気分は基礎医学

輪島ライ

文字の大きさ
上 下
146 / 338
2019年8月 病理学基本コース

146 ゲームセンター恋の嵐

しおりを挟む
 そのまま「クレナイ」の勧めでプレイヤーカードを作成し、気づくと龍之介は今日初めて遊ぶアーケードゲームに1000円近くつぎ込んでいた。

「どうだ、面白いだろ? そういやそろそろ腹減ってきたな。せっかくだし飯でも行くか?」

 そう言われて時計を見ると時刻は既に17時を回っていた。

 まだ夕食には少し早い時刻だが、今から父に連絡すれば外で夕食を済ませてきても問題のない時刻でもある。

「そうだね、ボクもご一緒します。今日はこんなに面白いゲームを教えてくれてありがとう」
「何、気にするなよ。オレも君とは仲良くなってみたかったんだ」

 「クレナイ」はそう言うと座席を立ち、鋭い眼光で龍之介の顔を直視した。

 つかみどころのない彼の態度に龍之介は若干の不審さを感じつつも、彼に何とも言えない魅力を感じている自分に気づいた。


 ゲームセンターを出てすぐ目についた定食屋に入り、龍之介は「クレナイ」とようやくお互いに自己紹介をした。

 彼の名前はくれ公祐こうすけといって現在21歳で龍之介と同い年。

 驚いたことに彼も医学生で、枚方市にある京阪医科大学の医学部医学科3回生だった。

「へえ、お前も医学生なのか。しかも畿内医大っていうとオレと立場近いじゃねえか」
「そうだよね。ボクは滋賀県の大津から大学に通ってるんだけど、呉君はどこから大学に通ってるの? それとも下宿生?」
「俺は実家もこの辺で、アゾールにはよく遊びに来てるんだよ。お前のことは前から見かけてたけどまさかお互い医学生とはな。人生面白いもんだ」

 それから頼んだ定食が届いて、龍之介と公祐は大学の話やゲームセンターの話で盛り上がった。


「いやー、今日は本当に楽しかったよ。連絡先も交換したしよかったらまたゲーセンで遊ぼうぜ。これも何かのよしみだろうし」
「ボクの方こそぜひお願いしたいです。あのバクレツ少女前線ってゲーム、女の子はかわいいしゲームシステムも面白いけど何より協力プレイが楽しいからね」

 龍之介が笑顔でそう言うと公祐も満足した表情で頷いた。


 お互い定食を食べ終えてJR京都駅前で解散しようとした時、公祐は道の端で突然立ち止まった。


「そういえば薬師寺、お前に一つ聞きたいことがあるんだけど」
「どうしたの?」

 突然の申し出に首をかしげた龍之介に、公祐は真剣な表情で、


「はっきり聞くけど、お前ホモだろ?」

 全く動じない口調のままそう言った。


「えっ……」
「男なのに相当ファッションに気を遣ってる、俺の身体に注目してる、セクシーなバクレツ少女を見ても顔色一つ変えない。そして何より、お前はかわいい」

 龍之介を同性愛者だと断定した根拠を述べつつ、公祐はニヤリと笑った。


「いきなり何を言うんだよ、ボクは別に、そんな、ホモなんかじゃ……」
「あー、いや心配しなくていいんだ。だってさ」

 慌てて抗弁する龍之介に、公祐は再び右手を龍之介の肩にポンと置くと、


「オレも、同じだからな」

 その一言を口にして、そのまま笑顔で手を振って歩いていった。


 風のように現れて竜巻のように去っていった公祐の背中を見送りながら。

 龍之介は自らの心の中に、恋の嵐が吹き荒れ始めるのを感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

処理中です...