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その22 マン・マシン・インタフェース

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 東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。


「これが本学医学部生理学教室が開発中の新製品『おしえてまごころ君』なのよん。ヒトが考えていることを機械が自動的に出力してくれる、いわゆるマン・マシン・インタフェースの技術を医療に応用したものなのでーす」
「へえー、出力の仕組みはよく分かりませんけどとにかくすごそうな機械ですね。見た目はヘッドギアっぽいような……」

 ある土曜日の午後、私、灰田はいだ菜々ななは硬式テニス部仲間の三島みしま右子ゆうこちゃんとマルクス高校硬式テニス部員2名の合計4人で私立慶楼けいろう大学医学部の生理学教室を訪れていた。

 私たちに新開発された医療機器を紹介しているのは出羽でわののか先輩の従姉いとこである台場だいば街子まちこさんで、この大学の医学部医学科4年生である街子さんは学生でありながら以前から基礎医学研究に携わっているとのことだった。

「使い方はまさにヘッドギアで、この機械はヒトの頭に取り付けるとその人が考えていることを自動的に文章として出力してくれるの。これが実用化されれば重い病気や怪我のせいで話せなくなっちゃった患者さんとも会話できるようになるから頑張って被験者を集めてるって訳。まずは出力の正確性を検証したいからななちゃんみたいな大人しい女の子に来て貰ったのよねん」
「そういうことなら私もぜひ実験に協力したいです。ゆき先輩もお金が絡まなければ大人しい女の子ですし」
「あら、それならこの実験にも無償で協力すればよろしいのかしら? あまり気は進みませんけれど」
「いえっ、わたくしは有紀様と一緒に実験に参加したいです! いざという時は私が自腹を切りますから!!」
「右子ちゃんが腹を切るとかいうと文字通りになりそうだからちょっと……」

 マルクス高校から比較的常識人であるという理由で選ばれたのは硬式テニス部1年生の野掘のぼり真奈まなさんと2年生の堀江ほりえ有紀ゆきさんで、以前から堀江さんを尊敬していてファンクラブにまで入っている右子ちゃんはものすごくテンションが上がっていた。

 それはともかく実験は始まり、まずは野掘さんが街子さんの指示を受けてヘッドギアを被った。

「それじゃ、このかわいい猫ちゃんの写真を見て何でも自由に考えてね。本当に何でもいいからねん」
「流石にこの写真で変なこと考えられないですよ。いやーかわいい猫ですねー」

『何が猫好きだよこの野郎、世界一かわいい動物はげっ歯類なのにげっ歯類を食べる凶悪生物がかわいい訳ねえだろうがよ……猫カフェとか全部法律で規制して代わりにハムスターカフェを血税で全国に作れよ日本政府……』

「あああああああああ!! やめてええええええええ!!」
「野掘さん、これは意外というか過激というか……」
「面白い結果なのねん、じゃあ次ななちゃんで。ななちゃんが大好きな食べ物の写真を見て貰うからねー」

 今度は私が被験者になることになり、ヘッドギアを被って椅子に座った私に街子さんは濃厚煮干豚骨ラーメンの写真を見せた。

『最近ラーメンの記事でバリカタ頼む奴はにわかとか偉そうに語る評論家が多すぎるんだよなぁ……こちとら好きで毎回バリカタとかハリガネ頼んでるんだよ……別に初回来店でバリカタ頼んだっていいじゃねえかよ……文句言う奴はヤワメンにチャーハンでも付けてろよ……』

「いやあああああああ!! 違うんですうううううう!!」
「灰田さんのこだわりはよく分かったよ……」
「もぅー仕方ないなあー。じゃあとりあえず残る常識人のゆーこちゃんにお願いできる?」
「分かりました、私はまともな思考をお見せ致します」

 野掘さんと同じ穴のむじなだった私に不満をこぼしつつ街子さんは次の被験者に右子ちゃんを選び、右子ちゃんもヘッドギアを被って椅子に座った。

「何か特定のイメージがあるとあれみたいなんで今回は写真なしで行きます! 何でも好きなもののことを考えてねん」
「えっ、好きなものですか? 今それはちょっと……」

わたくし女色家じょしょくかではありませんが、堀江有紀様と一緒に森の中の丸太小屋に住みたいです。私たちは夜の営みをすることはないでしょう。しかし有紀様が背筋を引き締めながら木を切るとき、次第に汗ばむ上半身の肌着を台所の窓から見ていた私は密かに心の炎を燃やします。私は階段を上って』

「このような恥ずべき想像を知られては生きておられません!! 今すぐこの命をもってお詫び致します!!」
「わーこんな所で短刀ドス持ち出さないで!!」
「あら、わたくしはファンクラブ会員にここまで愛して頂けて嬉しいですわよ? 今度お礼に直筆サイン色紙をプレゼント致しますわ」

 いつものようにふところから取り出した短刀で切腹しようとした右子ちゃんを野掘さんと一緒に取り押さえつつ、私はヒトの思考をそのまま出力する技術はかなり危険なのではないかと思った。


 (続く)
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