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2020年1月 薬理学発展コース
258 再起不能
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クリスマスの夜に自分から山井理子に別れを告げた柳沢雅人は、自分自身の決断を後悔していた。
理子とは確かに感情のすれ違いがあったし自分とのキスを「柳沢君がしたい時は我慢する」と言われてしまったのはショックだったが、彼女は表現の仕方が上手くないだけだったのではないか。
そう思っていたから年明けの授業開始後に理子から再びメッセージが届き、ちゃんと会って話がしたいと書かれていた時は本当に嬉しかった。
理子がまとまった時間を取れる2020年1月15日水曜日の放課後、雅人は図書館前のロビーで彼女と落ち合った。
久々に会う彼女はいつも通りの動きやすくお洒落な服を着ていて、ボブカットも綺麗に整ったままだった。
集合時間の10分も前から待っていた雅人に理子は出会うなり深々と頭を下げた。
「柳沢君、この前はごめん! 私、柳沢君にひどい態度を取ってフォローになってないフォローまでしちゃった。本当にごめん」
「いや、ヤミ子先輩に悪意がないのはちゃんと分かってますよ。俺も気が動転してて、ついあんな返事しちゃったんで」
苦笑しながら言った雅人に、理子は表情を固まらせて口を開いた。
「つい……あ、そうだよね。柳沢君、私と別れる気はなかったんだよね」
「そうですけど……先輩、今日は仲直りしようって話じゃ……?」
理子の態度に再び不穏なものを感じ、雅人は心をざわつかせつつ尋ね返した。
「うん、私も、そのつもり……」
言葉を搾り出すようにしてそう答えた理子の姿に、雅人の心のガラスにヒビが入り始めた。
この場にとても居づらそうな彼女の様子を見て、雅人は覚束ない口調で、
「……先輩。本当に、俺と別れたかったんですか」
静かに尋ねた。
「…………」
黙っている理子に雅人は感情を昂らせながら言葉を続ける。
「前から気づいてたんですけど、先輩って俺のこと好きじゃないですよね?」
「そんなことないよ。私、柳沢君のことはちゃんと好き。……それは、本当」
「じゃあ、俺と解川先輩とどっちが好きですか?」
「えっ……」
言葉に詰まった理子に、雅人は感情を爆発させる。
「もし俺と解川先輩のどちらかとしか付き合えない、もう一人とは二度と会えないとして、先輩はどっちを選びますか!?」
「それならさっちゃん……あっ……」
即答した理子に雅人は心を打ちのめされた。
「ごめん……ごめん、柳沢君。私、ひどいことばっかり言ってる……」
理子は自分自身の本音に驚いた様子で涙を流し始めた。
人生で始めて見る理子の涙に、雅人は自分が彼女を強く責め立てていたことに気づいた。
「柳沢君は、私と仲直りしたくて、ここまで来てくれたのに。でも、私は……ううっ……」
理子は両手で顔を押さえて号泣し、雅人は自分が世界で一番好きだった人を誰よりも悲しませていると分かった。
「わたし、に、泣く資格なんて、ないのに……ごめんね、柳沢君……」
溢れ出る涙を両手でぬぐい、必死で笑顔を浮かべて頭を下げた理子を見て、
「先輩……うっ、うわああああああああああああああ!!」
雅人はついに正気を保てなくなり、叫び声を上げながらその場から逃走した。
何かに追われるように大学を飛び出しそのまま電車に乗り込んだ雅人は、自宅へと向かう車内で泣き続けた。
自宅に戻り自室のベッドに潜り込むと、雅人はスマホから理子につながる連絡先をすべて削除した。
写真部のグループチャットからも抜けると雅人はスマホを床に投げ出し、そのままベッドに潜って泣き続けた。
それからは毎日理子との破局のトラウマを思い返し死んだような目で大学に登校していた雅人は、自分が傷ついても何も変わらない日常に心を病んでいった。
