4 / 49
第1章 異世界予備校
4 転生者事務局
しおりを挟む
目覚めたユキナガの身体は冷たい石の台の上に横たわっていた。
周囲には石の台を取り囲むように仏具を連想させる自立式の金属器が4つ置かれており、狭い部屋の中には扉が一つしかなかった。
上半身だけ起き上がって自分の身体を見ると衣服は着ているがスーツではなくみすぼらしい布の服の上下で、肌の様子や身体の軽さから肉体は20代前半に若返っているのだろうと思われた。
奇妙なことに自分が別の世界からこの世界に転生したということとユキナガという名前、この世界でも教育者として生きたいという意志を除いては転生するまでの記憶の大半が消え去っており、自分自身が前世でどんな世界に生きていたのか、どのような理由で死亡し転生に至ったのかも思い出せなかった。
石の台に腰かけたまま扉の方を見ると扉には貼り紙がされていて、そこには何やら見慣れない記号が並んでいた。
台から立ち上がって扉まで近づくとそこに書かれている記号をはっきりと見ることができ、そこには、
>転生者の方へ この世界にようこそ! 迎えの者が参りますので、この部屋から出ずにじっとしておいてください。
という意味のことが書かれていた。
転生したばかりだからかその記号がどの国の何という言語なのかは分からなかったが、自らがこの記号で表される言語の読み書きと会話を行えるということは直感的に理解できた。
貼り紙の指示に従い再び石の台に腰かけてしばらく待っていると、外側から扉がノックされる音がした。
「失礼します」
若い男性の声がして扉が開き、そこには軽装の鎧をまとった長身の男性が立っていた。
男性は短剣を腰に携えているが、明るい笑顔を浮かべていることから自分に警戒している訳ではないようだとユキナガは理解した。
「はじめまして、この世界に転生致しましたユキナガと申します」
「ご気分もよろしいようで何よりです。私は転生者事務局の次官、ミッターと申します。この度はご転生おめでとうございます」
ミッターと名乗った男性は役人すなわち公務員と思われる人物で、ユキナガはこの世界には転生者を出迎える事務局があるらしいと察した。
ミッターに促され、ユキナガは石の台から立ち上がると開かれた扉から外に出てそのまま更衣室に通された。
更衣室にはしっかりした作りの衣服と革の靴、肩から掛けるカバンが用意されていて、それらを身に着けるとユキナガはようやく外に出ても問題のない服装になった。
「立派なお姿になられましたね。そちらの布の服はこちらで預かりますのでその棚に置いておいてください」
「分かりました。この衣服や道具は転生者全員に支給されるのですか?」
「いえ、その持ち物はユキナガさんを迎え入れる団体が用意されたものですよ。事前の準備が間に合わなかった転生者にはこちらで最低限の装備を支給致しますけどね」
ミッターの話から、自分はこれからあてもなく異世界をさまようのではなくどこかの団体に転生者として迎え入れられるということが分かった。
ミッターに追従して外に出ると、ユキナガが目覚めた場所は事務局の本体とは別の建物であるようだった。
一旦路地に出てから再び大きな建物に入ると、ユキナガはミッターの指示で広々とした集会所に通された。
そこには大きく距離を空けていくつものテーブルが置かれており、この世界に現れたばかりの転生者たちと彼らを迎え入れる団体の代表者らしき人々が会話をしていた。
ユキナガは窓際のテーブルで待機するよう指示され、椅子を引いて腰かけるとミッターは礼をして去っていった。
大きな窓からは建物の外の様子を窺うことができ、野ざらしの地面をくたびれた衣服の人々が歩いていく様子を見てユキナガはこの世界の文明のレベルはそれほど高度ではないようだと察した。
転生者事務局のあるこの地域が田舎であるという可能性もあるが、自分が前世で生きていた世界とは文明のレベルが大きく離れているのではないかと思われた。
「ユキナガさん、こちらがこの世界であなたを迎え入れる団体の代表者様です」
自分がこれから世話になる人物を連れて来たらしいミッターの声を聞き、ユキナガは椅子から立ち上がった。
周囲には石の台を取り囲むように仏具を連想させる自立式の金属器が4つ置かれており、狭い部屋の中には扉が一つしかなかった。
上半身だけ起き上がって自分の身体を見ると衣服は着ているがスーツではなくみすぼらしい布の服の上下で、肌の様子や身体の軽さから肉体は20代前半に若返っているのだろうと思われた。
奇妙なことに自分が別の世界からこの世界に転生したということとユキナガという名前、この世界でも教育者として生きたいという意志を除いては転生するまでの記憶の大半が消え去っており、自分自身が前世でどんな世界に生きていたのか、どのような理由で死亡し転生に至ったのかも思い出せなかった。
石の台に腰かけたまま扉の方を見ると扉には貼り紙がされていて、そこには何やら見慣れない記号が並んでいた。
台から立ち上がって扉まで近づくとそこに書かれている記号をはっきりと見ることができ、そこには、
>転生者の方へ この世界にようこそ! 迎えの者が参りますので、この部屋から出ずにじっとしておいてください。
という意味のことが書かれていた。
転生したばかりだからかその記号がどの国の何という言語なのかは分からなかったが、自らがこの記号で表される言語の読み書きと会話を行えるということは直感的に理解できた。
貼り紙の指示に従い再び石の台に腰かけてしばらく待っていると、外側から扉がノックされる音がした。
「失礼します」
若い男性の声がして扉が開き、そこには軽装の鎧をまとった長身の男性が立っていた。
男性は短剣を腰に携えているが、明るい笑顔を浮かべていることから自分に警戒している訳ではないようだとユキナガは理解した。
「はじめまして、この世界に転生致しましたユキナガと申します」
