結果、偏差値30から70まで様々な生徒が集まり、この高校で成績多様性が実現されたんです! なんて素晴らしいことでしょう!!」
「そ、そんな……」
恍惚として語ったあかりに、新人校長は今後の生徒指導はどうなってしまうのかと絶望的な気分になった。
(完)
高校2年生に進級したあかりは優等生であることと持ち前のリーダーシップから生徒会長に任命され、高校をより良くするための生徒会活動に励んでいた。
「大変なことになりましたね。わが校の責任にはならないと言っても、世間に知られれば大ごとになりますよ」
「全くもってその通りです……」
ある日の放課後、生徒会活動を終えて校舎を後にしようとしていたあかりは理科室で校長と見知らぬ白衣姿の男性が話しているのを見かけた。
「校長先生、何かあったんですか?」
「ああ、九条さん。君は口が堅いと思うから話すけど、実は大学の出張講義でねずみが逃げてしまってね。大問題になってるんだ」
「そうなんです。もちろん、ただのマウスなら問題ないんですけど……」
白衣姿の男性は都内で人気の高い私立の理系大学から高校1年生対象の出張講義のため訪れた大学教員で、今回起こった問題の深刻さについて説明した。
男性はマウスを用いた行動科学の研究を専門にしており、今回は研究室で飼育されている普通のマウスを持ってきたはずが、誤って遺伝子改変を施された他の研究室のマウスを持ち出してしまったのだった。
「日本にはカルタヘナ法という国際条約に基づいた法律がありまして、遺伝子組み換え動物が自然界に逃げ出すとそれはもう大変な事件になるんです。大学に連絡したところ私が逃がしてしまったマウスは自然界で繁殖しても大きな問題にはならないそうなのですが、どのみち私は厳しい罰を受けることになるでしょう……」
がっくりと落ち込んで話した研究者に、あかりは目を輝かせて口を開いた。
「そんな、落ち込むことありませんよ。人類も動物たちも地球の歴史の中で進化してきたんですから、先生は遺伝子の多様性、ひいては生物多様性の発展に貢献した素晴らしいお方です!」
「九条さん、ここは冗談を言う場面でもないよ。まあ面白い意見ではあるけどね」
ハハハと笑って言った校長に、あかりは何かをひらめいた。
「多様性……多様性……そうだ、この高校にももっと多様性があるべきです! そうと分かればこうしてはいられません、明日から新たな生徒会活動の始まりです!!」
あかりは一息にそう言うと理科室を飛び出していき、一人で勝手に盛り上がって走り去っていった生徒会長の姿に校長も大学教員も呆気に取られていた。
その1年後、あかりのいる都立高校には新年度を迎えて新たな校長が着任していた。
「それでは皆さん、今から校歌を斉唱しましょう。私と同様に皆さんも校歌を歌うのは初めてでしょうが、合唱部の先輩方の真似をして歌ってみてください。よろしくお願いします」
入学式で校歌斉唱について説明した校長に、新入生の男子生徒が手を挙げて質問を始めた。
「校長せんせー、この漢字なんて読むんですかぁ? てか、読めない漢字ばっかで歌いようがないんすけど」
「はいっ?」
「てかさー、校歌斉唱とか高校まで来てアホらしくね? とっとと部活見学させてよー」
「僕もそのような儀式に時間を取られたくはありませんね。塾に行きたいので先に失礼させて頂きたいです」
新入生が集まった体育館にはヤンキー座りをしている男子生徒や肌を褐色に日焼けさせて髪を金髪に染めている女子生徒の姿があり、このような生徒は昨年度までこの高校には一人もいなかった。
普通の生徒の姿も多いが度の強い眼鏡をかけて入学式中に単語帳を開いている男子生徒や床に布団を敷いて寝ている女子生徒など他にもおかしな生徒が数多くみられ、校長はここは進学校のはずではなかったのかと驚愕した。
「皆さん、校歌を歌うかどうかは個々人の裁量に委ねられていますから、歌いたくない人は退場してくださって構いません。どうぞ、ゲームセンターでも学習塾でも好きな所に行ってください」
体育館のステージ横から現れたあかりはマイクを勝手に取ると新入生にそう伝え、新入生たちは歓声を上げて体育館からぞろぞろと出ていった。
「生徒会長、これは一体どういうことなんです。この高校は真面目な生徒が集まる進学校だと聞いていたのですが……」
「ああ、校長先生はご存じなかったんですね。生物多様性の観点から、この高校では今年から入学時の成績が均等にばらけるように合格者を出すようにしたんです。一般入試の受験生だけだと偏差値が高い生徒に偏るので、荒れている中学校からも学校推薦型選抜で入学者を集めました。その結果、偏差値30から70まで様々な生徒が集まり、この高校で成績多様性が実現されたんです! なんて素晴らしいことでしょう!!」
「そ、そんな……」
恍惚として語ったあかりに、新人校長は今後の生徒指導はどうなってしまうのかと絶望的な気分になった。
(完)
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