そして、医学部2回生最後の定期試験を目前にして。
雅人は、大学に出てこられなくなった。
理子とは確かに感情のすれ違いがあったし自分とのキスを「柳沢君がしたい時は我慢する」と言われてしまったのはショックだったが、彼女は表現の仕方が上手くないだけだったのではないか。
そう思っていたから年明けの授業開始後に理子から再びメッセージが届き、ちゃんと会って話がしたいと書かれていた時は本当に嬉しかった。
理子がまとまった時間を取れる2020年1月15日水曜日の放課後、雅人は図書館前のロビーで彼女と落ち合った。
久々に会う彼女はいつも通りの動きやすくお洒落な服を着ていて、ボブカットも綺麗に整ったままだった。
集合時間の10分も前から待っていた雅人に理子は出会うなり深々と頭を下げた。
「柳沢君、この前はごめん! 私、柳沢君にひどい態度を取ってフォローになってないフォローまでしちゃった。本当にごめん」
「いや、ヤミ子先輩に悪意がないのはちゃんと分かってますよ。俺も気が動転してて、ついあんな返事しちゃったんで」
苦笑しながら言った雅人に、理子は表情を固まらせて口を開いた。
「つい……あ、そうだよね。柳沢君、私と別れる気はなかったんだよね」
「そうですけど……先輩、今日は仲直りしようって話じゃ……?」
理子の態度に再び不穏なものを感じ、雅人は心をざわつかせつつ尋ね返した。
「うん、私も、そのつもり……」
言葉を搾り出すようにしてそう答えた理子の姿に、雅人の心のガラスにヒビが入り始めた。
この場にとても居づらそうな彼女の様子を見て、雅人は覚束ない口調で、
「……先輩。本当に、俺と別れたかったんですか」
静かに尋ねた。
「…………」
黙っている理子に雅人は感情を昂らせながら言葉を続ける。
「前から気づいてたんですけど、先輩って俺のこと好きじゃないですよね?」
「そんなことないよ。私、柳沢君のことはちゃんと好き。……それは、本当」
「じゃあ、俺と解川先輩とどっちが好きですか?」
「えっ……」
言葉に詰まった理子に、雅人は感情を爆発させる。
「もし俺と解川先輩のどちらかとしか付き合えない、もう一人とは二度と会えないとして、先輩はどっちを選びますか!?」
「それならさっちゃん……あっ……」
即答した理子に雅人は心を打ちのめされた。
「ごめん……ごめん、柳沢君。私、ひどいことばっかり言ってる……」
理子は自分自身の本音に驚いた様子で涙を流し始めた。
人生で始めて見る理子の涙に、雅人は自分が彼女を強く責め立てていたことに気づいた。
「柳沢君は、私と仲直りしたくて、ここまで来てくれたのに。でも、私は……ううっ……」
理子は両手で顔を押さえて号泣し、雅人は自分が世界で一番好きだった人を誰よりも悲しませていると分かった。
「わたし、に、泣く資格なんて、ないのに……ごめんね、柳沢君……」
溢れ出る涙を両手でぬぐい、必死で笑顔を浮かべて頭を下げた理子を見て、
「先輩……うっ、うわああああああああああああああ!!」
雅人はついに正気を保てなくなり、叫び声を上げながらその場から逃走した。
何かに追われるように大学を飛び出しそのまま電車に乗り込んだ雅人は、自宅へと向かう車内で泣き続けた。
自宅に戻り自室のベッドに潜り込むと、雅人はスマホから理子につながる連絡先をすべて削除した。
写真部のグループチャットからも抜けると雅人はスマホを床に投げ出し、そのままベッドに潜って泣き続けた。
それからは毎日理子との破局のトラウマを思い返し死んだような目で大学に登校していた雅人は、自分が傷ついても何も変わらない日常に心を病んでいった。
そして、医学部2回生最後の定期試験を目前にして。
雅人は、大学に出てこられなくなった。
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