「ご気分もよろしいようで何よりです。私は転生者事務局の次官、ミッターと申します。この度はご転生おめでとうございます」
ミッターと名乗った男性は役人すなわち公務員と思われる人物で、ユキナガはこの世界には転生者を出迎える事務局があるらしいと察した。
ミッターに促され、ユキナガは石の台から立ち上がると開かれた扉から外に出てそのまま更衣室に通された。
更衣室にはしっかりした作りの衣服と革の靴、肩から掛けるカバンが用意されていて、それらを身に着けるとユキナガはようやく外に出ても問題のない服装になった。
「立派なお姿になられましたね。そちらの布の服はこちらで預かりますのでその棚に置いておいてください」
「分かりました。この衣服や道具は転生者全員に支給されるのですか?」
「いえ、その持ち物はユキナガさんを迎え入れる団体が用意されたものですよ。事前の準備が間に合わなかった転生者にはこちらで最低限の装備を支給致しますけどね」
ミッターの話から、自分はこれからあてもなく異世界をさまようのではなくどこかの団体に転生者として迎え入れられるということが分かった。
ミッターに追従して外に出ると、ユキナガが目覚めた場所は事務局の本体とは別の建物であるようだった。
一旦路地に出てから再び大きな建物に入ると、ユキナガはミッターの指示で広々とした集会所に通された。
そこには大きく距離を空けていくつものテーブルが置かれており、この世界に現れたばかりの転生者たちと彼らを迎え入れる団体の代表者らしき人々が会話をしていた。
ユキナガは窓際のテーブルで待機するよう指示され、椅子を引いて腰かけるとミッターは礼をして去っていった。
大きな窓からは建物の外の様子を窺うことができ、野ざらしの地面をくたびれた衣服の人々が歩いていく様子を見てユキナガはこの世界の文明のレベルはそれほど高度ではないようだと察した。
転生者事務局のあるこの地域が田舎であるという可能性もあるが、自分が前世で生きていた世界とは文明のレベルが大きく離れているのではないかと思われた。
「ユキナガさん、こちらがこの世界であなたを迎え入れる団体の代表者様です」
自分がこれから世話になる人物を連れて来たらしいミッターの声を聞き、ユキナガは椅子から立ち上がった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ウェブ小説家見習いの第117回医師国家試験受験記録
輪島ライ
エッセイ・ノンフィクション
ウェブ小説家見習いの現役医学生が第117回医師国家試験に合格するまでの体験記です。
※このエッセイは「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※このエッセイの内容は一人の医師国家試験受験生の受験記録に過ぎません。今後国試を受験する医学生の参考になれば幸いですが実際に自分自身の勉強法に取り入れるかはよく考えて決めてください。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
Beyond Labels 〜ラベルを超えて〜
古波蔵くう
恋愛
「Beyond Labels」は、発達障碍を持つ輝と、目立たないが優しい悠斗の出会いから始まる物語です。彼らは合唱コンクールで出会い、輝の母親からの束縛や学校の偏見に立ち向かいながらも、互いに支え合い成長していきます。悠斗は教育の道を選び、輝は彼に告白し、彼らは未来への一歩を踏み出します。その間、差別や偏見に対する啓発活動や、輝の家庭環境の問題も描かれ、物語は発達障碍を持つ人々への理解と共感を呼び起こします。
RiCE CAkE ODySSEy
心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。
それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。
特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。
そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。
間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。
そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。
【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】
そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。
しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。
起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。
右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。
魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。
記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
十八歳・ふたりの限りなく透明な季節
香月よう子
恋愛
済陵高校の優等生、神崎純子は高校三年生に進級した。
二年生の時クラスメイトで片想いをしていた守屋君とは違うクラスになったが、想いは募るばかり。
受験と恋の間で心が揺れる純は、夏休み、彼のふとした誘いで同じ予備校に通うことになり……。
純と守屋君のピュアラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる