3 / 4
第3戦 九条さんVS地球市民
しおりを挟む
東京都足立区の山の手にある区立桜月中学校。九条あかりは3年C組唯一の学級委員である。
桜月中学校では各クラスの学級委員が交代で校長と給食を食べることになっており、あかりはその日、3年D組の学級委員と一緒に校長室を訪れていた。
「あなたがこの学校の校長ですね。今の時代に日の丸を掲揚するとは、この中学校のコンプライアンスはどうなっているのですか!?」
「そんなことを言われましても、国旗掲揚は公立学校の責務でして……」
「校長先生、この人たちは?」
給食を前に複数名の大人の男女から糾弾されていた校長に、あかりは不思議に思いながら来客のプロフィールを尋ねた。
「私たちはグローバリズム推進協会の地区委員です。公のための学校で特定の国家の旗を掲揚するのは問題と考え、今日は抗議に参りました」
「そんな、今時地球市民みたいなことを仰られましても。そろそろ昼食の時間ですし、一旦お引き取り頂けませんか?」
厄介な市民団体を適当にあしらおうとしていた校長に、あかりは何かをひらめいた様子で口を開いた。
「校長先生、この世界に地球市民なんているはずがありません。この人たちが言うように、国家間の平和のためにはそれぞれの国にルーツを持つ人に配慮するのは当然ですよ」
「ええっ?」
「そうと決まれば、今日からこの学校は改革される必要があります。皆さん、この給食は何の料理だと思いますか?」
「もちろん、カレーですよね」
あかりは市民団体の女性に給食を見せて尋ね、女性は当たり前のようにそう答えた。
「正確には今日の給食はインドカレーです。これはダイバーシティの観点から問題ですから、次回からは全てレトルトカレーに変更して貰います。フランスパンは食パンにして、校長先生がいつも飲んでいるアメリカンコーヒーはインスタントコーヒーに変えましょう。その方が安上がりですし」
「そ、そんな……」
あかりはそう言うといつもの調子で給食室へとダッシュし、校長は容赦ない宣告に青ざめた。
その1週間後、英語教師の尾田は校長室に呼び出されていた。
「校長先生、どうかなさいましたか」
「尾田君。いきなりで悪いが、君にはこの中学校を辞めて貰うことになった」
「はいっ!?」
驚愕した尾田に、校長は沈痛な表情でその理由を説明し始めた。
「ダイバーシティ尊重のために特定の国家をイメージさせるものは学校から排除されることになって、来月からはこの中学校の公用語はエスペラント語になる。君もクビが嫌ならエスペラント語教員という道は残されているが」
「こんな学校こっちから辞めてやるー!!」
尾田はそう叫ぶと泣きながら逃げ出し、校長は一体誰のせいでこのような事態になったのかを今更ながらに疑問に感じた。
(続く)
桜月中学校では各クラスの学級委員が交代で校長と給食を食べることになっており、あかりはその日、3年D組の学級委員と一緒に校長室を訪れていた。
「あなたがこの学校の校長ですね。今の時代に日の丸を掲揚するとは、この中学校のコンプライアンスはどうなっているのですか!?」
「そんなことを言われましても、国旗掲揚は公立学校の責務でして……」
「校長先生、この人たちは?」
給食を前に複数名の大人の男女から糾弾されていた校長に、あかりは不思議に思いながら来客のプロフィールを尋ねた。
「私たちはグローバリズム推進協会の地区委員です。公のための学校で特定の国家の旗を掲揚するのは問題と考え、今日は抗議に参りました」
「そんな、今時地球市民みたいなことを仰られましても。そろそろ昼食の時間ですし、一旦お引き取り頂けませんか?」
厄介な市民団体を適当にあしらおうとしていた校長に、あかりは何かをひらめいた様子で口を開いた。
「校長先生、この世界に地球市民なんているはずがありません。この人たちが言うように、国家間の平和のためにはそれぞれの国にルーツを持つ人に配慮するのは当然ですよ」
「ええっ?」
「そうと決まれば、今日からこの学校は改革される必要があります。皆さん、この給食は何の料理だと思いますか?」
「もちろん、カレーですよね」
あかりは市民団体の女性に給食を見せて尋ね、女性は当たり前のようにそう答えた。
「正確には今日の給食はインドカレーです。これはダイバーシティの観点から問題ですから、次回からは全てレトルトカレーに変更して貰います。フランスパンは食パンにして、校長先生がいつも飲んでいるアメリカンコーヒーはインスタントコーヒーに変えましょう。その方が安上がりですし」
「そ、そんな……」
あかりはそう言うといつもの調子で給食室へとダッシュし、校長は容赦ない宣告に青ざめた。
その1週間後、英語教師の尾田は校長室に呼び出されていた。
「校長先生、どうかなさいましたか」
「尾田君。いきなりで悪いが、君にはこの中学校を辞めて貰うことになった」
「はいっ!?」
驚愕した尾田に、校長は沈痛な表情でその理由を説明し始めた。
「ダイバーシティ尊重のために特定の国家をイメージさせるものは学校から排除されることになって、来月からはこの中学校の公用語はエスペラント語になる。君もクビが嫌ならエスペラント語教員という道は残されているが」
「こんな学校こっちから辞めてやるー!!」
尾田はそう叫ぶと泣きながら逃げ出し、校長は一体誰のせいでこのような事態になったのかを今更ながらに疑問に感じた。
(続く)
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
紺坂紫乃短編集-short storys-
紺坂紫乃
大衆娯楽
2014年から2018年のSS、短編作品を纏めました。
「東京狂乱JOKERS」や「BROTHERFOOD」など、完結済み長編の登場人物が初出した作品及び未公開作品も収録。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
濁渦 -ダクカ-
北丘 淳士
大衆娯楽
政治的正しさ、差別のない社会を形成したステラトリス。
そこに生まれた一人の少女フーリエ。
小さい頃に読んだ本から本当の多様性を模索する彼女の青春時代は社会の影響を受け、どこに舵を切っていくのか。
歪みつつある現代と世の中のクリエーターへ送る抒情詩。
Serendipty~セレンディピティ~リストラから始まったハーレム生活
のらしろ
大衆娯楽
リストラ後に偶然から幸運を引き当ててハーレムを築いていくお話です。
主人公の本郷秀長はある装置メーカーの保守を担当する部署に務めておりましたが昨今の不景気のより希望退職という名のリストラをされました。
今まで職場で一生懸命に頑張ってきていたと自負していたけど他の職場メンバーからは浮いていたようで、職場の総意という伝家の宝刀を抜かれて退職する羽目になりました。
しかし、今まで一生けん目に働いていたことは事実で、そんな彼を評価していた人も少なからずおり、その一人にライバルメーカーの保守部門の課長から誘われて、ライバルメーカー転職したところから物語は始まります。
転職直後に、課長ともども配置転換を命じられて高級クルーザーの販売部署に回されて初の海外出張で産油国の王子と出会い、物語はどんどん普通でない方向に進んでいきます。
その過程で多くの女性と出会い、ハーレムを築いていくお話です。
吉田定理の短い小説集(3000文字以内)
赤崎火凛(吉田定理)
大衆娯楽
短い小説(ショートショート)は、ここにまとめることにしました。
1分~5分くらいで読めるもの。
本文の下に補足(お題について等)が書いてあります。
*他サイトでも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる