227 / 338
2019年12月 生理学発展コース
227 気分は里帰り
しおりを挟む
特急の松山駅に降り立った僕と壬生川さんは駅前の乗り場に停まっていたタクシーに乗り込んだ。
時刻は既に13時を回っており、そろそろ昼食に何か食べたい気もしたがとりあえずは目的地を目指すことにした。
「この住所までお願いします」
「分かりました。ここからなら早いですよ」
2つのトランクをタクシーの後部スペースに押し込むと、僕は運転手さんにスマホの画面を見せて実家の場所を伝えた。
松山駅から実家までは歩くと25分ほどかかるがタクシーなら10分足らずで移動できる。
「お2人とも、この時期に松山まで来たっていうと里帰りですかね?」
「ええ、お互い大学生で地元が同じなので」
「そうなんですか、いやーお若い!」
壬生川さんの返答に気さくな中年男性の運転手さんはかっかっかと笑いながら言った。
「大学生というと、どういった所に通われてるんです?」
こういう時に必ず出る質問に、僕は右隣の壬生川さんに目くばせすると、
「医療系の学部に通ってます」
とだけ伝え、運転手さんはなるほどと短く相槌を打った。
東京や大阪のような都会には社会的なステータスで医師を上回る仕事がいくらでも存在するが、愛媛県のような地方では医師よりもステータスが高いと世間的に見なされる仕事がほとんど存在しない場合が多い。
そういった環境では医学生に敬意を持つ人々と嫌悪感を持つ人々とが二極化しがちであり、地方出身者の僕はこういった場面ではあえて医学生と名乗らないようにしていた。
壬生川さんも僕の意図は理解してくれたようで、それからは運転手さんと世間話だけをしているとタクシーはあっという間に僕の実家へと着いた。
運転手さんに僕からお金を払い、トランクを下ろして一軒家の玄関先まで歩く。
「ここがあんたの実家なのね。初めて来たけど、ここなら私の昔の家から歩いて5分ぐらいね」
「そうなんだ。やっぱり同じ中学校だっただけあるね……」
壬生川さんのコメントに答えつつ、僕は1年ぶりに帰った実家が様変わりしていることに気づいた。
一軒家の駐車場にいつも停まっていた水色のレイアスの姿がなく、明らかに古びた白い普通車が停まっている。
ヨトダの高級国産車レイアスは母のお気に入りの車種で、出かける時はいつもレイアスに乗っていたはずだ。
「じゃあインターホン鳴らしてくれる?」
「あ、うん、すぐやります」
駐車場を見て硬直していた僕に壬生川さんが行動を促してきた。
インターホンを鳴らすと母はさっさと出てきて、玄関扉を開けるなり、
「あらー、新婚さんみたいね。いらっしゃいませ、かわいい彼女ちゃん」
しっかりと化粧をした顔で明るく言った。
「塔也君と交際させて頂いています、壬生川恵理と申します。こちらこそよろしくお願いします」
そう言ってぺこりと頭を下げた壬生川さんに、母も笑顔で会釈していた。
時刻は既に13時を回っており、そろそろ昼食に何か食べたい気もしたがとりあえずは目的地を目指すことにした。
「この住所までお願いします」
「分かりました。ここからなら早いですよ」
2つのトランクをタクシーの後部スペースに押し込むと、僕は運転手さんにスマホの画面を見せて実家の場所を伝えた。
松山駅から実家までは歩くと25分ほどかかるがタクシーなら10分足らずで移動できる。
「お2人とも、この時期に松山まで来たっていうと里帰りですかね?」
「ええ、お互い大学生で地元が同じなので」
「そうなんですか、いやーお若い!」
壬生川さんの返答に気さくな中年男性の運転手さんはかっかっかと笑いながら言った。
「大学生というと、どういった所に通われてるんです?」
こういう時に必ず出る質問に、僕は右隣の壬生川さんに目くばせすると、
「医療系の学部に通ってます」
とだけ伝え、運転手さんはなるほどと短く相槌を打った。
東京や大阪のような都会には社会的なステータスで医師を上回る仕事がいくらでも存在するが、愛媛県のような地方では医師よりもステータスが高いと世間的に見なされる仕事がほとんど存在しない場合が多い。
そういった環境では医学生に敬意を持つ人々と嫌悪感を持つ人々とが二極化しがちであり、地方出身者の僕はこういった場面ではあえて医学生と名乗らないようにしていた。
壬生川さんも僕の意図は理解してくれたようで、それからは運転手さんと世間話だけをしているとタクシーはあっという間に僕の実家へと着いた。
運転手さんに僕からお金を払い、トランクを下ろして一軒家の玄関先まで歩く。
「ここがあんたの実家なのね。初めて来たけど、ここなら私の昔の家から歩いて5分ぐらいね」
「そうなんだ。やっぱり同じ中学校だっただけあるね……」
壬生川さんのコメントに答えつつ、僕は1年ぶりに帰った実家が様変わりしていることに気づいた。
一軒家の駐車場にいつも停まっていた水色のレイアスの姿がなく、明らかに古びた白い普通車が停まっている。
ヨトダの高級国産車レイアスは母のお気に入りの車種で、出かける時はいつもレイアスに乗っていたはずだ。
「じゃあインターホン鳴らしてくれる?」
「あ、うん、すぐやります」
駐車場を見て硬直していた僕に壬生川さんが行動を促してきた。
インターホンを鳴らすと母はさっさと出てきて、玄関扉を開けるなり、
「あらー、新婚さんみたいね。いらっしゃいませ、かわいい彼女ちゃん」
しっかりと化粧をした顔で明るく言った。
「塔也君と交際させて頂いています、壬生川恵理と申します。こちらこそよろしくお願いします」
そう言ってぺこりと頭を下げた壬生川さんに、母も笑顔で会釈していた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
医クラちゃんドロップアウト
輪島ライ
青春
医クラちゃんは日本のどこかにある私立医大に通う医学生。ネガティブな彼女の周りにはいつも残念な仲間たちが集まってきます。
※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ウェブ小説家見習いの第117回医師国家試験受験記録
輪島ライ
エッセイ・ノンフィクション
ウェブ小説家見習いの現役医学生が第117回医師国家試験に合格するまでの体験記です。
※このエッセイは「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※このエッセイの内容は一人の医師国家試験受験生の受験記録に過ぎません。今後国試を受験する医学生の参考になれば幸いですが実際に自分自身の勉強法に取り入れるかはよく考えて決めてください。
医のことば ~医学生と医大生と医学部生と医療系学生~
輪島ライ
エッセイ・ノンフィクション
医学・医療の分野に数多く存在する紛らわしい「ことば」を解説するエッセイです。
※このエッセイは「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※このエッセイの内容は2024年現在初期研修医である筆者の独自研究に基づいています。
※このエッセイは医学・医療に関連する用語の正確な定義や用法を解説するものであり、疾患の治療法など医学・医療の科学的な事項について述べるものではありません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる